光のバトン

「よぉし!ここがスタートラインだ!じゃ一人目、バトン作れぇ。」

9人の第一走者はマナで特殊バトンを形成した。

両手を存分に使わないと通れないルートなだけに、魔力バトンはリストバンド型で手首に巻かれた。

「マナ形成の訓練も怠るなよ。バトンタッチはロータッチで魔力受け渡しで形成しなおせ。」

右てに魔力を集中。

ワカナが形成したマナリストバンドは綺麗に手首に収まった。


「おぅ、なんか上手いこと作れたぞい。」



三人組9グループの対抗戦ができる程度にはコースは広々としている。

だが自然が創り出した地形でもある。ところどころあまりにも走破には適さない場所もある。

走るルートは身長に決めねばならない。

全力疾走しながら、魔力制御に加えそう言った判断も必要とされる。

二学期始まって数日でやるにはいささかハードである。


それぞれの走者が定位置に付いた。

エリヴィアはまだ悩む。

しかし時は待ってくれない。


レースは、始まった。




銃声で森の鳥たちが一斉に飛び立った。

パァン

スタートの合図はゼイル先生の魔術で作られた疑似的な銃声音。

第一走者は一斉に走り出す。

九人が同時に…。

「え?」


レースにおけるスタートダッシュの重要性は言わずもがな。

各グループも、運動を苦手とする者を第二走者とし、第一、第三はよく動ける者が選ばれているはずだ。

その中で――――


「なんだよおい!ワカナってこんな速かったのか!?」

ワカナは始めの数歩ですでに他と差をつけていた。


岩を飛び越え倒木の下を滑りぬける。

約400メートルの第一コースを平地と変わらない速度を走り抜けた。

セーラー服でも全力で動けるワカナだ、当然のごとく周りと差をつけリズのもとへたどり着く。

まだぎこちないパルクールをする他の一番走者達は、まだ半分を超えたか超えていないかのところだ。


立ち並ぶ第二走者は皆驚きを浮かべる。

同じくバトンを待つホリーは悔しそうに睨んでいた。

「ワカナちゃんやっぱり速い!後は任せて!」

バトンタッチすると渡す前より安定したリストバンドとなりリズの手首に巻き付いた。

走り出したリズを見送るワカナ。

「……非効率的だが、走り方も可愛いのか…あいつは。」

感心なのか呆れなのか分からぬ感情で一瞬勝負の事すら忘れる。

変わらず睨んでいたホリーは、巨体のご友人がまだまだ到達しそうにないことに、ワカナの速さを改めて認識する。

「な、なんなのです!あなたは!」

「なにって……何者でも無い。」

「はぁ!?」



120メートルほど進んだ所でリズのスピードが急激に落ちてきた。

「わ、脇腹……痛い……」

序盤飛ばし過ぎたツケを払わされることとなる。

「や、やばい…ワカナちゃんが頑張ってくれた分が……」

必死に前へ進むリズに、後続が迫る。

速く。

もっと速く。

焦り、震える。

「エ、エリヴィアちゃん!!……ゼェ…ゼェ………受け取ってぇ!」

「逃がしませんわ!」


お嬢様風の割りに足の速いエリーは二位で追いつく。

リズは倒れこむ寸前で何とかタッチできた。

「任せた!」

「……………はい……にゃ!」

エリーも華麗なフォームでザーラにタッチする。

ほぼ同時にバトンを受け取ったエリヴィアとザーラは睨み合い、走り出した。

第三コースは最も起伏の多い高難易度コース。


地上は高い壁や網など、時間のかかる障害物が多い。

逆に密度の高い木々の間に作られた空中アスレチックは、隙間が大きく難易度が高い代わりに、うまくいけば地上よりも素早く移動できる。

エリヴィアは地上を選び、ザーラは迷わず上のルートを進んだ。

スピードは互角か、エリヴィアが少し上回っている。

しかしルートの差は大きい。

少しずつ差は開く。




魔導具がリアルタイムでランナーの様子を映し出していた。

走り終わった者は用意された立体モニターに噛り付いた。

声援、大声入り混じる中。

ワカナは静かに呟いた。

「エリヴィア………それは……本気ではないだろ。」






―――ぼくは……小学校では少なくとも友達がいた。

こんな獣人でも関係ないと、子供らしくも勇ましい子たちだ。


でも常識を知り、社会を知るうち、皆はどんどん離れていった。


ずっと、仲の良かった友達が……冷ややかな目をするようになる。


受け入れられていたと思った教室で、孤立するようになる。


こちらから近づくと傷つくばかり。


ならばいっそ―――――




―――独りに…。


『うるさい。』


これは…ワカナさんの声か?

『 殺す 』

ワカナさんは怒っていたな、リズさんも。

少しばかり、ぼくの為に怒っていた様にも見えた…。

でも…………ぼくは獣人………。

『そういうセリフを吐くのは………わしだけでいい…』


あの人は不思議な人だ。

第一走者の様子はモニター越しで見た。

ワカナさん…頑張っていた。


あんなワカナさんは………一学期では見たこともない。

リズさんも頑張って走っていた。


なのに――――




どうしてぼくは地上を走っている?

獣人として、木々を飛び回る立体機動の方が断然得意だ。


なのに。


ぼくは………まだ怖がっているのか。

皆に見られるのが。


『エーヴィ~?』

『うるさい。』


その時、誰かに背中を押され、地に伏した。

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