第58話 親にとって子供は道具ですよ

―――スラム・大広場


「一人で二人のスヴァルト兵をなぎ倒せる歩兵が十二人、騎兵の頭を撃ち抜ける弩兵が十人、百発百中の弓兵が八人、全員が一流揃いですぜ」

「申し訳ありませんが、紹介状がない場合は装備だけで評価せよ、とのリヒテル様のご命令です。三十人と記録させていただきます」


 市街とスラムを繋ぐモルトケ橋の手前、普段はスラムへ生活物資を供給する商業区であるその大広場では、きたるスヴァルトとの決戦を前にして閲兵が行われていた。

 エルンスト老やバルムンクの招集に集った志願者らはここで面接を受けて許可証を貰わなければならない。無くても従軍はできるが、その場合は給料が支払われない。下手をすれば敵軍の間者に間違われる事もある。

 兎にも角にもここで事務官に認められなければスヴァルトと戦うことも出来ない。なればこそ、志願者は必死であった。

 賄賂に脅迫、詐欺、多種多様な方法で合格しようと〈努力〉する。神官らのように露骨な不正ではないものの、そこは法の外に生きる者達、搦め手を使うことに戸惑いはない。

 むしろ、まっとうな手段ばかり用いる〈努力しない〉奴らこそ軽蔑される。


「この馬を見て下され、幾たびの戦場を潜り抜けてきた軍馬ウォーホース。是非とも良馬と書いてください」

「……ヘルムートでしたか、確か農村出身でしたね。調べてください」

「アンゼルム兄貴以外の人間に呼び捨てにされたくないね。まあいい、やってやるよ」


 不機嫌な顔を隠しもせずに、ヘルムートと呼ばれた二十代の男が馬を調べ始める。リヒテルの側近たるヴァンもまた事務官の一人として、閲兵に参加していた。

 彼は補佐として幾人の〈部下〉を連れている。しかし、その内訳を聞けば、例えばブリギッテ竜司祭長などは酒を喉に詰まらせたかもしれない。

 副官は政敵たる司祭長に寝返ったアマーリア侍祭、三番手はヴァンに不死兵とされたアンゼルム。そしてアンゼルムの弟分であり、上記の理由からヴァンに恨みを抱く舎弟達。

 いずれも一度以上はヴァンを裏切り、殺そうとした輩であり、つまりはいつ何時背中から刺されてもおかしくない連中である。

 スラムで彼らに襲撃されたヴァンは反省した。彼らを野放しに捨て置けば自分が危ないと、リヒテルのために命を捧げても悔いぬヴァンだが自衛ぐらいはする。

 危険な連中は手元に置いて監視すべき、そういう風に思い至った結果であった。


「この馬、荷馬だろ。体格は立派だけど、ほれ、剣とか尖ったもの見せると怯える。しかもいい物食わせてないな。大豆とか食わせろよ、ほら、ここんとこ、毛が抜けて剥げてるじゃん。飯食わせないで酷使させるから……」

「書類には駄馬と記録させていただきます」

「ちょっと待ってください。ですが私は馬を連れてきたのです。是非ともバルムンクの本隊に入れてください」

「それはリヒテル様が決めることです」


 数十人の事務官の中にあって、ヴァンはその中でも筆頭の地位にいる。反乱軍の総司令官たるリヒテルの直属軍はヴァンが許可した者の中から選ばれる。

 直属だからには待遇も給料もいい。どうせ同じ戦場に出るならば待遇がいい方が……と考える輩がヴァンに殺到していた。

 ヴァンの選考基準は基本的に装備のみ。槍や弓、クロス・ボウなどの武器、皮鎧や盾などの防具、そしてもっとも価値が高いのが馬である、敵対するスヴァルトは遊牧民あがり、騎兵の数では圧倒的な差をつけられているのだ。それ故に騎兵には他の兵科よりも三倍の給与が支払われる。


