NEMESIS・SAGA・ONLINE

国立ローゲン魔導高等学園

一年D組、教室。




教室の片隅、関わりを持とうとしなかった少女は携帯端末をいじる。

しかし今日は独りではない。

「ふむふむ、なるほどね。このIDを入れればワカナちゃんのアカウントが出てくる、と。」

「その通りだ。後は通話しながらできるだろう。」

ケータイの通話アプリを開きながらID交換するそれは、初めて会った高校生がする習慣。

電脳空間の侵食著しい現代における常識とも呼べるID交換、ワカナにとってはSNSのダイレクトメッセージで顔も知らぬネット仲間としたことしかない貴重な経験だ。

「それじゃ、後はNSOエヌエスオーで会おう!」

その少年の様な笑みは、冒険を楽しみする冒険者のそれだった。






NEMESISネィメジスSAGAサーガONLINEオンライン


通称NSO。

国内最大のMMORPG。

大規模多人数同時参加型オンラインロールプレイングゲーム。


その古風ダークファンタジーの世界観と、いまだかつて無いほどのハイグラフィック、そして何よりオープンワールドにおける極めらし自由性は多くのゲーマーを魅了する。


釣り、狩猟、農作。

鍛冶、魔装、織物。

いかなる生活も、商売も許される世界。


売買、物々取引、闇取引。

聖騎士、ハンター、盗賊。

稼いだ金の、得た力の使い道はプレイヤー次第。


そしてもちろん、冒険。

広大なマップにリアルタイムシミュレーターで生態系を築くモンスター達。

大量に点在する無数のダンジョン。

プレイヤーの集まる巨大な都市。

50種類以上の多種多様な種族が住む村々。

150種以上のモンスター達。


世界を旅し、世界を満喫せよ。


生き方は自分で決めろ!


基本プレイ無料!

NEMESIS・SAGA・ONLINE

好評配信中!!






NSOのPVを見ながらインストールを待つリズは、自室のデスクの前に置かれた座り心地の良い椅子に腰かけていた。

ノートパソコンに向かう彼女は凛としていた。

その実、ゲームをしようとしているだけなのだが。


「で、この……Leevaリーヴァというのが…。ワカナちゃんのゲームネームね。」

通話アプリの友人申請を行うと、十秒程で返信が帰ってきた。


リーヴァ『おぉ!リズだな。やっほー』

・フレンドになりました。

「あぁ…なんかリアルより元気だねワカナちゃん……。」

マリー『よろしくねリーヴァちゃん( `・∀・´)ノ』

リーヴァ『(*^^)v』

マリー『今インスコどれくらい??』

リーヴァ『後十分って書いてある。通話かけてもいい?』


着信音と共に画面に映し出されたリーヴァという名前とアニメ画像のアイコンが出てきた。

普段リアルな友達と接することのないワカナの、趣味全開なアカウント。

ちなみにリアルアカウントなど存在しない。


「もしも~し、聞こえる?ワカ…リーヴァちゃん?」

「ほう、ゲーム名で呼ぶ習慣があるとは。なかなかゲーマーとして出来上がっているようだな、マリー。さて……今のうちに種族決めておくか。」

インストールしているゲームランチャーから公式ウェブサイトの種族紹介のページへ飛ぶ。


NSOは二人で同時に始めようと決めたゲームだ。

キャラメイクに備え下調べするのはゲーマーの義務ともいえる。

初見の楽しみを取っておくのも一興だが。

「マリー!これだ!お前はエルフにするのだ!!」

幾つかの種族の紹介に目を通していると、興奮したリーヴァことワカナが大声を出した。

ヘッドホンから耳が痛くなる轟音が鳴り響く。

「え、エルフね……いいけど何だって…。」

「ふっふっふ。お前もリアル寄せのキャラメイクするのだ…さすればエルフ耳が最高に似合うに相違ない!」

「そ……そう?」


「じゃあ、私にもリーヴァちゃんの種族決めさせてよ。」

「まぁ種族によるパラメータ補正は気にならないレベルらしいから、職業は自分で決めるってことで構わないが。」

やったぁと手を叩き種族一覧を眺める。

「そうね、タミアなんてどう?」

「獣人か………わしに猫耳っ娘やら、うさ耳っ娘になれと。」

「リアルに似せてキャラメイクしてさ!絶対可愛いと思うの。」

マイク越しにワカナの唸り声が聞こえてくる。

そして、はぁ~とため息。

「わしに低身長設定および目のクマを付けろと……」

「目のクマは…別に無くていいけど。」

「まぁよくクマ付けてるし、低身長も悪くないしの。」


時々、カチカチとクリック音が鳴る。

二人共公式サイトで情報集めしながら会話を続ける。

「ふ~ん。身長パラメータでも利点とかあるんだぁ。体重なんて設定は無かったと思うけど。」

「ズバリ!当たり判定の小ささだ!これに関しては現実でも恩恵を受けているが。」

「なるほどね。」

「短剣…あるだろうな。」

「そこまでリアルの戦闘スタイルに似せなくても…ふふ。」


普段リアルをゲームの仮想世界に持ち込むという事は余り褒められた事ではないかもしれない。

と言うか、ゲームにとことんのめり込むような人間いは現実を快く思っていない者が多いのだ。

しかし実名も、顔も何もかもを伏せた世界で、自分のアイデンティティの為現実との共通点を作るのは、何も悪いことではない。


ワカナはよくリーヴァという仮想の存在に自分を重ねていた。

しかしリーヴァは現実のワカナの様に弱くはない。

ちゃんとレベルアップもするし、クランで良き先輩になることもある。

たまにリーヴァに憧れる事も。


「では、現実でも猫耳を生やさねばならないのか…。」

「リーヴァちゃん、現実を見失ってるよ?」

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