第32話 問題解決の為に

 どうにかこうにか逸れた話題を元に戻し、俺はリーリエ達から事の経緯を全て聞く事が出来た。


「突発的に起きた魔法の暴発、か……」

「はい……途中までは、本当に順調だったんですけど」


 リーリエ達の報告を聞いて、俺は顎に手を当て思案する。

 今回のケースの妙な所は、以前魔力測定の際に起きた単純な魔力の暴走とは違い、既に構築した魔法が直前で制御不可に陥った点だ。

 発動させようとしたのは、基本的な火属性魔法の内の一つである【火炎フラーガ】。難易度も高くなく、加えて魔力もかなり絞った状態だったにも拘らず起きた、予期せぬ出来事だったらしい。


「聞きたいんだけど、昨日の勉強会とやらの成果はどの位だったんだ?」

「不足無しです。特殊ではありますが、ラトリアさんには元々【六華六葬六獄カタストロフィー】と言う魔法を発動させるだけの知識はありましたし、ワタシ達が書物と照らし合わせながら教えた単一属性に絞った魔法行使の基本や応用についての話も、すんなりと理解して吸収してくれましたから」

「せやね。実際、詠唱一歩手前まではうち等が教えた事を忠実に守って、六つの属性の内から火属性のみを取り出して陣の構築まで漕ぎ着けた訳やし」

「成程。当然だが、前段階に不備は無かった訳か」


 なら、尚更腑に落ちないな。リーリエとコトハは独学で自作魔法オリジナルを作り上げる程の使い手だし、アリアは現役では無いとは言え昔は赤等級スレイヤーとして活躍していた身で、魔法に対する造詣も深い。先程の風魔法も見事な物だった。講師陣としては、リーリエ達に文句の付けようは無いだろう。

 そのリーリエ達が太鼓判を押したのだから、ラトリアの方も万全だったのだと思う。しかし、実際にはリーリエ達ですら予想出来なかった異常事態イレギュラーが発生した……ぶっちゃけ、魔法に疎い俺ではそんな整った状態から暴発に至った理由が皆目見当もつかん。

 俺の頭がこんがらがり始めていた時……ふと視線を動かすと、しょんぼりと肩を落としているラトリアの姿が目に入った。


「どうした、ラトリア。そんなに肩落として」

「……もっと、ゆっくりやった方が、よかったのかなって。やっぱり、今まで一つしか魔法が使えなかったラトリアじゃ、そんな直ぐには……」

「ていっ!」

「んぎゃ!?」


 どんどん声が小さくなっていくラトリアの頭に、俺は軽く手刀を落とした。頭を押さえながら、「いきなり何をするのか」と言った目つきで俺を見て来るラトリアの頭に、その小さな手の上からポンポンと優しく手を置いた。


「すーぐそうやって自分を責める……悪い癖だ、直せ。俺の予想だけど、ラトリアは俺達が魔法を教えるって言った時、出来るだけ早く覚えようと思ったんじゃないか? 自分の為でもあるし、……違うか?」

「…………」


 沈黙は肯定である。本人が否定しないのなら尚の事疑う余地は無い……俺は話を続けた。


「ラトリア。その誰かの為に努力する姿勢は間違っていねぇよ、寧ろ誇れ。それに、直ぐに行動を起こしたのは間違っていない。リーリエ達が伝えてくれた知識を、新鮮な内に目に見える自分の力に変えようとした積極性も、また良し」


 知識とは、鮮度が命だ。頭に叩き込んだのなら、濁る前に即その知識を生かしたアクションを起こし、その知識が間違っていない事を証明する。

 そうする事で、きっちりとコーティングが施され正しい知識として記憶の引き出しに仕舞われる……これは、俺が魔の山で十年過ごした中で得た絶対的教訓だ。


「まぁつらつらと能書きを垂れた訳だが、つまり何が言いたいかっつったら……ラトリアが気に病む事なんか何一つ無いし、俺等もそれを責めるつもりも無けりゃ迷惑に思う事も無いって事だよ」


 そう言って、俺はリーリエ達へと視線を移す。皆、一様に力強く頷いてくれた……ホント、いい女に恵まれたよなぁ、俺。

 俺が頷き返した時、不意に腹にトンと何か軽くて柔らかい物が当たった。視線を落とせば、そこには俺のタンクトップを握り締めて腹筋に顔を埋めているラトリアの姿があった。

 今日はクエストに行く予定も無かったから防具は付けてないけど……だ、大丈夫? そこ硬くない?


