第28話 新チーム結成? 新たな魔法少女!
また週末がやってきて、ひいなと花乃華は今日もダンジョンの攻略にかかる。
先週で第15階層のボスを倒したふたりは、第16階層へと進むことにした。止まる理由はない、というのが、ひいなたちの共通認識だ。
そして、第16階層に進む理由は、別にあった。
ひいながダンジョンのロビーに着くと、それを見つけた花乃華が声をかけてきた。
「ひいな、こっちこっち」
背は高くない花乃華だが、声はよく目立つ。人ごみの中に、ひいなは簡単に花乃華の姿を見つけた。
そして、その傍らに立つ、別の少女の姿も。
「こんばんは、ひいなさん……それとも、別の名前の方が?」
「ううん、ここでは”ひいな”でいいよ、美鈴ちゃん」
花乃華の隣にいる背の高い少女--愛甲美鈴は、静かにうなずいた。大人に対しても物怖じしないその仕草は、なるほど、花乃華の仲間らしいな、と思う。
ふたりの前に歩み寄り、ひいなは美鈴に言う。
「改めて訊くけど、ほんとうによかったの? 私たちがいっしょで」
「もちろんです。こちらからお願いしたんですから」
「……なんか落ち着かない、美鈴がここにいるの」
頭越しで交わされる会話を聞きながら、花乃華は小声でひとりごつ。美鈴はそれに、律儀に答えを返す。
「こっちだって、花乃華といっしょなのはあんまり慣れないよ。今日はよろしくね」
「……よろしくするのはこっちの方だよ。何、知らないうちにわたしより先に行ってるなんて」
「ちょっと僕の方が、スタートが先だっただけじゃないか。そっちこそ、すぐに追いついてくるからびっくりだよ」
「わたしは……ひいながいたから」
「ともかく、花乃華たちが第16階層まで来てくれて助かった。これで、先に進めるかもしれない」
美鈴は嬉しそうにつぶやいた。
……先週の土曜の夜、ダンジョン横町の裏で、ひいなと花乃華は美鈴に出会った。
『僕も、ダンジョンを攻略しているんですよ』
問いつめる花乃華に対し、美鈴は悪びれずにそう告げた。
僕っ子か……と、ひいなが明後日のことを考えている間に、花乃華と美鈴の話が進んだ。
『第16階層なんて、わたしたちより先行してるじゃないの。ひとりで?』
『そうだね』
『第15階層、スライムいたでしょう? あれはどうやって切り抜けたの? それとも迂回できるまで待った口?』
『魔法で切り抜けたよ。覚えてない? 海水浴でメノンタールと戦ったときの』
『……ああ、あの泡。そっか、美鈴ならああいう小技が使えるものね』
花乃華はため息混じりに『美鈴が一緒にいてくれればよかった』とぼやく。美鈴は、両手を腰に当てて前屈みになり、花乃華に顔を寄せて言う。
『こら、そんなこと言ったら今の相棒さんが怒るでしょ。ね?』
ちらり、と眼鏡の下から美鈴がこちらに目線を向ける。花乃華が振り返って、険悪な目でにらむ。ひいなは、苦笑だけ返した。
美鈴はほほえんで、首を振る。
『ただ、僕も第16階層で行き詰まっていてね。花乃華たちが手伝ってくれたら、助かるなあ』
『わたしもちょうど第15階層を抜けたとこ。こっちとしても、美鈴が一緒なら心強いけど』
花乃華と美鈴の目が、同時にひいなを見た。路地裏の暗がりの中から、ふたりの少女の純粋な瞳がこっちを見つめている感じは、なんだか落ち着かない。得体の知れない獣と向き合っているみたいだ。
『私は大丈夫だよ? 美鈴ちゃんの魔法はどんなのか分からないけど、花乃華ちゃんの仲間なら心配ないよね』
そう告げてから、すこし、首をひねる。
『素材は山分けになるのかな。大丈夫?』
『僕は花乃華ほどお金に執着はないんで』
『守銭奴みたく言わないでよ。将来のための貯蓄よ、保険』
『そう言って死ぬまでため込んじゃう人のことを守銭奴って言うんだよ』
