28万2000

二日。


二日というのは短くない。


授業も普通に行われる。

リズとエリヴィアはこの二日間行動を共にした。

ずっと心配そうに。


そして今日は三日目の朝。

この二日間―――






――――ワカナは、学校へ来ていない。





ホームルームまであと十分を残すところ、ワカナはまだ現れない。

ザーラ、ホリー、ミネットの三人。

そしてリズ、エリヴィアの二人は、校門に集まっていた。

つい数分前にワカナからのメッセージが入った。

『校門へ来い』と。



校門の周りは自然も多く、花々に包まれたいい雰囲気だ。

綺麗に装飾された校門、奥に見える豪華な校舎。


花びら舞う中、独り、歩いてくる人影が見えた。


フラフラと……揺れている――――――



「ワカナ……ちゃん…?」

「何なのにゃ…その姿……………。」


歩いてきたのは小さな少女。

国立ローゲン魔導高等学園の制服を纏った、小さな体。

その制服は至る所が破れている。


ボロボロで、押せば倒れそうで。

一撃殴れば、死んでしまいそうな。


大きな傷、自らが流した血と、返り血が固まり。

どす黒く体を染める。

泥と汚れ。

血と傷。


満身創痍。

その少女はよろけながら、ボロい鞄を抱えている。

腰には血に染まったヴェリ・クロノス。


「大丈夫!!?ワカナちゃんっ!!」

リズは倒れかけたワカナの肩を支えた。

ゼェゼェと肩で息していることが分かる。

そして、濡れている。

手のひらを確認すれば…まだ生乾きの血痕が、付いていた。

「…………ワカナ………さん……?」


今にも泣き出しそうなエリヴィアは、耳をしおらせる。

ザーラもその取り巻きも、かすかに震えていた。


膝をつき、最後の力でもって鞄をザーラの方へ放った。

「開け…、ろ………ザーラ………。」

小さく、消え入りそうな声。

覇気なき声のその覇気に、ザーラは肩を震わせながら鞄をそっと開けた。


「こいつぁ………。」

「え……。」

何も言えなくなった三人衆のもとへ確認のため歩み寄ったエリヴィアは、自分の目を疑った。


「28万……2000 ……アギス……ある。」

鞄に詰められていたのは、札束だった。

アギスの札束。一万アギス紙幣十枚、十万アギスの札束が二つ。

八枚、八万アギスの札束一つ。

一千アギス紙幣二枚。

系28万2000アギス。


いざ札束にしてしまえば両手に収まるほど。

いささかあっさりとしたものだ。


握れば分かる。

こんなもの、命を懸けるほどのものではない。




「ワカナちゃん…こんなものどうやって…………。」

リズとて、心配だけして行動しなかった訳ではない。

「私たち羅生門に聞きに行ったのよ?でも来ていないって……。」

「だろうな………わしはに行っていたからな。」

『十六区ッ!!?』


その場の者は、思わず声を出した。

パーティを組まず、ソロで行っていい場所ではないのだ。

魔術のほとんど使えない者が一人で十六区に潜るなど、自殺行為に他ならない。


「確かにあそこなら…二日潜って二十万くらいなら………、でもッ!!」

「あり得ませんわ!そんなの、人間にできる芸当を超えていますの!」


「そうだ…だからこうして死にかけているのだろうが………」

「……………お疲れ様、ワカナちゃん。ゆっくり休んでいいのよ。」

リズは察した。

これ以上の詮索を止め、優しく抱擁する。

やわらかい胸を枕替わりに、ワカナは目を閉じる。


「あと…わしのポケットにエクストラ10万入ってる……。」

『『!!!??』』

「そいつで、エリヴィアから手を引いてくれ。……今後、ずっと、………だ……」

ザーラの顔は恐怖に染められていた。

得体の知れない何かに怯える顔。


「おっ…お前……。」

「…………………………――――」

最後の言葉を言い終え、眠りについたワカナ。

そのボロボロな体と制服、血まみれの心身が無ければ。

唯の小さな少女の、可愛い寝顔なのだが。

余りにも―――――







――――戦士の覇気と、亡者の狂気を纏って止まない。







***







この件は、学園全体に響き渡った。

しかしワカナの意向で、ザーラ達のことは教師陣にも伏せられた。

唯、ワカナ・ローゼンフェルドが十六区に潜って三、四十万アギス程稼いで瀕死状態だ、という噂だけが校内に広まった。


エリヴィアの言う『目立つ』という現象でいえば、最高レベルに目立ったのだ。

今のエリヴィアには、申し訳なさしかない。


ワカナは病院へ行くこともなく、保健室での医療魔術をうけた後、リズの家で寝ていた。

「一人であの薄暗い部屋には帰りたくない」と言って、リズに泊めてもらったのだ。

無論快く承諾した。


「今日、お見舞いに来る?エリヴィアちゃん。」

「是非そうさせてくれにゃ。……まだお礼も言えてないのにゃ。」


寝込んでから三日。

二人はワカナの見舞いの為リズの家へ向かう。


感謝したい。

口ではそう言って。




エリヴィアの心は、贖罪を求めた――――

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