「ふっ、ぐ……あ、ありがと、ぅ……」

「お、大丈夫か?」


 顔をくっつけながら嗚咽を漏らし始めたラトリアに、俺は混乱する。はて、何か変な事言ったかな……至極当然の事を言っただけなんだが。


「ぃ、今まで……ラトリアは、そんな風にいわれた事、なかった……だ、だから、嬉しぃ」

「……そうか。なら、これからバンバン褒めてやる。勿論、叱る時だってあるだろうがな」


 ぐしぐしと泣いたままのラトリア。こりゃ、これ以上本人の口から話を聞くのは無理だな……てか、無粋だ。

 にしても、今まで言われた事が無いって何だよ……あんま悪く言いたくは無いが、親は一体どんな育て方してきたんだ。

 まあ兎に角、今はリーリエ達から全部聞こう。多分、何が原因で起きたのか見当は付けている筈だ。

 そう結論付け、改めてラトリアから視線を外すと……そこには、まじまじと俺とラトリアを見ている三人の姿があった。


「な、何だよ」

「いえ……やっぱり、何だかんだ言ってムサシさんって凄く大人なんだなって」

「えぇ。何と言いますか、きちんと人に言い聞かせる事が出来る人と言いますか」

「締める所はこうやってちゃんと締めるんやもんなぁ……惚れ直したよぉ?」


 マァジでぇ!? やったぜ、まさかここまで褒められるとは思わなかった……俺のこう言った価値観って言うのは、元々持っていた物以外にも親の影響を受けた部分が大きくある。それが、年月を経ても変わらずにより強固になっただけだ。そう考えると、俺の親父殿やお袋殿は子供だった俺にとって偉大な存在だったんだなと思う。

 つまり、そんな俺の行動を褒められたって事は今は遠い世界に居る親の事も褒めて貰ったって事に繋がる訳だ……やべ、小躍りしたい。

 しかし、そんな事をすれば折角のこの空気が台無しになるので、絶対にしない。今日はこのまま理知的な筋肉でいくぜぇ!


「いいぞ、存分に惚れ直せ……さて、ラトリアは今ちょっと喋れないから、皆に聞きたい。一体何が原因で、今回の事が起こったと思う?」


 ラトリアの頭に手を乗せたまま、俺はリーリエ達に問う。

 兎にも角にも、この事態が起きた根本的要因を探らなければならない。それを突き止めないと、再チャレンジしても二の舞になるだけだ。


「……私に、思い当たる節があります」


 そう口にしたのは、リーリエだ。他の二人も、当時の状況を思い出した様に口を開いた。


「そう言えば、ワタシ達の中で真っ先に動いたのはリーリエでしたね」

「その口ぶりやと、何か不自然な点があったみたいやねぇ」

「はい」


 そう言って頷くと、リーリエは静かに説明を始める。俺とアリアとコトハは、一字一句聞き逃さない様にその言葉に耳を傾けた。


「あの時、私はラトリアちゃんの魔力の動きをより深くまで注視していました。その魔力なんですけど……魔法を発動させる直前に、火属性以外の五属性が急激に【火炎フラーガ】の魔法陣に流れ込み始めたんです」

「火属性の魔法陣に、他の属性が……」

「それは、危険やね」

「はい。私が補助属性である闇魔法に光魔法の【加算アディション】を書き込むのとは訳が違います。基本属性と言うのは攻撃性能が高い代わりに、他の属性と混ざるとそれだけで不安定になって……暴発に、繋がり易くなります」

「……うちは雷属性一つしか使われへんけど、アリアはん的にはどうなん?」

「確かに、リーリエの言う通りです。ワタシも現役の頃風属性と氷属性を同時に使う事はありましたが、必ず魔力も魔法陣も完全に分離させて扱っていました。魔力の消費は激しくなりますが、暴発させる訳にはいきませんから」


 成程。この中でラトリア以外に基本属性、それも二つ以上を扱えるアリアがそう言うなら間違い無いんだろう……てか、平然と同時行使とか言ってますね。何だか、俺の周りの女性陣は揃いも揃って魔法のレベルが高い、高くない?


「しかしリーリエ、あの時ラトリアさんの魔力操作は完璧でしたよね?」

「はい。私も、このまま問題無く行けると思ったんですけど……正直に言って、かなり不自然な魔力の噴出でした。まるで表に出ていた火属性に上、ラトリアちゃんの制御下から離れていましたから……もしかすると、六曜を宿せし者エクサルファーであるラトリアちゃんの六属性を、個別に引き出すのは難しい事なのかもしれません」

「魔力同士の結び付きが強い、って事やろか……それやと、最初の“六属性それぞれの簡単な基本魔法を一つづつ教えていく”って方針が使えへんくなってまうなぁ」

「ええ。かと言って、【六華六葬六獄カタストロフィー】の様な六属性混合魔法なんて聞いた事がありませんし、第一それでは魔力消費を抑えて手札を増やすと言う目的が根本から覆されてしまいます」


 どうしたものかと論じ続けているリーリエ達を見ながら、俺は思う……駄目だ、全く話について行ける気がしねぇ!!

 取り敢えず俺でも分かったのは、ラトリアは恐らく全部の属性がくっ付いててそれを引き離すのは至難の業かもしれんと。でもそれが出来ないと六属性それぞれの魔法が使えんと……それ位しか、分から――。


(……待てよ? 六属性を引き離す事が出来なくて、個別の属性の魔法が使えない。しかし、だからと言って魔力消費が激しい六属性混合魔法を新たに覚える訳にもいかないし、そもそもそんな魔法は聞いた事が無いと来た。でも、今までの話を聞く限りラトリアは魔法陣を作る前の魔力操作と調整は出来る……だったら、使


 ビビッと俺の脳内にある閃きが走った。これが本当に使えるかどうかは分からないが、やってみる価値はある。


「みんな、聞いてくれ……俺 に い い 考 え が あ る」

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