第41話 VS. 斬刃竜ハガネダチ 2nd.Stage

「グルルルル……」


 再び陣形を立て直した俺達を、ハガネダチの三つの眼光が鋭く見据える。手元でくるん、くるんと金重かねしげを回し、ハガネダチから目を逸らさずに注意深くその動きを観察し、いつでも反応出来るように神経を研ぎ澄ませた。


「二人とも、魔力は大丈夫か?」

「うちは大丈夫」

「私も問題ありません」


 よし、なら今度はこちらが先手を取って動くべきか。

 リーリエに掛けて貰った強化魔法はまだ生きている。それを確認しながら俺は低く、低く体を落とした。


「コトハ。俺が先に仕掛けるから、タイミングずらして追撃を頼む。リーリエは一応【念信テレパス】で俺達を繋いでおいてくれ」

「了解」

「分かりました――【念信テレパス】」


 詠唱と共にリーリエの持つ魔導杖ワンドが白く光り、同時に俺達の間に念話の為の回路が出来上がる。それを確認して、俺は両脚に力を込めた。

 力みによって筋肉が膨張し、それに合わせて伸縮する防具……溜めは十分、いざッ!


「……ッ!」


 溜め込んだ力を一気に開放し、俺は自分自身を撃ち出した。地を這う様に駆け抜け、一気にハガネダチへと肉薄する。

 しかし、そのまま大人しく斬られる様なヤツでは無い。当然の様に、ハガネダチは即座に俺の動きに反応してその頭角を振るって迎撃態勢に入った。


フンッッ!」

「グルァッ!」


 つつッ! と地面を薄く斬り裂きながら斬り上げられた右手の金重かねしげと、振り下ろされたハガネダチの頭角が真正面からぶつかり合う。

 けたたましい金属音と共に、大量の火花と本日二度目となる斬撃波が撒き散らされた。もうぶっちゃけ気にしてられねぇんだよコノ野郎!!


(……ん?)


 体に奔る鋭利な衝撃を受けながら、俺はある事に気付く……鎧に傷が付いてナーイ!

 そう言えば、ゴードンさんに傷が付いた理由話してた時メチャクチャイラついた顔して「絶対ぇもうその程度で傷なんて付かない様にしてやる……」って唸ってたな。

 つまり、ゴードンさんはコトハの雷桜らいおうを直しつつ俺の防具もバージョンアップしてくれていたのか……あざっす!


『ムサシはんッ!』

『ん!』


 コトハの声が脳内に響くと同時に、俺は瞬きの間に体を後ろへと下げた。それと同時に、背後から飛び込んで来たコトハが、雷を迸らせハガネダチへと斬りかかる!


「ガアッ!?」


 黒と入れ替わるようにして攻撃を仕掛けて来た白に、一瞬ヤツの反応が遅れた。間髪入れずに、二撃叩き込んだコトハが後ろへ下がり、再び俺が前に出る。

 二つ振るって一つ退く。これを繰り返し行う事によって、質の違う変則的な連撃を絶え間なくハガネダチへと叩き込み続けた。


「グッ、ガアッ!」


 初めてやったにしては上出来な俺とコトハのコンビネーションに、徐々にハガネダチが押され始める。この機を逃してなる物かと、俺は背後に控えるリーリエに念話を飛ばした。


『リーリエ、動きを――』

「【重力グラビティ】・【加算アディション】、【拘束バインド】・【二重詠唱ダブルキャスト】ッ!」

「ガッ!?」


 俺が指示するよりも早く、リーリエの鋭い詠唱が飛ぶ。同時にハガネダチの脚がズン! と地面に沈み込み、【二重詠唱ダブルキャスト】の効果で四本から八本に増えた鎖がその身体をくまなく縛り上げた。

 リーリエ、お前最近察し良すぎだぜ……素晴らしい!!


