異変④

 レオンは違和感を覚えながらも従者を従え外に出る。

 そこは石畳で整備された見慣れた街中ではなく、初めて見る森の中であった。

 拠点の周りの一定範囲は綺麗に芝生で整備されている。しかし、そこから一歩外は鬱蒼と草木が生い茂っていた。

 人の手が加えられた形跡はないため、恐らく原生林であろうことが窺える。

 振り返ると、拠点の裏側には切り立った岩肌が聳えおり、見上げれば微かに山脈の頂きが窺える。

 そのことから山脈の麓にいることだけは理解できた。しかし、明確な場所を示す手掛かりは何もない。


「ここは何処だ?なぜこんな場所に拠点がある?」


 レオンは独り言のように思わず呟いた。それは返答を求めてのことではない。しかし、当然のようにそれに答える者がいる。


「申し訳ございません。無知な我々をお許し下さい」


 答えたアインスのみならず、他の従者までもが苦虫を噛み潰したように表情を歪めていた。

 そこでレオンは初めて先ほどの違和感に気が付く。


(まて?なぜ従者が全員付き従っている?プレイヤーと行動を共に出来る従者は5人までのはずだ。これも今回のアップデートで変わったのか?何かがおかしい……)


「さっきのは私の独り言だ。お前たちに言ったわけではない。気にするな……」

「……はっ」


 アインスたち従者は深々と頭を下げる。

 だが、表情は暗いままであり、納得していないのが見て取れた。恐らく問いに答えられないことを恥じているのだろうが、ゲームのAI人工知能がそんな反応までするのかと疑わずにはいられない。

 この頭を傾げたくなる状況に、レオンはどうするべきかと思いを巡らせていた。


(どうする?相変わらずログアウトも出来なければ運営に連絡も取れない。ここは本当にレジェンド・オブ・ダークの中なのか?不具合にしても可笑しな事が多すぎる。少し調べる必要があるな……)


 レオンは横目でちらりとヒュンフを見る。

 ヒュンフは隠密行動、索敵、暗殺に特化したダークエルフの女性である。

 美しい銀色の髪は動きが阻害されないように肩口で切り揃えられ、ガーネットのような深い紅色の瞳は獲物を捉えた獣のように鋭い。

 長身の身に纏うのは闇に溶け込むようなフード付きの黒い外套、麻痺効果のある短剣を携え、足元には砂漠や森林などでの移動阻害を軽減するブーツを履いている。

 装備品は全てレベル80、レオンの従者の中では最も探索に適した従者である。


「ヒュンフ、この付近に魔物がいないか調べろ。レジェンド・オブ・ダークの魔物と違いがある場合は直ぐに報告に戻れ」


 レオンは内心ドキドキしながら命令を下す。もし、嫌だと言われたらどうしようかと気が気ではない。

 しかし、それも杞憂に終わる。ヒュンフは一歩前へ出るとレオンの前で跪いた。


「畏まりました。魔物は殺してもよろしいでしょうか?」

「構わん。だが、自分より格下だけを狙え。お前が手傷を負うことは許さん」

「はっ!レオン様の従者に相応しい働きをいたします」


 そう告げると、ヒュンフの姿は影も形もなく消え失せていた。

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