冒険者⑦

 翌朝。西門の前には、昨日顔を合わせた冒険者と、荷物を背負った人間ポーターが集まっていた。

 どうやらレオンたちが最後らしく、ガストンが近づいて呆れたように溜息を漏らした。


「はぁ~。何でお前らが一番最後なんだ?普通こういうのはランクの低い奴ほど早く来るもんだぞ?」

「俺は時間通りに来ている。文句を言われる筋合いはない」

「ああ、分かったよ。それより、もう出発するぞ。みんなお前らを首を長くして待ってたんだからな」

「待っていたのは、早く来た奴らが悪いからだろ?それを私のせいにするとは、全く恩義せがましい奴らだ」


 レオンの言葉を聞いて、ガストンは処置なしとばかりに再度深い溜息を漏らす。


「……時々お前を無性に殴りたくなるよ」


 そんな言葉を吐きながら、ガストンは仲間の元へと戻っていった。

 同時に長い隊列が動き出す。

 先頭を進むのはベイクの率いる獣狩りビーストハンター、次にガストンの率いる戦空のつるぎ、その後ろにミハイルの率いる竜の牙ドラゴンファングが警戒に当たっている。

 その後ろに荷物を背負ったポーターが続いていた。

 レオンはガストンの横を並んで歩き、気になることを訪ねる。


「ガストン、馬は使わないのか?歩いてドラゴンを探していたら時間が掛かるだろ?」

「あ?街道ばかり歩くわけじゃないんだぞ?馬が通れない場所だって探すんだ。馬を使えるわけが無いだろ」


(そうなのか?冒険者と言えば、馬に乗って颯爽さっそうと移動するのが普通だろ?この世界の冒険者は随分と地味だな)


 レオンはそんなことを考えつつも、ガストンの装備品に視線を移した。

 余程筋力に自信があるのだろう。全身を覆うのは頑丈な金属の鎧、見るからに重そうな鎧で、ガストンは平然と歩みを進めていた。

 背中には先が尖った西洋風の槍を背負い、左の腰には剣を指している。

 右の腰には、持ち手部分と鉄球を鎖で繋いだ武器、フレイルを下げ、腰の後ろには短剣も差していた。

 ガストンのパーティーは全部で五人、全員男性で、装備もガストン同様、複数の武器を身に着けている。

 見るからに物理攻撃一択の脳筋パーティーに、レオンは予想通りと苦笑いを隠せずにいた。


 レオンは先頭に視線を向けてベイクのパーティーを観察してみた。

 ベイクは剣士なのだろう。上半身には金属の胸当てをつけ、腰には見るからに日本刀と思しき刀が差されていた。

 ガストンのように全身鎧フルプレートを身につけていないのは、筋力がないというよりも、速度を重視しているのかもしれない。

 他には同じような剣士が一人と、魔術師と思しき初老の男が一人。そして弓矢を背負った男が二人であった。

 計五人のパーティーで、前衛と後衛のバランスも良さそうに見える。


 レオンは振り返り後方を確認して、そして羨望の眼差しをミハイルに向けた。


(ハーレムかよ!なんだあの羨まけしからん状態は!しかも若い女性が多い!)


 ミハイルの周りには三人の女性が寄り添い、イチャイチャと楽しそうに話をしながら歩いていた。

 一番目立つのは大柄な女性で、歳は30前後だろうか。巨大な盾を背負い、腰には剣を差している。

 他は魔術師と思しき女性と、弓矢を背負った女性、どちらも20代前半と見て間違いないだろう。

 その中心でミハイルが楽しげに笑っているのを見て、レオンの中で、ミハイルの好感度パラメーターが、ぐんぐん下がっていくのが感じられた。

 

(ミハイルは好青年だと思っていたのに……。それにあいつ何も武器を持っていないじゃないか。まさか女に戦わせて自分は高みの見物か?)


 レオンは歩みを緩めてミハイルと横並びになる。

 間近で確認するも、やはり武器らしきものは何も持っていない。

 レオンの視線が気になっていたのだろう。ミハイルが堪らず話しかけてきた。


「レオンさんどうかされましたか?」

「うむ。少し気になることがあってな。ミハイルは剣や杖と言った武器を持っていないようだが――まさか戦わないのか?」

「ああ、確かに僕の武器は特殊ですから分かりづらいですね。僕の武器はこれなんですよ」


 ミハイルは腰に下げていた小物入れの留め具を外すと、中から金属で出来た魔道具マジックアイテムを取り出した。

 その形状はレオンがよく見知ったもの、まさかとは思いつつも、ミハイルの口から出たのは予想通りの答えであった。


「これは魔法銃と呼ばれる武器です。とても希少な魔道具マジックアイテムで、滅多にお目にかかれない代物なんですよ」

「魔法銃だと?」

「はい。このカートリッジと呼ばれる物に魔法を込めることで、誰でも魔法を放つことができます。ちなみに、このカートリッジには魔法の矢マジックアローが20発入っています」


(なに?ってことはまさか……)


「それはつまり、連続で20発魔法を放てるという事か?」

「その通りです。カートリッジを魔法銃にセットして、後はこの引き金と呼ばれる部分を引くだけです。撃ち尽くしても、カートリッジに魔法を込めることで再度使えます。僕も魔法を使えるので、魔法の充填には事欠きません。カートリッジは全部で5つ持っていますから、魔法の矢マジックアローは最大で100発打つことができるんです」


 魔法を連続で100発も撃つなど夢のような話であった。

 レオンが食いつかないわけがない。


(何だそれは!?絶対に手に入れたい!でも希少な魔道具マジックアイテムか、店には売ってないんだろうな。……いや、諦めるのはまだ早い。この世界の人間が作れるなら、俺――従者――も作れるはずだ。材料に封魔石を使っているのは間違いないとして。他には、カートリッジがミスリルで、銃身はオリハルコンってとこか。材料だけなら既に持っている。後は従者に丸投げすれば完了だ)


 丸投げするあたりがレオンらしいと言えなくもないが、丸投げされた従者はたまったものではないだろう。

 レオンは暫く考え込むと、満面の笑みでミハイルに答えた。


「貴重な物を見せてもらった。ミハイルには感謝してもしきれないな」

「レオンさん大げさですよ。それに戦闘になれば嫌でも見せることになるんですから」

「そう言えばそうだったな。では私はガストンのところへ戻る。隊列を乱すとうるさそうだ」

「そうですね。いつドラゴンが襲ってこないとも限りません。油断は禁物ですよ」

「うむ。ではまたな」


 レオンは意気揚々とガストンの元へと戻った。

 その横顔を見て、ガストンは眉間に皺を寄せることになる。

 この、にへら笑いを浮かべる気色の悪い男は誰なんだ?と。


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