絵葉書
一枚の絵葉書がピンでとめてあった。
どこかの教会の建物の中から撮ったと思われる色鮮やかなステンドグラスの絵葉書だった。逆行ぎみの小ぶりな十字架越しに天井高くまで伸びるステンドグラスから、鮮やかな五彩の光が差し込んでいた。
ステンドグラスの写真の脇には雪の結晶を模したきらびやかなクリスマスのオーナメントやあかりの灯った赤いロウソクの写真が小さく添えてあった。
さらに絵葉書の中央には青いインクで何か飾り文字が書いてあった。
Glory to God in the highest, and on earth peace among men in His favour! Luke 2:14
この文字にも何か伝えるものがあるのかもしれないけれど、そんなことより、僕はステンドグラスの写真に釘付けだった。絵葉書はとても綺麗で、それでいてどことなく、神秘的な感じがした――。
それにあのステンドグラスの教会をどこかで見たことがあるような気がしたけれど……どこだろう? そもそも僕は教会という場所にあまり縁がなかったから知ってる筈もないのだけど……。もしかしたら、いつも見てるカフェのお気に入りの席から見た光景になんとなく似てたからそう感じたのかもしれない。
僕がそう無理やり結論付けたとき、準備が整って僕を探しに来たマスターに突然声を掛けられた。
「その絵葉書、綺麗でしょ」
すっかりお客さんの気分で絵葉書をしげしげと見つめていた僕は、いきなり声を掛けられて少し驚き、思わずぶしつけにマスターに聞いてしまった。
「どこかの教会ですか?」
「あぁ、昔お世話になった学校の中に小さなチャペルがあってさ。毎年この季節になると届くんだよ、忘れたころに。クリスマス礼拝のお知らせってやつ。絵葉書が綺麗だからいつもなんとなく飾っちゃうんだ。でもまあ、僕は何かを信仰してるわけじゃないんだけど……。むしろ僕の奥さんのほうが熱心にいろいろやってるよ」
マスターは振り返って大きなクリスマスツリーを見た。ひとつひとつの飾りも大きくて、ポーンの好きそうな赤や緑に輝く丸いオーナメントがいくつも吊り下がっていた。
「クリスマスの飾り付け凄く立派でしょ。結局、いつもポーンのおもちゃになっちゃうけどね」
そう言ってマスターは思い出し笑いをしながら大きなクリスマスツリーを眺めた。
大きなモミの木は奥さんの飾りつけた色鮮やかなオーナメントとポーンの小さな夢を纏って、夢のような輝きに満ちていた。
何かが存在しているということはそれだけで、想いの力に満ちている。モミの木を眺めながらそんなカッコつけたことを、考えていた。――
「綺麗だねえ」
マスターが呟いた。
「えぇ、本当に」
僕はクリスマスツリーに吊り下がった雪の結晶を見つめながら、絵葉書の教会を思い浮かべていた。
学校の敷地内のチャペルなら僕が知るわけないか……。
やはりそう結論付けたとき、マスターが僕に声を掛けた。
「さあ、そろそろ時間だよ。準備はもう整ったんだ」
マスターは笑顔で僕を次の舞台へ促した。
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