ライセンス持ちのLv1

放課後。

第十八狩猟区域。正門。

通称『羅生門』。


厳重な警備と巨大な壁で人類領域と魔獣の統べる森を隔てる羅生門。

壁の向こうに広がる魔獣の森は警戒レベル:低の初心者向けの区域だ。

ほとんどが下級魔獣という、駆け出しには持ってい来いの森なのだ。


日が傾き始めた頃、小柄な少女が15メートル強の壁を見上げていた。

遅れてやって来たスラっとしたモデル体型の少女。

警戒レベルが低いとは言え戦場、そこへ二人の少女が現れたのだ。

門を護る警備魔導兵達の注目は嫌でも集まった。


「おい、あれ。」

「あの制服、ローゲン高の奴らか。レベルゼロが居るな。」

「前に言ってた噂の子か、あの絵に描いたような美少女が?」

「違ぇよ。あのちっこい方だ」

「………うっそだろ、おい。」


警備魔導兵はマナ増強術式の書きこまれた武具を装備していた。

近代兵の様に軍用ベストと軍服に身を包んでいるが、一般兵とは違い魔導適正のある者達だ。

その武器はワカナに言わせれば、『まるでファンタジー世界の武器』だ。

佐官クラスの人間が魔剣を持っていることはよくある話。

物騒な連中に守られた門に現れたセーラー服の二人は、場違いにも程がある。


ここは放課後に遊びに来ていい場所じゃないんだぞ、そう誰かが呟いた。

政府は学生の狩りの安全には万全を期す。

狩猟許可申請を義務付け、学園支給の戦闘服着用を推奨するのもそのためだ。


「本当に来て良かったのかなぁ……みんなから見られてる気がするよ…。」

「問題無い。わしにはコレがあるからな。」

心配しているリズを想い、ワカナは種明かしする。

取り出したのは一枚のカード。ダルそうな半目のワカナの写真が貼ってある。

まだ小さい、中学生か小学校高学年程度の頃に撮ったと思われる写真だ。

無制限狩猟免許むせいげんしゅりょうめんきょだ、わしと一緒にいれば羅生門くらいすんなり通れる。」


「む、無制限狩猟免許!!?」


驚きの声を上げたのはリズではなく壁を護る警備魔導兵の一人だった。

大声を出すな、と同僚にどつかれる。

「うるせぇよ。こっち来い。」

駐屯施設の裏まで引っ張られ、改めて話をする。

「無制限狩猟免許をあのガキが?」

「そうだ。」

「そんな免許、一般のハンターですら持ってねぇぞ!」

ハンターは期間限定の許可証と免許があって初めて人類領域外での狩りが許される。

無制限狩猟免許は毎度毎度許可申請しなくても良いだけでなく、無期限、狩猟数も無制限なのだ。

狩猟団やギルドの幹部か、魔導騎士団の佐官、将校レベルに与えられる代物だ。


「まぁ元より無制限狩猟なんてのは何度も何度も許可を降ろすのが面倒になったお偉いさんが考え出したモノって話も聞くしな。」

「でも何だってあんな子供に…ローゲン高の制服着てたがあれホントに高校生かよ………。小さすぎるだろ。」

「それは関係ないだろ。」


ビィ―――ッ

ビィ―――ッ

長く駐屯する警備魔導兵でも慣れない大音量のブザー音が鳴り響いた。

二人は無意識のうちに門のある方の壁を見上げていた。

緊張、今人間の世界とその外側が繋がった。

「……開門…したな。」




ゴゴゴゴと重い音と共に華麗な装飾に包まれた巨大な魔導鉱石製の門が、左右にゆっくりと、しかし確実に開いていった。

左右の赤い魔導石がブザー音に合わせ激しい光を放つ。

「うわぁ…本当に羅生門開いてるよぉ。私制服なのに……。」

「大丈夫だろ、羅生門だし。」

「ね、ワカナちゃんも制服なんだよ?何でそんな余裕なの?」

学園支給の戦闘服は有能で、常時発動の防護術式と俊敏エンチャント術式により、使用者の防御力と機動性を底上げすることができる。

なお制服はふつうに布の服だ。

学生が安全に狩りを実践できるために戦闘服があるのに…用意する間もなく来てしまったことに、リズは不安を抱えずにはいられない。

「用意できたのは学園が貸し出してる訓練用の魔導具と……」

「これだな…わしの私物だ。」


ワカナが取り出したのは腰のホルスターに納められた刃渡り25センチ程度の短刀だった。

黒い魔獣の皮で作られた鞘には最低限のエングレーブだけが施されており、古代語で小さく『ホーラ・フェラリウス』と書かれていた。

「コイツは『ヴェリ・クロノス』、わしの相棒だ。」

ニコッと、凝り固まった表情筋で不器用に笑う。

セーラー服に、防具なし。装備、短剣一本。

二人で、一本。

と、おまけで訓練用魔導具のみ。

「でも、ワカナちゃんはそれで行けるって言うんだね?」

「その通りだ。信じて欲しい。」

「じゃあ信じる。」

覇気など片鱗も携えていない女子高生二人は、下校中に寄り道するようにフラッと人類領域の外へ踏み入った。




「なぁユーラ、俺とお前の仲だ。お前が幼女を死なせに行くような奴ではないことは知っている。」

「幼女て…だからアレは高校生だろって。」

「聞かせろ。あいつは何者だ。」

むぅと唸るユーラという魔導兵。空を見上げ、少しずつ黄昏色に染まり始めた事に気づく。

コイツはこうなってはもう抑えが効かないんだよなぁ。

仕方がないか、と頭を掻く。

「奴らが帰ってくるまでは二班が外周警戒だから時間はあるか…仕方がないな。」

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