むう、と唇をとがらす花乃華。その表情が、いつもひいなが見ているのより打ち解けた感じに見えた。1年間一緒に戦ってきている仲、っていうのはいいものだな、と、ひいなは目を細めた。
……そういう経緯があっての、この場である。
「じゃ、早速出発しようか」
ひいなはそう言って、青く光るゲートを指さす。それから、くにゃっと指先を曲げた。
「私がリーダーっぽいの、なんか違和感ない?」
「今さら何気にしてんの」
「いや、いつもは割と花乃華が先に立つから。私が仕切るの、変な感じ」
「わたしはどっちでもいいよ」
「年長者は尊重しますよ。よろしくお願いします、先輩」
花乃華と美鈴、ふたりの中学生に口々に言われる。ひいなが先導する、というより、花乃華が一歩退いているような感じだ。美鈴が、というか他のパナケアの仲間がいると、花乃華は遠慮するのだろうか。
なんだか、いつもと違うバランスだ。ひいなは内心、首をひねる。
「しかし、先輩ねえ」
面と向かってそう言われるのは、悪い気はしない。
顔をほころばせながら、ひいなはゲートをくぐり、第16階層へと突入した。
第16階層の様相に、ひいなはぎょっと目を見開いた。
「何これ、ジャングルじゃない」
視界の大半を覆い尽くしているのは、熱帯雨林のような木々と蔓草だ。
異常に太い樹幹を持つ木々が、鮮やかな色の枝葉をダンジョンの上部に広げ、壁と天井を形成している。実際には、下の階層と同じような石壁が存在しているのだが、巨大に成長した木々がそれらを飲み込んでしまっているのだ。
樹幹どうしの隙間を埋めるように、これまた異常に太い蔓草が延びている。下の階層の壁に張り付いていた蔓はせいぜい親指ほどの太さだったが、ここのはレスラーの腕ほどもある。蔓の端々には、拳大のつぼみ。
節くれ立ち、筋肉のように隆々とした凹凸を持つ植物群。
それが、第16階層の主役らしい。
ざわざわっ、と、頭上の葉っぱの合間を、足音が渡っていく。クリーチャーも樹上に生息しているものらしい。
「視界が狭い」
変身し、いつものように先に立った花乃華が、不快そうに口にした。木々が通路の幅を狭めているせいで、ダンジョン内は狭く、暗い。その微妙な圧迫感が、ひいなたちの気持ちも息苦しくさせる。
樹皮から香る木々の匂いも、その感覚に一役買っているのかもしれない。
<夢の実に 甘く誘われ>
<笛の音に
「っ!」
葉群の上から聞こえた歌声に、はっ、と花乃華が頭上をふり仰ぐ。
次の瞬間、猿ほどの体格を持つ小さな獣の群が襲いかかってきた。
<餌となれ! 贄となれ! 血に塗れ染まれ!>
ひいなが呪文を唱えかけたとき。
「ラベンダー・アンブレラ!」
一手早く、美鈴の魔法が放たれる。
彼女の手から、濃紫色の霧が放射された。それは瞬く間に、花乃華の頭上をドーム状に囲った。襲撃してきたクリーチャーたちは、そのドームにはじき返されて、ギャッと悲鳴を上げる。
役目を終えたドームは、すぐに拡散。
空中に残った紫の霧を突き抜けて、花乃華は跳躍。
「ジュニパー・ストライク!」
がががっ、と、数体のクリーチャーを立て続けに片づける花乃華。地面に落下したクリーチャーは、そのまま素材を落として消える。
惚れ惚れするような、見事な連携だった。
これが、現役魔法少女のコンビネーション。
「足音が聞こえるんなら、第15階層よりは与しやすいかな」
「敵は動物ばかりじゃないよ、気をつけて」
「……この植物も、敵ってわけね。了解」
目線を交わし、花乃華と美鈴はうなずきあう。それから、花乃華がちらっとこっちを見た。
「ひいな、急いで」
「う、うん」
ぽかんとしていたひいなは、あわてて、花乃華たちのそばに駆け寄った。
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