ローゼンフェルド家

父は"責任を取る"と言い結婚した。

しかしその責任とやらは結婚まで、その後の援助もなければ連絡もほとんどなく遊びまわった。

それが父親だ。


母は、最低限の育児はしてくれた。

腹を痛めた子供だ。

死なれるのは胸糞悪い、と言ってな。

だがそこに愛情があったかは疑問、いや、疑う余地もなく、無かった。

物心つく頃、わしの生存本能が告げていた。この両親に付いていては死ぬとな。

叔父の下で暮らしていた時期に独学で知恵を手に入れた。生きるために。


――わしのよわいがまだ二桁に届かぬ時、父が帰ってきた。

母と父は何やら相談し、企んでいた。

その時のわしに分かったのは、金に困っているという事だった。

次の日の母は、気持ち悪い程優しかった。

小さなわしに化粧を施し、ちょっと高い服を着せてくれたのだ。

その時初めて、自分でも少し可愛いとさえ思えた。

しかしその感情さえすぐに自己嫌悪になる。


連れられた先で気が付いた。

わしは売られようとしていたのだ。

小さい子を愛でることが趣味の幼女好きな御仁へんたい達の通う店』に。

それに感づいたわしは逃げ出し家に戻った。

布団にくるまって泣いていると家にいた父がこう言った。

『ママのところへ戻れ、もしくは二十区の壁に穴があるからハンターのお零れに預かって魔晶石を拾ってこい』

と。

その二択だけを与えられた。


―――そうしてわしは狩りの道を選んだ。




「中学二年に入るくらいから、二人とも家にはほとんど帰らないようになった。そこで魔晶石集めを、生活費と、現実逃避のゲーム代を稼ぐために日課とした。そして叔父が多少なりと仕送りをくれるようになり狩りを中断、高校入学。――――今に至る。」


自分の人生を、その驚愕的なまでに残酷な道を、淡々と、どこか他人事のように語ったワカナ。

十分に満たない時間であったが、リズとエリヴィアの気は鉛のごとく重くなった。目の前の少女が、何故こうも友という友情を分かつ相手を大切にするのか。

何故魔導も使わずに狩りができるのか。

何故自らの命に価値を見出せないのか。

その全ての答えを聞かされた気がしたのだ。




「以上だ」

先程まで死ぬほど落ち込んでいたのがウソの様に、ケロッと笑うワカナ。

誰かに話したこともない自分の境遇を聞いてもらい、楽になったのかもしれない。

きょとんとしたままのエリヴィアを置いて、リズは真っすぐワカナの瞳の奥を見据えていた。

「ワカナちゃん。これは同情だとか、哀れみではないことを先に断っておく。」

その力強い物言いに、エリヴィアもまた真意を察し、ワカナの手を取った。

両手を、二人の友達に握られ、その純粋過ぎる視線に晒され、うれしい悲鳴を上げずにはいられないワカナ。

「んもぉ……なんなのだ?」

感傷的な空気にさせないよう明るくふるまう彼女に、リズ。



「ワカナちゃん。約束する。私は、この先何があろうとも、ずっとワカナちゃん友達だよ!!!」

――続くエリヴィア。

「ボクもだ、ワカナさん!!ずっと友達でいようにゃ!」

「……………ぁ………――――――」




ワカナは、言葉に詰まった。

こみ上げて来る熱いものを抑えながら、二人を見つめる。


思い返せば、何度死のうと思ったか、数えきれない。

ゲームから現実に帰ってきた時の、虚無感。

学校から帰ってきて、一言も発していないことに気づいた時の、孤独感。

そういったものに押しつぶされてきた人生で、突如、偶然、唐突に、友達ができた。


友達は、所詮他人。友情は、空言。空想。

しかし現実にあったのは今までの考えからは想像すらできなかった、温もり。

本物の、友情。

―――――安心感。


もはや声も出ない様子で、ただ大きく、何度も何度も繰り返し頷くワカナは、

ボロボロと大粒の涙をこぼしていた。

止まるはずがない。

せき止めていた感情。

二人は自分に命を救われたと言っているがそれはとんだ見当違いだ、とワカナは内心講義する。

本当に救われていたのはワカナ自身なのだ。


信頼の為、友という存在の為に我が身を犠牲にすること。人の命を一身に背負うということは、彼女にとって漸く見つけた己の存在価値だった。

死ぬ理由は、即ち生きた理由。

生まれ落ちた瞬間から欠如していた、生きるための理由を、この二人は与えてくれた。


死なないために生きる。

ただそれだけしか無かったワカナにとって。この出会いこそが、全て。

言葉などというモノで表現するには、余りに大きすぎる感謝だった。

『二人の為に死のう』、という考えはすぐに、『二人と共に生きたい』という切望に変わった。


十六年の人生が、覆ったのはほんの数週間。




―――長いこと詰まっていた言葉は、ほぐれ……最初の言葉が紡がれる。







「………あり、が…とう……………」

ワカナ・ローゼンフェルド、リズ・マーセル、エリヴィア・ジャベリンの三人は、皆が同じように泣き、皆が同じように、満面の眩しい笑みを浮かべていた。







「じゃあ今日早速うちにおいで!荷物一緒に取りに行こうか。」

「うむ、賛成だ。持っていくゲームは大量にあるが、他はほぼ無いからな。」

「あのぉ………」

「もちろんエリヴィアちゃんも泊りにおいで!」

「ありがとうにゃ!」

「早速お買い物だぁ!!」



――三人の女子高生は、意気揚々と、夕日の照らす紅い町へとり出していった。

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キエタノタメ 加賀崎ミナト @minato_kgs

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『好きに生き、』 ラノベが好きで、ミリタリーでもファンタジーでもなんでも好きだから。 なんでも書きたくなるのだろう。 でもいいじゃない。 だってヲタクだもの。 ――――――みなともっと見る

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