21.九月二十七日
僕は明日夕、退院し、墓に戻る。
日によってはまだトイレへ歩くのも重労働だが、墓の方がベッドから便器に近いだけ楽かもしれない。
「食事の確保だけが心配ですね」
僕が小さな小さな声でぼやく。語尾はほとんど音にならない。良くなったとはいえ、肺活量が大きく落ちていた。それでも安蘭は全部聞きとり応えてくれる。
「大丈夫よ、私が買ってきて運ぶから。レンジでチンくらいはがんばってもらう事になるけれど」
「色々とすみま……いいえ、ありがとうございます」
僕の言い直しに、安蘭は満足げだ。膨らんだ胸を張り、ブラウスのボタンが左右へ引かれる。
「なんならあーんって食べさせてあげるわ」
「それはいいです」
「すこし噛みくだいてあげた方がいいかしら」
「だから大丈夫です」
もう独りでは苦痛が長引くだけと解っていた。今の僕は、日常生活を営む事すらできない。この不可解な赤い救済を疑ったり否定したりの強さはまだない。陸で溺れる苦痛に比べればまだ無意味だった。
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