侵攻⑭

 獣人の国に入って半月は経つだろうか。

 レオンは数多くの砦を落としてきた過程で様々な情報を得ていた。

 肉食系の獣人には種族ごとに王がいること。そして砦や街は種族ごとに分かれて治められていること。それらは種族間の揉め事を避けるためであること。

 レオンはサラマンダーに跨りながら、今まで得てきた情報と次に向かう砦の情報とを照らし合わせて眉間に皺を寄せていた。


(複数の種族が一緒にいるだと?まぁベルカナンを攻めた軍隊の例もある。有り得ない事ではないだろうが――この国に入ってからは初めてだな……)


 先行する隠密からもたらされた情報は、今までとは僅かに違っていた。

 レオンが疑問に思うのも無理はない。

 獣人は他国を攻める以外で他の種族と手を組むことは滅多になかった。

 今回のことも異例である。獣人の王であるガルムとヴァンの説得でも全ての同族を納得させるのは絶対に不可能だ。中には反発する者が出るのも折込済みである。

 そんな降伏をよしとしない彼らが、連合軍のような形でドンの指揮下に無理やり入っていたのだ。ドンも無碍に追い返すこともできず、自然と砦にいる兵も大きく膨れ上がっていた。

 レオンは僅かに首を傾げると、詳細な情報を求めノワールに問いただす。


「ノワール、他にも変わったことはないか?些細なことでも構わん」

「はっ!他には攫われた人間が砦におりました。その数は凡そ五百でございます」


(五百だと?確か攫われた村人の数も凡そ五百だったな。つまり全員連れてきてるってことか?)


「人間を連れている目的は分かるか?」


 レオンにもある程度の予想はついている。

 半月もの間、派手に砦を落として回っていたのだ。獣人が気付かないわけがない。

 この状況で人間を砦に連れてきたということは、交渉の材料にするか、食料にするか、攻撃をさせないための盾として使うか、その何れかしかないだろう。

 だが、その内容によりレオンの対応は大きく異なる。

 そのため出来るだけ相手の意図を探っておきたかった。


「人間は拘束され城壁の上に貼り付けられております。恐らく盾として使用するものと思われます」


 交渉のために使用するなら、まだ慈悲もあるが、流石に食料や盾として使われては砦の獣人を殺すよりほかない。

 レオンは不機嫌そうに顔を顰め軽く舌打ちをした。


「ちっ!馬鹿な獣人どもが……」


 そのレオンの態度を見て、ノワールが言いづらそうに言葉を付け加えた。


「……それと、どうやら熊族の王が砦で指揮を取っているようです」

「王が自ら出陣とはな。それだけ獣人も追い込まれているということか……。今回は人間の救出を優先するためツヴァイの魔法は使わない。ゆたんぽが砦の近くに行けば良い標的になるだろう。獣人が私やゆたんぽに意識を向けている間、隠密は人間を救い出すか、若しくは獣人を皆殺しにしろ」

「はっ!」

「おっと忘れるところだった。それと熊族の王はなるべく無傷で捕えろ。少し話をしたい」

「承知いたしました」


 ノワールは一礼すると姿を消していった。

 同時にレオンの背後からヒュンフの声が聞こえてくる。


「では私も人間の救出に回ります」

「うむ。隠密の指揮は任せた。私が砦の前に姿を現すまで行動は控えよ。獣人の意識が私の方に向いてから動くのだ」

「畏まりました」


 レオンの背中から柔らかな感触が消えた。

 次の砦までは距離があるが、ヒュンフは他の隠密と合流すべく既に姿を消していた。


(急いで他の隠密と合流しなくてもいいのに……)


 レオンは軽くなった背中に少し寂しさを感じながら、次の砦にサラマンダーを走らせていた。


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