「では、この馬は預かります。番号を配布しますので戦闘の時には間違いないように……」

「いや、実は他の傭兵の方に貸す予定がありまして……その、もうお金は貰ってますので、預かられるとこちらが困ります」


 そこで行われるのが馬の貸し借りである。閲兵の時だけ良馬を使い回し、いざ戦場に臨んだ時にはそこら辺の荷馬を連れてきて騎兵であると言い張るのである。

 そしてその方法は他の武具や防具にも適用される。戦場と閲兵で装備が違うなど日常茶飯事だ。

 それを知っているヴァンは決して追及を緩めない。件の傭兵隊長は観念したのか、全てをヴァンに暴露した。


「他に装備の貸し借りは……」

「クロス・ボウを十、槍を七、貸し出す予定です」

「つまりは借りる方は武器を持っていないのですね。分かりました、武器はこちらで用意します」

「む、無料ですか……」

「まさか……スラムの商人に用意させますよ、生誕祭では儲けさせられませんので、ここらへんで飴を与えないと」


 結局の所、武具や馬は預かり、貸し借りは行わないことで決定した。件の傭兵隊長は借りる予定であった何者かに恨まれるだろうが、そんなことはヴァンの知ったことではなかった。自業自得である。


「はぁ……やはり私ではリヒテル様の親衛隊にはなれないのですか」

「影術士になるのでしたらすぐにでも取り立てますが……」

「御冗談を……部下の傭兵は家族、家族を殺したくはありませんよ……」


 騎兵よりも切に募集しているのは影術士である。死術の応用たる影を操る術は死術の天才たるツェツィーリエによって体系化され、ミストルティンの粉末、〈黒い粉〉とティルフィング製の魔剣ナグルファルの組み合わせにより、大量生産化に成功していた。

 全くの素人でも影を操り、影術士(死術士と区別するために命名、特に深い意味はない)になれるのだ。

 しかし、どうも影術士になるには体質が影響されるようで、体に合わず即死する者もわずかながら存在する。特に十代の成長期を過ぎるとその確率は飛躍的に高まり、三十代になると約三割が副作用で死亡する。

 スラムの戦闘に参加した影術士は全て十代から二十代、ちなみに全員がグスタフとアーデルハイドとの戦闘で殺されているが、なぜか実験の失敗によって死亡したという〈誤った〉風聞が流れており、影術士に志願する者は皆無だ。


「影術士へ志願する者は皆無。やはり、ハノーヴァー砦攻略の時のように強制的に集めるしかないのか……」

「けっ、何がやはりだ……この混血の外法使いが。お前はリヒテル様の命令を聞くから生かされているんだぞ、それを理解しろ。アンゼルムの兄貴、兄貴からも何か言ってやってください」

「あ、ああ……なんでよりによってヴァンが人間の形をしているんだ。なんで他の人間は化け物にしか見えないのに……」

「兄貴……」

「どうしちまったんですかい」


 アンゼルムがうわ言のようにわけの分からないことを繰り返す。ツェツィーリエによって自我を取り戻したアンゼルムだったが、どうも様子がおかしい。

 可愛がっていた舎弟達にも無関心でただ怯えるばかり。

 ヴァンは、アンゼルムが不死兵にされた後遺症で、ヴァンやツェツィーリエなどの死術士以外の人間が化け物に見えるようになったことを知らない。そもそも気にしてさえいなかった。 

 仕事さえしてくれれば人格面などの他の要素を考慮しないのがヴァンである。それは長所であり、また短所でもある。


「影術士の月給を金貨六枚に上げましょう。これで考え方を変える者が出てくるはずです」

「随分と奮発しますね」


 グルデン金貨六枚とは夫婦、子供三人を基準とした一家族が数か月も食べていける金額だ。

 そしてこの金額は同時に食うにも困る難民が一商売初め、その商売が軌道に乗るまで、つまりは生計が成り立つに足る金額でもある。

 スヴァルトの弾圧から逃げ、バルムンクの庇護に入ろうとする難民一家の家長が、乾坤一擲を狙うには魅力的な額なのだ。


「金貨六枚が一人の生命、さすがは決死隊を皆殺しにした死術士ヴァンさん」

「別に影術士になったからといって必ず死ぬとは限りませんよ。確かに薬漬けにされますが、それを言うならば十年間も死術士をしている私が死んでなければおかしいではないですか」


