観察①
レオンはアインスを従え、拠点の第六エリアに足を運んでいた。
石壁の廊下を通り目的の部屋に近づくと、アインスは足早に先行する。洗練された動きで扉を開け、レオンを部屋の中へ招き入れた。
扉の先に見えるのは、壁際に置かれた大きな水晶。そして数人がけのテーブルセットに場違いな豪奢な椅子が一脚。
レオンが部屋に足を踏み入れると、長い
「御足労いただき誠にありがとうございます。このガリレオ感謝の言葉もございません」
レオンは豪奢な椅子にドカっと腰を落とすと、ガリレオに向けて鷹揚に答えた。
「世辞は必要ない。それよりも早く見せろ」
「はっ!少々お待ちください」
ガリレオは椅子に座り、テーブルの上に置かれた水晶に片手を乗せた。
静かに瞳を閉じて水晶を強く握り、スキルを発動させる。
「全てを見通す神の
同時にレオンの正面にある
上空から見える
街や村にも似てはいるが、それにして壁の内側に建物が極端に少ない。殆どが広大な緑で覆われ、規則的に
レオンはその映像に眉を顰めた。
「これは畑か?畑ごと石壁で覆うとは随分と手が込んでいるな。ここに攫われた村人がいるのだな?」
瞳を開いてしまうとスキルが切れてしまうため、ガリレオは瞳を閉じたまま返答をする。
「その通りでございます」
映像は更に建物の中に移る。お腹が膨らんだ女性が映し出されるが、その女性にレオンは「え?」と声を上げた。
女性の外見は人間のそれと殆ど変わりない。そう殆ど……
頭からは動物の耳が飛び出し、そしてお尻からは尻尾が生えている。
手足には短い毛が生えて明らかに普通の人間とは異なっていた。
「おい!これは何だ!」
レオンの傍に控えていたアインスが即座に返答する。
「獣人でございますが、どうかなされましたか?」
「私があった獣人とは似ても似つかんではないか!どうなっている!」
「レオン様がお会いになったのは肉食系の獣人かと。こちらでは草食系の獣人、その中でも牛の獣人が飼われております」
「飼われているだと?」
「はい。安定的に肉を供給するため、肉食系の獣人たちが管理しているようです」
「早い話しが牧場のようなものか……。だが、人間に近い姿をしてるのは何故だ?」
「それは実際にご覧になった方が早いかと」
アインスの言葉を聞いて、ガリレオは瞳を閉じたまま頷き返した。
映像が変わり、大勢の女性と攫われた人間の男性が映し出された。
狼の獣人が見守る中、細長い部屋に牛の獣人女性は一列に並び、壁に手をついて恥ずかしげもなく尻を突き出す。
その後ろに人間の男性が並べられると、男たちは慣れた手つきで女性の腰布をたくし上げた。
攫われてから幾度となく繰り返してきたのだろう。淀みない手つきで女性の尻を掴むと、何の
女性も嫌がる素振りは一切見せず、当たり前のように男性を受け入れている。
その様子にレオンは口を開けて唖然とするも、アインスは何事もないかのように淡々と説明を始めた。
「このように人間と交わり、人間の血を色濃くしているためと思われます。このような性行為は昼のこの時間に毎日行われ、女性が妊娠するまで続けられております」
レオンは疲れたように大きく溜息を漏らす。
「ふぅ……、一体何のためにこんなことを……」
「入手した情報では、どうやら大昔から人間との繁殖は繰り返されているようです。何でも肉の味を良くするためとか」
(早い話しが品種改良か。人間も同じようなことをするが――実際に目の当たりにすると衝撃的だな……)
「先ほど牛の獣人と言ったな。他にも家畜として飼われている獣人がいるのか?」
「はい。他には豚と羊の獣人を確認しております。牛の獣人同様、どちらも人間に近い姿をしていると報告を受けております」
レオンは話に耳を傾けながら、次々と移り変わる映像を眺めていた。
簡素な作りではあるが必要最低限の家財道具もあり、みな衣服もしっかりと身に着けている。
数多くある小部屋では、母親が幼子の世話をしている様子も映し出された。
こうして見ると普通の村にしか見えないが、レオンはふとあることに気付いた。
「男の姿が見えないな。飼われている獣人は女だけか?」
「いえ、男たちは他の建物で飼われております。自分たちの食料となる、野菜や穀物の生産に従事しているようです」
(それで壁の内側に畑があるのか。頑丈な石壁なら破壊は困難、壁の上にも見張りはいるだろうから簡単には逃げ出すことはできない。自分の食料も生産する家畜か……。コストも殆ど掛からないだろうし、牧場としては画期的だな)
「ここである程度育つと出荷されるわけだな?」
「その通りでございます。二十五歳になると、肉として他の街に移送されます。それまで女は子供を産み続け、男は食料の生産に勤しむようです」
「牛の耳をした獣っ子か……」
不意に
ガリレオに視線を向けると、申し訳なさそうに頭を下げ謝罪の言葉を口にする。
「レオン様、私のスキルには制限がございます。今日はもう……」
「うむ、分かっているとも。明日の同じ時間にまた来る。今度は豚や羊も見せてもらうからな」
「畏まりました」
レオンは椅子から立ち上がり部屋を後にする。
アインスは去り際に横からそっとレオン顔色を覗う。いつもと変わらぬ凛々しい顔つきであるが、アインスの瞳には嬉しそうに笑うレオンの姿が見て取れた。
それはレオンの従者にしか分からない些細な表情の変化。
僅かに口角を上げているレオンに、アインスも喜びを噛み締めていた。
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