壁と門と大聖堂と

人類の最小単位がまだ『一族』だった頃。

祈りを捧げた魔法の石が、一族を魔から退けるとされていた。

人類の集団単位がまだ『村』だった頃。

賢者達は柵の周りに魔石に魔法を封じ込め、仲間を護った。

人類の単位が『街』になり、『国』になっていくにつれ――。

魔導士が作り上げた巨大な人口魔石を国の中心に置き、更には大きな壁で住まう土地を囲み、門と聖堂の魔石に書き込まれた恒久的な魔除けの術式により、魔獣や魔物といった人類の天敵から身を護るようになった。

この二重の結界により、長いこと平和を謳歌してきたのだ。

人類は魔物を避けてその平和を勝ち取った、故に人類領域に侵入できる、半魔人はんまじんと呼ばれる獣人や半森霊種ハーフエルフなどは、忌み嫌われることが多い。


門と壁によって形成される『外郭結界がいかくけっかい

大聖堂の大魔導石の作る『範囲結界はんいけっかい

この二つが互いに補うことで、数百年という平和を確約し続けた。

しかしその大聖堂の大魔導石の御前にユリの花を残し、門の警備魔導兵を一人残らず消し去る"精神通過のフォルス"が言いたいことは、嫌でも理解できた。


「………『いつでもこの世をぶっ壊せるよ』………――――それって、奴の掲げた第一ヒントっすよね………。」

「ここにきて伏線回収たァ………変に頭のキレる狂人だ。」

門前で固まるイリスとエドワード。

もはや結界の破壊など、常識外過ぎて予測すらしていなかったのは、恐らくこの二人だけではない。

防護結界の片翼たる大聖堂に侵入されたとはいえ、今まで散々人の反応を楽しみに犯行を続けてきた愉快犯とされる怪人が、今更終止符を打つことに無意識ながら疑問を持っていたのかもしれない。

多くの者が考えつきもしなかった、最高にたちの悪い今回の"悪戯イタズラ"は、王国の人間を死滅させるに充分なものだった。

「もし奴がこの状況を楽しむ下衆野郎でなく…前触れもヒントもなく破壊だけを楽しむ屑野郎だったら………」

「………っ。大聖堂と第一区の門を同時に破壊されて、今頃は―――『怪物ノ祭典モンスター・カーニバル』の真っただ中、ですかね。」

想像するだけで悪寒が背筋を駆け抜ける。

しかし、これ以上止まっていることは、ギルドメンバーとして許容できなかった。

「俺がギルドに報告する!お前はもう少し電門付近を、特に人類領域外を調べてくれ!!」

「了解!!」




昨日、夜遅くに来たメッセージの内容は、いまだに頭痛となってワカナを襲っていた。

そもそも親の帰宅という異常事態のさなか、イリス・ロードナイトから送られてきた重々しい文面はしかめっ面の一つや二つでは済まされない代物だった。


『リズっちが怪人と呼ばれる愉快犯に目を付けられているかもしれない。マーセル家と何か関係があると思う。本人には言っていないから、知らせるかはあんたの一存で判断してほしい。こっそりしてた修行、まだ数回しかやってないけど物覚えいいから今のあんたに護衛を任せるよ。ギルドの人間が数人後を付けてる筈だけどワカナが傍にいてやってね。がんば♥』


「がんば♥じゃねーよ…イリスさん。確かに心得的なものを教えられたし、特訓はやらされたよ?とか放課後に無理やりな。」

深いため息をいて、肩を落とすワカナ。

頭の整理が出来ずにグルグルと目を回す。

リズに言うべきか。言わざるべきか。

親をどうするか。自分の身の振り方は。

そもそも怪人って何だ。誰だそりゃ。

守るって、自分が。リズを。

傍にいる。同居?

一緒に住む。結婚?

指輪?

シルバー?

それとも………――――


いつしか頭から水蒸気が立ち昇りオーバーヒートを知らせる。

まともに寝ないで訓練していたワカナは、ひっそりと、その思考を閉ざした。

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