第15話 性なる邪眼、発現

 村に到着したのは、リーリエの予測通りの時間だった。陽は既に沈み、村内に敷かれた道沿いに設置された木柱に吊るされた魔導機灯ランタンと、家々から漏れる光が辺りを照らし出す。

 村の入り口付近にある停留所で、俺達は荷物を纏めて馬車から下りる。先ずはスレイヤーの駐屯所に行って、宿泊する場所を確保するか。その後に鉱夫の人達を探して、話を聞いたら飯を……。


「ムサシ……待って」


 直近の予定を頭の中で組み立てながら歩き出そうとした俺を、背後からラトリアが呼び止める。おっと、つい一人で行っちまう所だった。


「あぁ、悪い悪い。考え事してたら――」


 くるりと後ろを振り向けば、そこにはラトリアと……ラトリアの肩を掴んでガクガクと脚を震わせながら辛うじて立っているリーリエとコトハの姿があった。


「……二人とも、どったの?」


 まるで生まれたての小鹿の様になっているリーリエとコトハに問い掛けると、二人はキッとした眼つきで俺の顔を見てきた。やめろ、興奮する。


「い、一体誰の所為だと……!」

「ほんまっ……白々しい男やわぁっ……!」


 恨めしそうに俺を睨み付けるリーリエとコトハは、若干涙目だ。息も上がってるし、心なしかその吐息には艶がある……はい、どう考えてもお仕置きと言う名のセクハラの影響ですね。ゴメンチャイナタウン。

 ホントは、数分で開放するつもりだった。だが、ヤられてる最中の二人の顔が……と、ね。

 そこでムラっときて、調子こいた結果村に着く直前までぶっ通してしまったんだなこれが。後半は、もう声を漏らす余裕も無かったみたいだった。

 ラトリアはと言えば、おっ始めてから終わるまで、終始興奮した様子だった。挙句の果てにはノートらしき物をアイテムポーチから取り出し、二人の様子を観察した結果を書き始める始末……ラトリア君、その調査結果は後で俺にも見せる様に。


「やめて欲しかったならもっと早く教えてくれよ。俺だって二人が本気で嫌だったなら手ぇ止めたぞ?」


 それこそ、引っ叩くか何かして貰えれば俺は即座に開放していた。これは嘘では無い、リーリエ達に本気で嫌われたら立ち直れなくなりそうだし。


「そ、それは……その」

「こ、声を抑えろって言ったのはムサシはんやん!」

「抵抗するなとは言ってないがな、物理的抗議でも何でもあるやんけ……つーか、二人とも途中で手を緩めても俺の体にしがみ付いたままだったじゃねぇか。逃げれるのに逃げなかったら、そりゃ続行するよ」

「「う……」」


 俺がそう言うと、二人ともバツが悪そうに目を逸らす。何だこりゃ、今の俺の言葉にこの反応って事は……?


「……もしかして、めっちゃ気持ち良くて止めて欲しくなかったとか? なーんっつって」


 冗談めかして俺がそう言うと、リーリエとコトハの顔が一瞬で茹蛸になった。あ、図星……な、なんかゴメン。すまんかった。

 しかし、俺の心の中での謝罪は全く意味が無かった。それどころか、俺はさっきの一言で二人の境界線ボーダーラインを土足で跨いでしまったらしい。

 ゆらり、と二人がラトリアの肩から手を離す。まだ脚は震えているが、それでも何とかその場に立ち――それぞれの得物へ、手を掛けた。


「ちょ、ちょい待ち! 悪かった、俺が悪かったって!」


 魔導杖ワンドに白と黒の光を纏わせるリーリエと、雷桜らいおうにバチバチと雷を迸らせ始めたコトハを見て俺は必死に頭を下げる。ヤバい、このままだとえらい目に遭わされる!!


「……もう」

「ん?」

「もう、今日みたいな事はしないって約束出来ますか……?」

「出来はるよね? ムサシはんなら……」


 鬼気を纏いながらそう尋ねて来る二人に、俺は即座に返答した。


「あ、それは無理」


 そう言った瞬間、場に満ちていた魔力らしき気配の密度がぐん! と上がった。ラトリアは既に二人の元から離れ、俺の背後に隠れている。

 いやだって、嘘は吐けないよ……ところでラトリアさんや。そこに居られると、リーリエとコトハの鉄槌を甘んじて受ける事が出来ないんだが……。

 ちらりと、俺は二人の顔を見る。うん、アレ言葉通じる状態じゃねぇわ。つまり、俺はラトリアの身に被害が及ばない様にする為――防衛手段を取らざるを、得ない。

 しかしどうする? まさか物理的ダーメジを与える訳にもいかんし……俺が思考を巡らせた時、不意に辺りの景色が流れる速度がゆっくりになり、色を失った。

 これは、俺の神経が研ぎ澄まされた時の状況……えっ、そんなに追い詰められてんの俺?

