第7話 魔法科学研究部のウワサ

「何でこう……お前は、いっつも面倒事に繋がりそうな案件ばかり持って来るんだ!?」

「しょーがねーじゃん、もう首っ突っ込んじまったんだから」


 溜息を吐きながらテーブルを挟んで眉間を抑えるガレオに、俺は珈琲の入ったマグカップに口を付けながら悠々と答える。

 最近知ったが、ガレオは珈琲を淹れるのが上手い。てか今更だが、珈琲ってこの世界に放り込まれた俺にとってはめちゃんこ文明的な飲み物よな……魔の山で暮らしてた頃は樹液とかばっか啜ってたから、尚の事そう感じる。

 まぁそんな事はどうでも良い。今ギルドマスタールームの中にある人影は、俺とガレオだけだ。実は俺が入って来た時には他にも二人程職員が居たのだが、俺が持って来た話が機密性を保つ必要がある話だと察したガレオが、人払いをしてくれたのだ。そこは、素直に感謝である。


「で? その六曜を宿せし者エクサルファーの少女……ラトリアだったか。その子をスレイヤーにして、お前の所のパーティーで預かるって話だったか」

「おう。ちょいケースが特殊だからよ、一応ギルドマスターのお前にも報告しとこうと思ってな……言っとくけど、ラトリアが六曜を宿せし者エクサルファーだってのはオフレコで頼むぞ?」

「そんな事は言われんでも分かってる。これまで数人しか確認されていなかった六曜を宿せし者エクサルファー、そんな半分伝説みたいな存在が現れたのなら、下手に素性をばらす訳にもいかん。無用な混乱を生む」


 うむ、流石はギルドマスターだ。その辺りの事はよく熟知しているらしい。この分であれば、ラトリアの正体についての漏洩に関しては心配無さそうだが。


「しかし……六曜を宿せし者エクサルファーか。オレは実際にその魔力測定の様子を見た訳じゃ無いが……確かなのか?」

「だと思うぜ。魔力無しの俺じゃなくて、並よりも遥かに魔法に精通しているリーリエがそう言ったんだ、間違い無いと思う。それに、確かにあの時水晶からは六色の光が溢れていたからな……多分、その六つの属性が全部絡んだ魔法が、俺達が≪ガリェーチ砂漠≫で見た極彩色の魔法の正体なんじゃねぇかとは思う」

「成程な……だが、それだとアリアの懸念は確かに正しいな」

「……そんなにやべぇのか? その、 魔法科学研究部ってのは」


 俺がそう聞くと、ガレオは腕を組んで渋い顔になった。

 正直、俺は学院という機関にそれほど悪い印象は持っていない。つっても、それは今まで直接的なやり取りが無く、何度か討伐したドラゴンの亡骸や素材を提供している程度の間柄……要は、あまり接点が無いのだ。だから、悪い印象もクソも無い、フツーの印象しか無いって訳だ。

 そんな学院に、何やら不穏な気配がある……勿論、そこ一つの所為で学院全体の印象が悪くなるって事は無いと思うが……ま、聞いてみないと何とも言えんな。


「魔法科学研究部は、文字通り魔法の開発・科学的研究を行っている部署でな。今を生きる魔法研究のエリートは軒並みそこに在籍していると言っても過言じゃない……かなり前に、そこから一度ウチのギルドに声が掛かった事がある。内容は、既存魔法に独自の改良を加え、更にそれを発展させた自作魔法オリジナルを作り出したリーリエのスカウトだな」

「……ハァ!? 初耳なんだが!?」

「当り前だ、今言ったからな。因みにこの件はもうオレの手で握り潰してあるから、は考えるなよ?」

「……うーっす」


 ガレオの言葉に、俺は渋々納得する。コンチクショウめ、こっちの知らない内にそんな話を持って来られていたとは……やべ、俺の魔法科学研究部に対する評価が爆速急降下だわ。

 いや理不尽だってのは分かってるけど、俺の与り知らぬ所でリーリエを連れて行こうとしたってのがすげぇムカつくんじゃい!