 ファーヴニル、決死隊、そして影術士隊。リヒテルの親衛隊とも言うべき人間はことごとく全滅している。そしてなぜかヴァンが死地に追いやったような噂が流れていた。

 それは完全に誤解なのだが、リヒテルとヴァンの人望の差か、ようは汚い、えげつない手段は全てヴァンがやったこと、と皆思いたいのだ。

 英雄たるリヒテルは常に綺麗でなければならない。その不公平さにしかし、ヴァンは特に感慨を覚えない。

 元より混血という偏見を受ける立場なのだ。汚名の一つや二つ、どうということはない。むしろ汚名を被ることが役割とさえ考えている。

 理不尽も裏切りも、既に慣れていた。混血という事実が知られて手の平を返され、そして唯一、態度を変えなかったテレーゼお嬢様はヴァン自身が廃人にしてしまった。全ては自業自得。そう、因果応報なのだ。そう思うことにしている。


「影術士に志願する、金貨六枚下さい」

「さっそく、考えを改めた人が……」

「それは嬉しいですが……子供?」


 待ちに待った影術士の志願者。しかし、それは大の男ではなく、十を少しばかり超えた少年であった。その肌は小麦色、ヴァンやアマーリアと同じく宿敵スヴァルトとの混血だ。


「子供でも俺は戦えるぜ。うちは父さんが死んで働き手がいないんだ。弟達もまだ小さいし、俺が金を稼がなきゃならない。なあ、雇ってくれよ」

「おやおや、これはこれは母親に騙されましたね」


 瞳に涙を浮かべて懇願する少年はひどく同情を曳く、だがこれは演技だ。大人の関心を曳く方法をスラムや難民の子供たちは心得ている。

 そうでなくば弱い彼らは生きていけない。一人で自分を守れない彼らには大人の庇護が必要なのだ。

 だがそれが家族のためという、他者のために演技するというところが未だ純朴な少年の気質を残している。己の利益のために家族さえ犠牲にする大人の冷徹さとは未だ彼は無縁であった。


「どういうことだ、アマーリア」

「あはは、親にとって子供は道具ですよ。高く売りつけようとするのは当たり前じゃないですか。いい、少年さん。貴方が貰う金貨六枚は自分のために使うべきです。そうでなければ貴方はその金を使い込まれてボロ雑巾のようになって捨てられるでしょう」

