よかろうにゃのだ

「どうして……どうして一位………なんだにゃ…?」

放っておけばよかった。

自分の順番でいい感じに脚を引っ張れば調節もできたはず。

そんなこと分かっていた。

なのに。

なぜこの二人はこうも真っすぐな目をしていられる?


ワカナ・ローゼンフェルドは一学期、それはもう死体の様な扱いだった。空気。存在すら認めてもらえない者。

そしてエリヴィア・ジャベリンは自ら望んで空気となった。

その方が楽だと。

ワカナとは分かり合えると思っていた、なのに。

「だってなんか…嫌じゃん。」

「ボキャ貧だなぁ。ま、同じようなものだ。わしもムカついた、それだけだ。」


どれもこれも分からなくなって、頭を抱えてしゃがみ込んでしまったエリヴィア。

ワカナはそっとその背中を撫でる。

自分だったら、どうしてほしいか。同類だからこそ、いまエリヴィアが何を考えているか、頑張って分かろうとしたのだ。

「もし、間違ってたらすまん。だが、たぶんお前は恐れているのだろう。実力を見せることに。本気を出したら、皆が引くほど強いから。」


エリヴィアは顔を上げ、ワカナを見つめた。

何故知っている、と。

今まで一度たりとも本気を出したこともなく、上手く運動音痴を装っているという自覚もあった。

だから見つめずにはいられない。

「……………どうして……そう思うの…にゃ?」

「わしも同じだからだ。わしもいつもサボってばかりで、魔術も碌に使えないし、能力値もほぼ最低だけど。この競技は得意なのだ。でも、できる事なら実力なんて見せたくなかった。不安だもの。」

「じゃあ、なんで一位を狙うのにゃ?」

「お前の約束の話聞いてて胸糞悪くなってな。何か…ただ勝っただけじゃ足りないだろ?」

「な…」

目を丸くしたケモミミ少女にガン見され、照れるワカナ。

人類と認識するか微妙な獣人が、たった一人クラスに混ざり、孤独に生きてきた。

その気持ちを想像するのに、難しい手順はいらなかった。

「…それだけ?」

「それだけ。」


そしてその少女は、今他のに手を差し伸べられ、困惑する。

こんな自分に?と。

自分は人間ではない。

社会に紛れ込んだ異物。

こんな自分の為に怒りを感じてくれるどころか、せっかくだから『人間』を打ち負かそう、と言っている。


――――これは、うれしいという感情なのか…。


エリヴィアの目にはうっすらと涙が溜まっていた。






リレーコースの地形は、一~三番手によって大きく異なっていた。

一人目のコースは立体的な動きを必要とする上三人の中で一番長く設定されている。

二人目にバトンを渡すと、そこから先は起伏がそこまで多くない。

代わりに距離が一人目と同じくらいある。

三人目は一番複雑な地形をしてるルートを通る。

倒木や故意に設置されたバリケードなどを潜り抜けゴールへと向かわねばならない。


「最初がわし、二番手がリズで最後がエリヴィアでよいな?」

「「うん。」」


非魔導依存での行動には自信のあるワカナが一番手として、周りと差をつける。

そして二番目のリズが安定した走りでこれを守り、三番目のエリヴィアがトドメ。

獣人本来の力を使えば立体機動なんて余裕なはずだ。


「この作戦なら…一位も夢じゃないよ!ワカナちゃん、エリヴィアちゃん!」

嬉しそうに明るく笑うリズ。

だが近付く人影に顔をしかめる。


「一位が、なんだってぇ~?」

にやけ顔のザーラは連れの二人と共に三人の話を立ち聞きしていた。

「盗み聞きとは褒められたものではないな、ザーラ。」

「うっせぇなLv1………一位…取りたいんだってな。分不相応とはまさしくこの事だ、ははは。」

ザーラに続くように笑う連れの二人。

妙に心に刺さる笑い方だ。

「なぁホリー?どう思うよ、こいつら。」

「哀れね。呆れて物も言えないわ。フフン」

ホリーと呼ばれたお嬢様風の女は、冷ややかな目をする。


「どうだエーヴィー。そんなに一位がいいなら約束を変えようぜ。お前達が一位じゃなかったらだ。」

「待ちなさい!そんなの理不尽すぎるでしょ!」

「何か文句でもあるのかしら?転校生さん。もとよりそこの獣は私たちにお礼を払う予定だったのよ?今はお金がないと言うから条件付きにして差し上げたの。」

「そんなことって……」

「あ?」

高ぶっていた先程とは違い、ザーラの睨みに気圧されるリズ。

口答えできずに止まり、うつむく。


もう話は終わりだ、と背中を向ける三人組。

「じゃ決定だな。頑張って一位、取るんだな。無理だろうが。はっはははは!」

「獣と最低レベルの分際で夢を見た罰だぜ。」

「そういう事ですわ。」

捨て台詞を吐いて三人組は立ち去った。




「どうしようか……」

最初からあの三人組に振り回されているというのに、またしても状況を悪化させられた。

「………ごめんなさい。私が気付かず口走ったから…」

「ち、違うにゃ!!元はと言えばぼくが……反論できないからこんな金額まで膨れ上がったんだにゃ。」

「何にせよ一位以外はあり得ないという事だ。わしらの力でな。」

薄れていた敗色がまた漂い始める。




「みんな、忘れていないか?何も問題無い。」

「え?」

「にゃ?」

暗い空気を破るため不敵な笑みを浮かべるワカナ。

倒木に片足をかけ決めポーズで叫ぶ。


「勝てばよかろうなのだぁあ!!」

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