「話を戻すぞ。その魔法科学研究部なんだが、どうにも自分達の研究に熱中すると周りが見えなくなる事が多々あってな……酷い時になると、研究に没頭するあまりと言った物が著しく欠如する事がある」

「それは……ヤバいな」

「ああ。勿論、全員がそうって訳じゃ無い。だが、それでも一部の人間が今まで魔法の効果を検証する為に人体実験まがいの事をやって、ギルドと衛兵の捜査の手が入った事は一度や二度じゃないんだ。ただ、これまでの魔法の発展に尽力してきたのもまた事実……その所為で、こちら側としても余り強気に出れないのが現状だ」


 そこまで話して、ガレオは一旦話を切って深く息を吐いた。

 ……これは、ラトリアの秘密を隠した上で俺達の元に置いたのは正解だったかもしれない。ガレオの話を聞く限り、一部とはいえ相当が居るのは確かだ。

 そんな連中が六曜を宿せし者エクサルファーであるラトリアの事を嗅ぎつけたら、絶対に面倒な事になる。

 もし連れて行かれる様な事があれば……を受ける可能性も、大いに有り得る訳だ。

 この手の連中の性質タチの悪い所は、往々にして自分達のしている事が“善”だと信じて疑わない所だ。実際、人類に多大な貢献しているというのなら、その傾向はより強く表れているだろう。


「……学院は、確かに影響力の強い機関だ」


 ふぅ、と一つ息を吐いてガレオは語り始める。その重苦しい声音とは裏腹に、その瞳は何処か不敵な色を浮かべていた。


「だが、ラトリアはギルドに所属するスレイヤーになる訳だ。そうなれば、如何に学院が相手でも下手に手出しはさせない。スレイヤーを守るのも、ギルドの仕事だからな」

「成程、そいつは立派な心構えだな……頼りにさせて貰うぞ」

「応。お前達のラトリアをスレイヤーにして自分達のパーティーに置くって選択肢は、現状としてはベストな答えだとオレは思うぞ」

「そう言って貰えると助かる……つっても、俺等のパーティーに入るって言いだしたのは他ならぬラトリアなんだけどな」

「ん? そうなのか?」

「ああ……」



 ――独りは、いや――



 ふと、ラトリアが漏らした言葉を思い出す。

 一人での行動に限界を感じたとか、それらしい理由を出してはいたが……あの言葉こそが、ラトリアの本心だったのではなかろうか。

 もしそうなら、尚の事俺達で面倒見ないとな……少なくとも、身の回りが整って自分を守れるだけの実力を身に付け、ラトリアから独り立ちをしたいと言うまでは。


「なんだ、随分と物思いに耽っている様な顔をしているじゃないか」

「まぁ、な」

「らしくないな、いつものゴリラ顔はどうした?」

「やめーや……そう言えば、初対面のラトリアにもゴリラって言われたな」

「そりゃそうだろ」

「どう言う意味だデメー!!」


 あっという間に、俺もガレオもいつもの調子に戻ってしまった……いや、これでいいのかもな。

 まだ、ラトリアとは出会ったばかり。今の内から、そこまで深く考えてもしょうがない。ラトリアが六曜を宿せし者エクサルファーだろうが魔法少女だろうが、これから俺達と一緒にスレイヤー業やってくってのは変わらないんだから。


「……あ、そうだ。ガレオ、ラトリアは能力的には魔導士ウィザードだけど、本人の前では魔導士ウィザードって呼ぶなよ? 不機嫌になるから」

「は? じゃあ何て呼べばいいんだ」

「魔法少女」

「……ムサシ、今から医者を呼んで来てやるからそこのソファーで横になってろ、動くんじゃないぞ?」

「別にこれは俺の妄言じゃねーよ! ラトリア本人がそう名乗ってんだYO!!」

「分かった分かった、今バナナ持って来てやるから医者が来るまで大人しくしてろ」

「聞けや!!!!」


 あークソッたれ、折角真面目な話してたのに台無しだよ! いや、半分位は“魔法少女”って単語出した俺の所為なんだけどさ、それでも納得いかねー!!

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