第7話 幻想の先は現実
ベッドの上に洋平の幼馴染が寝っ転がっている。いや寝転ばされている。洋平がそうしたから。洋平は幼なじみの陽菜(はるな)のことがずっと好きだった。家が隣同士で、幼稚園上がりたての頃から、二階の窓からそっちやこっちに行き来して(危ない)、どっかのロミオとジュリエットみたいに会話して、小学校も同じとこ行って、陽菜がようちゃんようちゃんって幼稚園の頃と同じノリで懐くもんだからクラスメイトにからかわれて、中学になるとそういうの公認みたいになって、高校になるとお前ら付き合ってるの? なんて言われるくらいで。でも片思いだった。気持ちを確かめたわけじゃないけれど。
幼なじみでそういう感情は、普通あまり抱かないらしい。近すぎて、兄妹みたいで、気持ち悪い。だとしたら洋平の今の感情も、衝動的に押し倒したこの状況も、全て幻覚なのかもしれない。そんな氷のような冷静と、この気持ちは俺だけのもので覚めることはないと断言するムダに暑苦しい情熱が洋平の中で戦っている。
全部冗談にしてしまえばいいのかもしれない。そしたらこんなのは笑い話で、きっと陽菜も笑って許してくれる。でも洋平はもう限界だった。嫌われても怒られても一歩踏み出したかった。手が震えておじけづく。けれど、まだ。陽菜の気持ちは聞いていない。
蛮行におよぶ前に洋平にはしなければいけないことがある。衝動的なそれより勇気の必要な言葉。喉が詰まる。声が上ずる。けれどフラれるにしろ受け入れられるにしろ、この行動を最低な思い出にしないために言わなくてはならない。
「オレさ、お前のことす、き、なんだけど」
洋平の見た幻覚が本当になるかどうかは、顔を赤らめる陽菜の返答次第。とはいえ照れ隠しにビンタでも喰らったら、そのまま疎遠になってしまう可能性もある。
だから、どれだけ茶番に見えようと、今の二人はシュレティンガー。箱の中のネコなのだ。
お題:冷静と情熱の間は現実 必須要素:三人称
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