『コトハァッ!』

『ハアッッ!!』


 出来上がった大きな隙。見逃すものかとコトハが雷桜らいおうをハガネダチへと全力で振り抜いた。

 最初に戦った時の様な速さだけの一撃では無い、ヴラフォスを圧倒した時の様な正確さと鋭さも兼ね備えた一撃。

 だが、このハガネダチに対する様々な感情も乗ったこの一撃の破壊力は、ヴラフォス相手に振るっていたモノとは訳が違う。

 超重力と鎖によって固定された禍々しい頭。そこから生える頭角を避けながら外殻に守られていない頸の下側へと神速を以って振るわれた雷の刃が迫り……。


 ――チリッ。


 瞬間、俺の体を電気信号の様に悪寒が駆け抜けていくと共に俺の視覚がうっすらと開くハガネダチの顎を捉える。

 反射的に、俺は自分の体を力任せに前へと弾き出し、今にもその頸を斬り落とさんとしたコトハの腰を左手で抱える。

 それとほぼ同時に真横にあったハガネダチのクソデカい頭角の側面を力任せに蹴り付けて、その頭の向きを無理矢理変えた。その反動で、俺とコトハの体は大きくハガネダチから離れる事となる。


「ムサシはんッ、何を――」


 コトハが言葉を言い切る前に、ハガネダチの口から毒々しい紫色の大きな水球……竜の吐息ドラゴンブレスが吐き出され、ついさっきまでコトハが立っていた場所に直撃した。


『全員息止めろッッ!!』

『『っ!?』』


 俺が鋭く念話を飛ばすのと、着弾は同時だった。地面に触れた瞬間に水球は破裂し、中から凄まじい量のガスを発生させた。


「チィッ!!」


 クッソ、やっぱりかよ! そりゃ毒を作り出して頭角に流し込めるんだ、そう言う使い方も出来るわな!!

 盛大に舌打ちをかましながら、俺は二足でリーリエの元まで飛び退く。コトハを地面に下ろすと同時に金重かねしげを大剣形態へと移行させ、空間に満ちようとしていた紫のガスに向かって全力の一本足打法を放った。


「どォっせいりゃァコンチクショウッッ!!!!」


 訳の分からない気合と同時に振り放たれた金重かねしげから凄まじい突風が発生し、瞬く間に毒ガスを巻き込んでそのまま地上へと通じる大穴へと吹き抜けていった。

 ……あ、危ねぇぇえええええええええ! もうちょいでこの空間がになる所だった。

 俺はまだしも、リーリエはアレに耐えられない。俺の血で多少耐性が付いたコトハでも……厳しそうだな。


「二人とも平気か!? 毒ってないか!?」

「だ、大丈夫です!」

「……迂闊やったわ。あんな竜の吐息ドラゴンブレスを隠し持ってるなんて……ありがとう、ムサシはんのお陰で前回の二の舞にならずに済んだわ」


 俺の言葉に、リーリエとコトハがそれぞれ返事を返す。良かった、この状態であの強烈な毒に侵されよう物なら……うわ、想像したくねぇ。


「無事ならそれでいい……しっかし、また仕切り直しだな」


 俺達の視界には、邪魔者を退けて自分に掛かっていた拘束魔法をその頭角で斬り裂いているハガネダチの姿があった。前の時同様、迷い無くリーリエの魔方陣を斬り裂いて行っているその様は腹立たしいったらないな。


「リーリエ、耐性アップの魔法を俺とコトハに掛けてくれ。自分に掛けんのも忘れずにな」

「はい、【耐性強トレランズフォ――」


「ギャオオオオオオオオオン!!」


 リーリエが魔法を発動させようとした刹那、突如ハガネダチが天を裂くような咆哮を上げる。

 何だ、今までのモノとはが違う気が……そう考えた時、不意に周りに沢山の生命の気配が現れたのが分かった。

 バッと辺りを見渡せば、まるでアイツに呼び寄せられるかの様に――大量の鉤竜ガプテルが現れた。


「んなっ!?」

「嘘っ!?」

「……ッ!」


 壁の間から、別の地下空間に通じている通路から、段々になっている上方の壁から……一体どこに隠れてたんだこいつ等ってレベルの数だぞオイ!


「隠れてた……? いや、違うな。他のエリアから


 もしどこかに身を隠していても、俺の感覚網からは逃げられない。だが、事前にその存在を感知出来なかったって事は……元々この空間には居なかったって事だ。

 更に言えば、別のエリアに居たこいつ等を咆哮一つで呼び寄せたこのハガネダチは……。


「……支配権を、群れのボスから奪いやがったな」


 俺がそう呟くと、アイツは耳まで裂けたその口角を歪に釣り上げて――嗤った。

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