君の耳は…。

彼女は怒っていた。

本気で。

「はぁ!?なんだ転校生、てめぇ……。」

顔を歪めたザーラの剣幕は、それはそれは凄いものだった。

「り、リズ。何を言っているのだ!お前は関係ないだろう。」

「そこのLv1の言う通りだぜ転校生。…………お前、生意気だな。」

「ま、待ってくれザーラ。こいつは…。」

ワカナは必至に取り繕うとした。

ここでザーラ一行を敵に回すのは良くない。

何よりリズの学園生活が危ぶまれる。

そんなことは許されないのだ、と。

しかし止まらない。


「私は鈍感なゲームの主人公じゃないわ!その約束が汚い物だなんてすぐに分かる。」

「あ?」

「それにワカナちゃんを馬鹿にしたでしょ。ワカナちゃんの本当の力も知らないで!!」

あのリズが、人目も気にせずに怒鳴り散らしている。

クラスメイト全員が注目する中、リズは怒る。


友達の為に。

「リズ、何をそんなに怒っているのだ。お前の事ではないのだぞ。」

「………。」

怒りに震えながら、人を睨むという慣れない顔をする。

涙目になってまで感情を表に出すのが、ワカナには理解できない。


と、思った。

この人は、何かを犠牲にしてまで立ちふさがっている。

それは、見覚えのある…。


「転校生……お前、リズっていうのか。お前もだ……。」

「え。」

「お前も、このLv1共と同類だ。屑がッ!」



「構わない!ワカナちゃんとエリヴィアちゃんと、同じ扱いするならすればいい!私達は、友達だから!!」







***







「リズ。どうして………?」

「リズさん……。」

二人のいじめられっ子は、困惑する。

この少女は、『普通』になれた。こっち側に、来てはならなかった。

二人は話さずとも、同じことを思う。


彼女は混血という人種問題を抱えていない。

彼女の髪はサラサラで、目のクマもない。

彼女の耳は顔の横に付いている。

彼女のレベルは平均に届いている。

…なのに。


「私ね……悔しかった。あのザーラって人に、ワカナちゃんとエリヴィアちゃんを馬鹿にされて、本当に……。」

「リズ…………。」

マップの下見をしながら、三人は集団から離れていた。

遠目に睨んでくるザーラの視線は、鋭く、距離など関係なく圧力をかけてくる。

「良かったのか…、これでお前は………。」

「…………。」

黙ったリズをエリヴィアは申し訳なさそうに見ていた。

自分のせいで、とそんな考えに苛まれながら、力の抜けた尻尾を揺らす。

リズは屈み、ワカナの目を覗き込んだ。


「違うの。あれね、ワカナちゃんの真似なの。あの時……命を張って私を助けてくれたワカナちゃんが………眩しくって。かっこよくって。」

「………リズ。」

「だからさ、私は一緒にいるよ。」





「ぼくがした、いや、させられた約束というのは………、勝負で負けたら金を上げるというものだったにゃ……。」

「ちなみに、いくらくらいなのだ?」

「28万アギス……………にゃ。」

数字の大きさに、ピタリと音が止む。

現実的な数字ではないのだ。学生にとっては。

「………払えるのか?エリヴィア。」

「無理にゃ。払えないなら…身体で払う機会くらい与える、と言われたにゃ。」

「…チッ」


獣人に対する人権侵害、種族差別は今に始まったことではない。

だからこそ乱暴に扱える、物の様に扱えるという事から、奴隷として好まれる。

ひと際、性奴隷などに。


どうしようもない横暴を聞かされた二人は驚愕した。

そして苛立つ。

特に、ワカナは。

「……………ロす……。」

「ワカナちゃん?」

「……ワカナ…さん…………。」


「 殺す 」




「ダメ!」

殺気を帯びた瞳で、凶器になりそうな物を探すワカナを、リズは止めた。

どうして、そう叫びたいワカナは、言葉にならない声を出していた。

口をパクパクと、出てこない想いを紡ぐ。

「………ぼくも…その案には賛成できないにゃ。巻き込みたくないし。獣人のぼくなんかの為に、怒ってくれるだけで…充分にゃ。ぼくの命なんて……。」

「エリヴィアッ!!」

ワカナは乱暴にエリヴィアの胸倉を掴む。

向けられた感情が何なのか。

理解ができない。

心が、見えない。

「………………ッ!?」

「…………そういうセリフを吐くのは………わしだけでいい………。」


激情なのか、哀惜なのか。

ワカナは動かない。

「……ぼくは…混血……何故優しくするのにゃ。」

「うるさい。」


リズはワカナを見つめた。

この少女は、命を軽んじているわけではない。

どうしてか、自分の命だけを、軽んじているのだ。




険悪な空気と、諦めムードの中、リズだけは諦めていなかった。

どう被害を軽減するか、どう言い訳するかを考えていたワカナとエリヴィアをよそに、リズだけは…勝ちを狙っていた。


「ねぇ…二人とも。勝とうよ。」

「何だと?」

「正直………負けてもいいかなって、ちょっと思ってた。」

「………。」


悔やむ素振りを見せたリズは顔を上げる。

「でもやっぱり悔しいから止めた!取ろう!一位を!」


その笑顔に、偽りはない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます