英雄譚

「聞いたぁ?また事件起きたんだって!」

「連続猟奇殺人でしょ?」

「怖いよねぇ~」

「うおぉお!怪人だゾ~~!」

「あはは、止めてよぉ」

噂話で持ち切りの1年D組にあって、この二人は全く違う話題で悩む。


リズとエリヴィアは、先日から反応が消失したワカナを見た。

そこに居るのだが、ほとんど応答がなく、相当ショックなことがあったであろう雰囲気を漂わせていた。

「これは………何日か様子を見るべきかもね。」

「そうだにゃあ……自ら解決すれば一番いいしにゃ。」

そう言って二人は静かに席に付いた。

じぃっと見つめられていることに気付く素振りもなくワカナは頭を抱える。

この三人はクラス内でも異質。

他のクラスメイトの注目は別の席に集まっていた。


「今日………イリスが来てない…?」

チャイム、ホームルームの始まりを告げる鐘のねが響くなか、イリス・ロードナイトの座るはずである前寄りの席がぽっかり空いていたのだ。

普段遅刻すらしない優等生ぶりを発揮するイリス、だからこそ級友は心配する。

何かあったのか?と。







***







「イリス・ロードナイト!」

「はい。」

名簿確認に応えるイリスはしかし、学校にはいなかった。

昨日の"精神通過のフォルス"が起こした連続猟奇殺人事件について、ギルド内でも屈指の実力者が呼び出されていたのだ。

Lv6であるイリスは無論、その対象である。


点呼を終え五十余名のギルドメンバー及び警備隊関係者は静かに待機する。

部屋はシンプルな作りになっており、装飾などはほとんど見受けられない。

ただ壁にかけられた大きなスクリーンだけが存在感を放っている。


スーツに身を包む二人の男女が画面の手前まで歩いてくると、薄い冊子になった資料を配った。

中には昨晩の事件の概要と、周辺情報、そして新たに追加された三つの『ヒント』に付いてまとめられていた。

第一現場である大聖堂広場の惨状と第二現場であるイリスの闘った通り、そして第三現場も等しく周囲を血で染め上げる結果となった。

その写真を見ながらイリス。

「毎度のことだけど…………こう見たくもない光景を良くまぁ量産できるもんだ……」

何人かは同意し頷く。

ここに集められた人員は既にこの程度では取り乱さないが、それでも重いものを感じずにはいられないのだ。

表情に出る背負わされた重荷。

怪人という王国の悩みの種は、いまだ犯行を止めない。


「『膨れ上がらせる虚栄心』というのは既にエドワード隊が回収したはずだ、が、この『国立ローゲン魔導高等学園、マーセル家のお嬢様』というのは……まだ無事らしい。これはローゲン高の一年D組、リズ・マーセルの事で間違いないな?」

「はい、同じクラスのあたしにわざわざ言いに来たくらいですから。――ですが、まぁあたしも最後まで聞いた訳じゃないですし、まだ言い残していたかもしれません。」

少しざわめく会議室。各々が見解をまとめる。

「そしてもう一つ、中央街とは関係のない場所で起こった案件だが。昨晩未明、第十五狩猟区域と人類領域を隔てる『門』の警備魔導兵、約三十名が消息を絶った。」

「「!!?」」


一気に騒がしくなる室内には、動揺と混乱が充満していた。

『警備魔導兵』とは、国の剣である『魔導騎士団』に次ぐ国家の盾である。

優秀な魔導士が多く、欠かさず訓練を行いその水準を保ち、あらゆる案件の対処に追われる人々。

警備魔導兵が暇ならば、その国は平和だとさえ言われている。


三十名程集まれば、魔獣の群れを相手に門を死守することも可能である。

それが……消息不明。

一晩にして消えていった人数にしては余りにも多すぎた。

「二個中隊規模の魔導兵が消息不明………か……、これは『怪人』が犯罪グループである仮説の確固たる証明になるのでは?」

「確かに集団犯罪である可能性が増した。だがこのクラールという女性は、身元が割れたそうじゃないか。ただパン屋を営む一般人ってことで結論付いたはずだ。」

「洗脳魔術………いや、やはり奴の能力そのものか。自らを"精神通過"と呼ぶ理由であると推測される。」

がやがやと乱立した話し合いは、自然にまとまり一つの議論となる。

「精神通過の意味、それはつまり相手の心に入り込む能力という事か?」

「あり得ない話では無いな。騎士団長の見立てでは『フォルス』はLv7相当の能力者だと予想されている。」

「Lv7……………国内では九人目の『到達者グランドマスター』になろうと言うのか。こんな奴が…ふざけた話だ。」

「精神の力であるはずのマナ、そして能力スキル。その能力が精神に干渉できるとなると………それはもはやLv7どころの騒ぎではないな。世界への干渉者、『例外イレギュラー』とも言えよう。」

精神通過のフォルス、その脅威の度合いが上がれば上がるほど、一同の視線はイリスのもとへ集まる。

「で、どうだった。奴と相対した感想は。」

一人の男がそう言うと、辺りの人間は好奇心の目でイリスを見つめる。


「どうと言われても……妙な威圧感はあっても普通の人間にしか見えなかったっすね。」

一同は予想外の答えにあっけを取られた。

ここにいる全員の中で最年少でありながら、怪人をその目で見た数少ない証言者。

それがこうもあっさりとした感想しか持ち合わせていないのだ。

周りの反応も無理はない。


目撃者は基本還らない。

彼らはいつもで発見されるのだ。

だから『怪人』を見たことのある少女なぞ珍しい。

「怪人と呼ばれる白に身を包む男には、自らの姿を晒すことをやけに嫌がっている傾向がある。いくら目的達成後の帰り道とて、目撃者を作るようなヘマをやらかすとは考えにくい。」

そう言ったのは歴戦の猛者であるエドワード。

部下を失った苦痛に耐えるように話す。

「つまり奴にとってはそのリズ・マーセルって少女が、次のパズルのカギでしかないのかも知れん。」

「―――……へぇ」

平然としていたイリスの碧眼へきがんが冷ややかに燃え盛るのを見て、エドワードは後退あとずさる。

イリスは握り拳をギリギリいわせながら、静かにその口を開いた。


「あたしの友達に手ェ出そうってんなら………殺すしかないね……。」


そこにいる誰もが、薄ら寒いものを感じていた。

最年少。未だ高校一年生。女子。

しかしLv6にして魔導評価A。

その勇気と、仲間想いの人格は、まごうことなきヒーロー。



だがその目に映った殺意は殺人鬼のそれだった。

「………まぁリズっちにはワカナが付いてるから大丈夫かな…」

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