「なんだよ、顔に傷がある姉ちゃん、あんた、親に捨てられたのか」

「そんなところです」


 母親を馬鹿にされたためか、少年が不機嫌そうな表情に変わる。生意気そうなその顔がもしかすると素かもしれない。


「親に捨てられたのか、アマーリア」

「ええ、でも同情してもらう必要はありません。こんなこと、良くあることです。ヴァンさんの親はお元気ですか」

「母親は処刑されました。十年前のマグデブルク市で……リヒテル様が言うには混血の奴隷女だったらしい。良く覚えていないな」


 ヴァンは自分の鉄の首輪をなでつつそっけなく答えた。その首輪の下には絞首刑の跡がある。澄んでの所でリヒテルに助けられた。だからこそ助けられた恩で命を捧げる。

 実にいい〈言い訳〉ではないか。

 実の所、ヴァンは自分が本当にリヒテルに忠誠を誓っているのか分からなくなっていた。他にすることがない、忠義の道以外を探せなかった、それだけではないのか。

 最低でもバルムンクが掲げるアールヴの独立という正義に共感はない。半分とはいえスヴァルトなのだから当たり前と言えば当たり前だが。


「もしかすると、貴方は影術士にならない方がいいかもしれない。使い潰される」

「ヴァン、俺らと同じ混血でありながらリヒテル様の側近になったあんたも俺の母さんを馬鹿にするのか?」


 どこか失望したような瞳を少年はヴァンにぶつける。少年は混血でありながら英雄リヒテルの傍らにいるヴァンを尊敬していたのだ。

アールヴの血が半分しか流れていなくても認められて出世できる。その希望を踏みにじられたのだ。

 だがヴァンの意図はそうではなかった。ヴァンはバルムンクが決して正義の軍隊でない事を知っている。少年の無知を前提にした決意がヴァンには少々眩しいのだ。


「使い潰すのはバルムンクという組織そのもの。混血は決して認められない。認められているように見えるのは全てまやかしです……」

「なっ……嘘だろ」

「おやおや、バルムンクという組織は兵士の忠誠に仇をするのですか。これは見誤ったかもしれませんね」

「誰だ……?」


 ヴァンの突き放したような言い草に少年が蒼ざめた時、ゆっくりと背後から一人の老婆が歩いてきた。

 粗末なローブを身に纏った六十代の彼女はどこにでもいそうな、しかしヴァンは彼女の強い意志を感じさせる鳶色の瞳がやけに気にかかった。


「なんだ、この小汚い婆さんは……」

「騎兵の志願者ですよ、貴方達、初対面の相手に失礼ですよ」

「うるせえ、ババア。ババアは家に帰ってクソして寝てろ!!」


 突然現れた彼女にアンゼルムの舎弟が口汚くののしる。それをヴァンは手で制した。ヴァンの実力と冷徹さは彼らも知るところ、不承不承、口を噤んだ。

 六十代の老婆とは、寝たきりか、そうでなくとも家から出てこれないくらい衰えているものだ。だが彼女は足腰がしっかりしているのか、足取りに不安はない。

 そしてヴァンは感じた。味覚は死滅しているヴァンだが嗅覚はそうでもない。ほのかに香る石鹸の香り、香油の匂い。老婆は断じて食うに困り風呂に入る余裕もない難民や貧民ではない。

 銀貨では買えない石鹸や香油で身支度する嗜みは盗賊とも言えるファーヴニルにはない。元頭領、アーデルハイドでさえ毎日風呂に入っていたが、そこまでしなかった。


「ちょっと早いですが、昼休みにします。私はその間に彼女を案内しますので余計なことはしないで下さい」

「あら、貴方は気づいたのね」

「お名前を……お名前を拝見してもいいですか」


 ヴァンに制止された故か、小声で老婆をののしる器の小ささな舎弟達を無視してヴァンは彼女と向き合う


「私の名前はヨーゼフ。おかしいでしょう、男の名前なんて……親は男の子が欲しかったのですって、ひどい話だわ、ふふふ」

「なあ、おいちょっと……」

「貴方の英雄、少し借りていくわね。大丈夫、お母さん思いの貴方を悪いようには扱わないわ」


 老婆に割り込まれ、無視された形の少年が不安そうな顔でをする。しかし当の老婆がニッコリと笑うと、毒気が抜けたのか、押し黙る。

 相手に不断の緊張感を与えるリヒテルの無表情とは違い、この老婆の笑みは人に安心感を与えるようだ。

 本当に何者なのか、その疑問がヴァンの中を渦巻く。実の所、ヨーゼフという名前をどこかで聞いたことがあるのだ。直接会ったわけではない。書類か何かで見たことがある。しかし思い出せない。ここ数日の激務でヴァンは疲れていたのかもしれない。

 その疑問が氷解せぬままに、ヨーゼフの名をヴァンは心の中の書類棚、その一番上に置いた。


*****


―――司教府・地下牢


「なんで、いきなり牢の監視役が代わるのさ、おかしいだろうが!!」

「ブリギッテ竜司祭長の命令だ、命令には従え」


 地下牢に囚われているグレゴールは、囚われてもなお策略を行い、自分の監視役を自分に敵意を持つファーヴニルから知古の神官兵に交代させた。

 それにより、追い出された傭兵隊長マリーシア率いる傭兵団と神官兵の間に剣呑な空気が流れ始めた。


「ブリギッテ……マグデブルク大学卒のブリギッテがここにいるのか」

「竜司祭長を知っているのか」


 どこか昔を懐かしむようなマリーシアの言葉に神官兵が興味を持つ、彼らの大半は現地、このザクセン司教区出身の人間であり、中央、マグデブルク出身のブリギッテのことは詳しく知らないのだ。

