第9話 いっぱい食べるムサシとラトリア
ギルドでのガレオへの報告、アリアのラトリアに関するスレイヤー関係の申請手続きの処理が終わり、≪月の兎亭≫に二人で帰ったのだが、飯時を過ぎてもリーリエ達は帰ってこなかった。
嫌な予感とかは別にしなかったのでそこまで心配していなかったが、日が暮れていたと言うのもあったので、一応街中に残っていた気配と匂いを追っかけて俺が迎えに行った。
市場を経由し、辿り着いたのは≪シェイラ服飾店≫。どうやら、市場での買い物を済ませた後にここでラトリアの服を見繕っていたらしい。
確かに、私服は必要……なのか?
が、しかしである。リーリエ達が時間を掛けて選び、ラトリアも納得のデザインのその服は……やたらロリロリしい服だった。
鉄紺色の生地をベースにし、余す事無く端の部分に白いフリルがあしらわれたワンピに同じ様なフリルが施されたロングプリーツのスカート。足元は少しダボっとしたソックスに、濃いブラウンの可愛らしい革製のペタンコ靴を履いていた。
更に加点ポイントとして、袖口は所謂“姫袖”と言われるデザインで、頭はボリュームのあるツインテールの結ぶ位置を襟付近まで下ろし、またしても端にフリルが付いているふんわりと頭を包み込む感じの帽子を被っている。
しかもこの帽子……猫耳っぽいデザインが組み込まれており、これがまたラトリアに似合うんだな!
これら全部でワンセットらしい。よくよく聞けば、この服は全てシェイラの手作りだと言うのだから更に驚きだ。案外、シェイラはこういう可愛い服が好きなのかね。
そして……何と言うか、この服はある意味コトハの私服と同じベクトルの服だと思う。いや、別にエロいデザインとかそういう訳では無い。露出してる部分なんて頭と辛うじて見える手先、ソックスとスカートの間から僅かに見える足首位なもので、それ以外は隙間なく覆われているし。
ただ、これはラトリアじゃないと似合わないだろうなと思わせる意匠の服なのだ。そう言う意味で、コトハの私服と同じなんじゃないかと。アレもコトハだけが百%のパフォーマンスを発揮出来る服だし。
んで、今まではこの服を着るに相応しい人間が中々居なかったらしいが、そこに彗星の如く現れたのがラトリアだったという訳だ。運が良いというか、タイミングが良いというか……兎にも角にも、このロリータ&ゴシックな服が、ラトリアの私服になった訳である。
これは余談になるが、買った私服にラトリアが着替ようとした時、凄ぇ血走った眼付きのシェイラに服を剥ぎ取られそうになったらしいが、ラトリアが頑なに固辞し一人で着替えたらしい。シェイラめ、ロリコンでござったか……。
とまぁ、そんな感じで私服に着替えたラトリアも連れて≪月の兎亭≫まで四人で帰って来たのだ。そこからは、改めて全員揃った状態で晩飯と言う運びになった。
丸テーブルを囲んで皆で食べる食事と言うのは、また格別である。いつもの如く俺はアホみたいな量の飯を食らっている訳だが……その正面に、
「はむっ、はむっ!!」
「ら、ラトリアちゃん……もうちょっとゆっくり食べよう? あぁほら、服も汚れちゃうから」
折角の姫袖をガッツリと捲り上げ、猛烈な勢いで具沢山の熱々シチューをスプーンで食らうラトリアと、その隣でハラハラとした様子で見守るリーリエ。
うん、薄々感じてはいたが今確信したわ。間違い無くラトリアの飯に対する想いは俺と同じレベルの強烈さだ……負けていられねぇぜ。
「らとりふぁ、お前美味ふぉうに食うなぁ!」
「はいはい、ムサシさんも落ち着いて食べましょうね。口元が汚れていますよ」
「むぐぐ……」
極厚の肉を口に運びながらラトリアを眺める俺の口を、右隣からアリアが拭いてくれた。それと入れ替わる様にして、今度は左側からコトハがベイクドポテトを箸で俺の口元へ運んでくる。
「はい、ムサシはん。あーん♪」
「あーん……美味いッシュ!」
ステーキを飲み込んでから、空いた口で差し出された芋に食らい付く。野菜もちゃんと取らないとな!
