侵攻⑰
ドンが城壁の上から姿を消し、そして獣人たちがレオンらの下に雪崩れ込んで来た。
だが、押し寄せる獣人などレオンの眼中にない。じっと城壁の上を見つめていた。
いつまでも城壁に姿を見せない熊族の王に、レオンはツヴァイに問い掛ける。
「ツヴァイ、熊族の王は生きているのだな?」
この質問は二度目だ。
熊族の王が吹き飛ばされ消えた時にも尋ねたが、その時のツヴァイの答えは命に別状ないだった。
そして今回も前回の言葉をなぞる様に答える。
「命に別状ございません。気を失っているだけでございます」
「そ、そうか、ならよいのだ」
(槍が破裂したようにも見えたんだが、あれを食らって生きているのか?もしそうなら熊族は随分と頑丈なんだな……)
レオンがそんなことを思っている間も獣人の波は押し寄せてくる。
足の速い狼族が最初に飛び掛かってくるも、サラマンダーがそれを許すわけがない。
口から炎の
それを見て獣人たちは左右に散開する。しかし、サラマンダーは右から左に薙ぎ払うように炎を吐き出し近づくことを許さない。
それを見たレオンはサラマンダーに指示を与える。
「ゆたんぽ、獣人を全て焼き尽くすな。砦に戻られても面倒だ。
サラマンダーは振り向き頷くと、今度は数体の獣人を見逃した。
迫り来る獣人は前傾姿勢になり、体重を乗せた重い一撃をサラマンダーに突き刺す。
しかし、剣先は硬い鱗に弾かれ一ミリも通らない。牙や爪で襲い掛かるも結果は同じ。サラマンダーの瞳を狙うも、魔物特有のスキル、瞬膜硬化でやはり攻撃は通らない。
獣人たちはサラマンダーに攻撃が通らないと知るや、標的をサラマンダーに跨る人間に定めた。
レオンは魔法銃を抜き放ち飛び掛かる獣人を撃ち落とす。
だが全てを打ち落とすわけではない。時には
全ては攻撃が効いていると見せかけた小芝居だが、これにより獣人たちに、より一層熱が入る。
いける!そう思った獣人は増援を呼び、更に多くの獣人が襲い掛かって来た。
その様子にレオンがほくそ笑む。その一方でツヴァイの表情は暗い。
それもそのはず、大切な主が攻撃を受けているのだ。心中穏やかではいられない。
レオンからの許可がないため魔法が使えず、ツヴァイは地団駄を踏む思いだった。
(獣風情が調子に乗るな!レオン様のご許可があればこんな奴ら――)
ツヴァイは襲い掛かる獣人を杖で力任せに殴り飛ばす。
獣人の纏う鎧に杖がめり込み、獣人は血を吐き出すより速く遠くに吹き飛ばされていく。
だが、どんなに獣人を叩き殺したところでツヴァイの気が晴れることはない。
今もレオンに襲い掛かる獣人を横目に見ると、ギリギリと歯ぎしりをしていた。
(次から次へとほんとに目障り、魔法で一掃した方が早いのに――)
絶え間なく押し寄せる獣人の波にツヴァイは怒りしかない。
もはや我慢の限界、振り返りレオンに魔法の許可を求めた。
「レオン様、魔法の使用許可をいただけないでしょうか?このような雑魚にいいようにされてはレオン様の名に傷が付きます」
「駄目だ!このまま砦の獣人を誘き寄せる。ゆたんぽ!ゆっくりと後退しろ!怯んでいるようにゆっくりだぞ」
ツヴァイは俯き肩を落とす。
この獣人たちは許せないが主の命令は絶対、それに攫われた人間の安全も考えたら一度の魔法で皆殺しとはいかない。
ツヴァイは獣人を杖で殴り殺しながら、仕方ないかと表情に影を落とした。
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