 困惑していた時、俺の視界に有り得ない物が映し出された。それは、言ってしまえばの様な物。灰色の世界において、その黄色い光は「ここを狙え」と言わんばかりにリーリエとコトハの体にスポットを表示する。

 恐らく、俺にしか視えていない物だ。しかし成程、そこを突けと言う訳か……俺がそれを理解すると、更に目印が出現する。しかし、追加で現れたビーコンは……他とは全く違う物だった。

 他が黄色い点であるのに対し、それは……だった。それも、やたら凝った装飾が施されてゆらゆらとピンクに明滅するヤツ。

 この時点で相当おかしいが、そのやべー位にいかがわしい紋様がある場所もまた、ヤバかった。


(えっ……ちょっと待ってくれや、そこは結構場所だぞ!?)


 俺の心に、大きな迷いが生まれる。しかし、それを無視するかの様に遂に蛍光緑のターゲットカーソルらしき物まで現れやがった!

 世界が速度と色彩を取り戻し始めたのを見て、俺は決断する。今は、コレに従おうと。そして、≪ミーティン≫に帰ったら治療院に行って、エイミーさんに診て貰おうと。患部は、当然このどうしようもないである。



 ――Have a nice t良い旅をrip,Good luck幸運を祈る!――



 余りにも無責任な事をぬかしやがった筋肉の神に悪態を吐くよりも速く、俺は再起動した世界で迅速に行動を起こした。


「【グラビ――!?」

「【参式さんしき――!?」


 正気を失ったリーリエとコトハが詠唱をするよりも速く、俺は動く。

 ひゅっ、とラトリアの前から姿を掻き消し、次の瞬間には二人の目の前に移動する。そして、羞恥に染まった乙女達が俺に反応するより前に、素早くその場にしゃがみ込んだ。

 眼前には、二人の下半身。その防具に覆われた脚へと俺は狙いを定め――、と、それぞれの太腿に浮かんだ黄色いスポット目掛けて、右手と左手の人差し指を突き立てた。

 リーリエにはそのまま布製のグリーブの上から、コトハには色白の素肌が剥き出しになっている所へ、絶妙な力加減で叩き込まれる突っつき攻撃。

 それを、俺は両足にキッチリと行う。秒間二発の早業に加えて、止めとばかりに最後の一撃ラストショットを、これ見よがしに発光するハートの紋様がある場所――に、つんと打ち込んでやった。



「ふぁっ♡」

「んゃっ♡」



 その瞬間、周囲に満ちていた魔力が一気に霧散する。そうして一拍置いた後、二人の手からそれぞれの得物がするりと抜け落ちて、乾いた音を立てて地面へと転がった。

 やったか――? 俺は恐る恐る下から二人の顔を見上げると、その翡翠色と緋色の双眸と視線が交錯した。そして……。


「「――~~~~~~~~ッッッッ!!??!」」


 まるで電撃が走ったかの様にリーリエとコトハが体を大きく一度痙攣させると、そのまま力無く俺へと倒れ込んで来た。


「っとぉ!」


 二人が地面に突っ込まない様に、俺はその体をしっかりと抱き留める。うーん、素晴らしい抱き締め心地だ素晴らしい。

 取り敢えず、無力化には成功したらしい。これ以上やるとガチでぶっ殺されそうなので、もう追撃は加えない様にしよう。


「おーい、二人とも生きてっかー?」

「「…………」」


 俺の問いに、リーリエとコトハは答えない。代わりに返って来るのは、ピクピクという痙攣ばかり。これ、完全に腰砕けになってるな……しまった、思ったよりも効き過ぎたらしい。これじゃ歩行は無理だ。


「す、すごい……今、なにをやったの?」


 さてどうしたもんかと考えていると、とてとてとラトリアが俺達の元へと駆け寄って来る。一旦収まったと思ったが、今の光景を見てその深蒼の瞳にはキラキラとした輝きが舞い戻って来ていた。


「あー、うん。その辺はまた今度教えるよ……ラトリア、とりまスレイヤーの駐屯所に向かうぞ。ちゃっちゃと部屋を確保して、二人を休ませんといけん」

「む……ちゃんと後で教えて、ね?」


 そう念を押して来るラトリアにはいはいと返しながら、俺は気絶した二人を抱き上げる……今更だが、これ後がメッチャ怖い。俺の自業自得だけどな!


 ◇◆


 駐屯所に着いた俺達は、手早くそこの職員にクエストでここまで来た事等を話して、手続きの後に駐屯所内の宿泊用の部屋を手配して貰った。俺達の様子を見た職員や常駐しているスレイヤー達の顔が、何かやべーやつ等を見た様に引き攣っていたのが忘れられない。

 一応全員分の部屋は用意されたのだが、リーリエとコトハの状態を考慮して一旦一つの部屋へと連れて行き、二人をベッドへと横たえた。完全回復まではまだそれなりに時間が掛かりそうだから、一先ずはここで一緒に休んで貰おう。


「うし……じゃあ、俺はちょっと出て来るぞ。村の酒場に鉱夫達が入り浸ってるらしいから、そこで聞き込みしてくるわ」

「うん……分かった。二人の事は、任せて」


 そう言って、ラトリアはその体に似つかわしくない凶悪なたわわを揺らしながらフンスと胸を張る……何か、俺の周りって乳デケぇ女性ばっかりだな。眼福だからいいけど。


「おう、任せた。何かあっても直ぐに飛んで来るから、あんま気張らずにな」


 その言葉を最後にして、俺は部屋を後にする。さて、目指すは酒場……いい情報が入るといいがな。

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