「……コトハさん、次はワタシが」
「あ! わ、私も!」
「はいはい、交代しながらやね」
どの順番で俺に餌付けするかでキャッキャしている女性陣を見て、俺は思う。
――これ、色々とアカンのとちゃうか? いや、嬉しいけど二十八の筋肉おじさんがされるには中々キツイ絵面だぞ? てかこれ、複数の女性を侍らせてるダメ男の見本みたいじゃねーか!
いかん、いかんぞこれは。もうちょい品格のある立ち振る舞いという物を……まぁいいか。美味しいから大丈夫だろ、多分。
「ムサシ。ばかすかアタシの飯を食うのは良いけど、ちゃんと余力は残しておくんだよ?」
厨房の奥から出て来たアリーシャさんが、呆れた様な口調で俺に注意してくる。それを聞いて、俺は口の中に残っていた食い物を飲み込んでから答えた。
「大丈夫っすよ、俺の胃袋はまだまだ広がるんで!」
「ハァ、そうかい……今テーブルに乗っている料理で最後だよ。リーリエ、アリア、コトハ。そろそろ準備を始めな」
「あっ、はい!」
「分かりました」
「はーい。ムサシはん、ラトリアはんの事ちゃんと見といてな? 二人分作るから、いつもより時間掛かるかもしれへんけど」
「了解、いてらー」
アリーシャさんのその一声で、リーリエ達がパッと厨房の方を向き、椅子から腰を上げる。
リーリエとアリアがコトハとアリーシャさんから料理を教わり始めてから、こうして店に俺達しかいなくなってから≪月の兎亭≫の厨房を借りて、料理の勉強会が開かれるようになったのだ。試食係は、勿論俺である。
「よっと……ラトリア、美味いか?」
「んぐんぐ……うん、おいしい……!」
席を移動してラトリアの隣に腰を下ろした俺の脇で、相変わらずラトリアは“もっもっ”と料理を口に運んでいる。
その様は、腹を空かせた小さい子供が必死にご飯を食べている様で……自然と、俺はその頭を撫でていた。
「そうかそうか、良かったな。これからリーリエ達が作った料理が出て来るけど、そっちも食えるか?」
「ん……食べれる!」
口の回りにシチューを付けながらにぱっと笑うラトリアの顔を見て、俺の口元が綻んだ。
美味そうに飯を食う女の子ってのは、やっぱり可愛いもんだな。見てるこっちまで幸せになって来るし、腹も減って来る。
この空腹が、またいいスパイスになりそうだ。そんな事を考えながら、俺は厨房で格闘しているリーリエ達へと目を向けた。
「さて、今日は何が出てくっかな。前回はアケロスの肉を使ったハンバーグだったが」
「ハンバーグ……!」
何気無く口から漏れた単語を聞いたラトリアの目が
「今日も出て来るかは分からねぇけど、ラトリアが食いたいなら今度もう一回作って貰うか。因みに食った感想だが……めっちゃジューシーで肉汁たっぷりで、美味かったぞ?」
「おぉー……」
そうやって話している内に、徐々に厨房からいい匂いがし始めて来る。それに合わせて、俺とラトリアの腹が鳴った。
『リーリエ、火加減に気を付けな。焦がさないようにね』
『はい!』
『アリアはん、そろそろ蒸しに入った方がええかも』
『分かりました』
「……腹減ったな」
「うん……」
既に、俺もラトリアもテーブルに乗っていた飯は全て平らげている。気が付けば、俺達の口からは大量の涎が垂れ始めていた……服がッ!!
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