511keV
「見えた!」
出口を抜けるや飛び込んできたのは荒れ狂う稲光。
縦横無尽に走る蜘蛛の巣状の青い稲妻とチアキを隔てるものはもはや吹き払う風のほか何もない。
轟く雷鳴に見渡せば屋上庭園とは名ばかりの廃れた円形の石舞台が広がっていた。
「ここって……」
草木も枯れ果てた崩れかけの広場は庭園というよりどこかの野外劇場のようだとチアキは思った。
足元に散らばる石積みのレンガをひとつ拾い上げようとしたまさにその時、一際大きい雷鳴が轟いてチアキは思わず石を取り落とした。
地を伝う衝撃と閃光の激しさがすぐ間近で落雷があったことを告げていた。
「はぁ、やっと追いついた」
不意に女性の声がして見やれば、石舞台の端にステージを思わす半円の舞台。その壇上へつかつかと駆け上がる一人の少女がいた。
白いワンピースをひらりとさせると少女は女神の仮面をつけながら振り返った。
「待ってたわチアキ」
仮面をつけた少女の頭上で上下する花冠を見つめながら、チアキは尋ねずにいられなかった。
「え、あの……大丈夫ですか? なんか息切れ凄いですけど」
どこか見覚えのある少女にチアキは名前を聞くのも忘れて思わず話し掛けた。それほどまでに少女が疲れて見えたから。肩で息をするその様は長距離を走り抜けたばかりのランナーのようで、それもこれも加齢のなせるわざ――
「大丈夫。ちょっと急いでただけ」
「あ、そうですか。なら良かった。あの……。もしかして、あなたが優しい女神さま?」
チアキはただただ怪訝な顔をして白いワンピース姿の少女を見つめた。本当に? この人が?? 女神???
「そうですとも」
「あ、それじゃああの。彼があなたによろしく伝えてって言ってました」
「あの人が?」
「はい。よろしくって」
したたかな女神はふふっと笑うと仮面越しにチアキを見つめた。
「おまかせあれ。それじゃあちょっと」
チアキを壇上に手招くと女神は懐から短剣を取り出して言った。
「いい? ここから先は目眩に注意。もし前がどっちかわからなくなったら焦らず辺りを見渡して。あなたはもう独りじゃない」
女神はやにわにチアキの手を引っ掴むと勢いよく短剣を頭上に掲げた。
「危なっ。ちょっと何やって……それ絶対やっちゃダメなやつ!」
「ふふっ。それでは。デア・エクス・マキナ!!」
女神が天に向かってただただ女神の名を叫ぶと、雷鳴とともに遥か上空に真っ白な光の輪が現れた。
上下に向かって走る巨大な
目も眩むばかりの閃光に包まれながら、チアキの視界で再び白い歯車が回転を始めた。
痛み始めた頭を抱えてへたりこむチアキを女神は力の限り遠くへ放り出して言った。
「行ってらっしゃい」
「ちょっと待っ……痛ッ」
「大丈夫。私たちを信じて」
仮面を外しながら優しく微笑む少女の背後で一際明るい閃光がひらめいた。
霞漂う深淵に浮かび上がる青い稲妻は突如現れた巨大な龍のようで、一歩間違えば命を落としかねないそのぞっとする美しさに、チアキは思わず息を呑んだ。
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