檻を超えて(4)



 夜が明けるぎりぎりまで車を走らせた。


 小さな街の二十四時間営業のレンタカーで一凛は一台の白いバンを借りた。


 その間ほのかは車内でハルと二人きりになった。


 さすがに二人きりになると緊張した。


 後ろでハルが動いた気配がしてとっさにドアに手をかける。


 ハルは静かに言った。


「ありがとう」


 低い心地の良い声だった。


 気まずさをごまかすようにほのかはベイプを手に取った。


「吸ってもいい?」


 ハルの返事を待たずに吸引口に口をあて深呼吸する。


 車内にゆっくりと白い煙がたゆたたった。





 ほのかが自分の部屋のベッドに身を投げ出したのは昼過ぎだった。


 緊張しながら夜通し運転し疲れ果てていた。


 体と瞼が鉛のように重い。


 サイドテーブルの上にあるテレビのリモコンにどうにか手を伸ばす。


 テレビをつけたとたん、動物園正門の映像が目に飛び込んできた。



『なんと!人を襲ったゴリラが脱走しました!』


 ほのかは飛び起きた。


 思った以上に情報が漏れるのが早い。


 チャンネルを回すとどこもハルのニュースを流していた。


 が、いづれもハルが脱走したにとどまり、一凛のことを報道するところはなかった。


 ハルが単独で脱走したと思われているようだった。


 もしかしたらハルが捕まってもそのとき一緒に一凛がいなかったら一凛は大丈夫かもしれない。


 だが今さらながら自分がしたことの重大さに気づく。


 一凛が捕まれば自分が協力したこともバレるかもしれない。


 やはり二人を逃がさずに警察に行ったほうがよかったのではないか。


 一凛に恨まれるかもしれないがそれがどうしたっていうのだ。


 ほのか、ごめんね。


 一凛の言葉を思い出す。


 ずっと昔、まだ小学生だった頃ちょっとしたことでほのかは一凛に意地悪をしたことがある。


 自分の手紙に一凛が返事をしなかったという理由だけで一凛をしばらく仲間外れにしたのだ。



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