 ブリギッテは何もしゃべれなかった。実の所、ロクな過去ではないからだ。


「あのアマ、学院卒の現場の何も知らない新人の癖にあたしらに言うことを聞かせようとしたから、頭きてさ、泥の中蹴っ飛ばして、閲兵式まで引きずってやったんだよ」

「ははは、さすがは姐さん、豪快ですな」


 しかし、その件でマリーシアはブリギッテの先輩である他の竜司祭らに睨まれ、数年間、仕事を干されることとなる。当然、部下達は飢える。

 ちょうど、スヴァルトの支配が進み、神官らが団結し始めたころだったため、神官に危害を加えたマリーシアは結果的に共通の敵として仕立てあげられたのだ。

 彼女はさすがに後悔した。自分の軽率な行いが傭兵団全体に不利益を与えたのだ。故に雇い主には従順であろうと努めているが、しかしそれはおとなしくなったと言う意味では決してない。

 ただ我慢しているだけ、雇い主の前以外では荒々しい態度は変わらない。人はそう簡単には変われないのだ。


「今度はお前らを蹴飛ばしてやろうか……嫌ならばそこをどけ、お前らは多分、あの司祭長に計られているぞ」


 獰猛な笑みを浮かべてマリーシアが神官らを威嚇する。中央を除いた他の司教区では神官らに言うことを聞かせるには恫喝が最も有効であると彼女は理解していた。

 とかく事なかれ主義が多い神官は厄介事を嫌う。故に自分達が〈やっかいで面倒くさい〉連中であると思わせることは彼らに妥協させることに繋がるのだ。


「随分と、うちの隊長がお世話になったようで……」

「あんなでもハノーヴァー、リューネブルク港と俺らを生き残らせてきた大事な隊長だぜ」

「そこまで侮辱するってことは覚悟はできているんだろうな」

「なんだ、やるっていうのか!!」

「姐さんに逆らうのかよ、腐敗神官が!!」


 神官兵の目が座る。彼らにとってブリギッテ竜司祭長は頼りないながらも自分たちの長である。侮辱されて黙ってはいられない。

 数か月前ならば引き下がった。だが今はそうではない。市民に英雄と崇められ、彼らは誇りを手に入れた。

 いくら優秀だろうが、この街でなんの実績もない外様の傭兵程度、何ということではない。


「姐さん、斬りましょう!!」

「やめろ、お前ら。今のはあたしが悪かった。今回は帰るぞ」

「あ、姐さん……?」


 短い沈黙の後、マリーシアは引き下がった。彼女は傭兵隊長、彼女も部下持つ長だ。神官兵らの雰囲気を見て、彼らが冗談を言っていないことぐらい理解できた。

 これ以上は本当に血を見る。一時の感情で部下を危険に晒したくはない。


「これは……今回はいけるかもしれないな」


 地下牢を立ち去るマリーシアはいつの間にか愉しそうに笑っていた。彼女もまたスヴァルトに弾圧された人間だ。

 スヴァルトは自分達以外の武力を許さない。治安維持を担当する神官兵は無暗に粛清できないが、その分、傭兵やファーヴニル、法の外に生きる武力持つ者に対する弾圧は苛酷だ。

 処刑された者、奴隷に堕とされた者、虐げられた親しい者達をマリーシアは見てきたのだ。その解放は近しいと、ブリギッテらの部下を見て言う。


「お前ら、準備は怠るなよ。神々の黄昏、スヴァルトのいう最後の審判は近いぞ。生き残るのはスヴァルトではなく、あたしらアールヴだけどな」


 マリーシアは長、人の上に立つ者、時には自分が信じきれない希望を信じたように思わせなければならない。

 だがそれでも希望は希望だ。全てをあきらめるとは思えない何かがバルムンクにはあった。

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