事件の真相(3)
男のロッカーを調べると中から何本かの注射器と違法ドラックらしきものが出てきた。
「すべてハルが教えてくれたことです」
彼女は言った。
男が死んでしまったのもほとんど事故だと彼女は言う。
男の行為を止めさせようと近寄ってきたハルを畏れて男はハルを棒で殴りつけた。
ハルの体には何カ所も殴られた跡があり檻に転がっていた棒には血と黒いハルの毛がこびりついていたらしい。
一凛が思ったとおり、ハルは自分に飛びかかってきた男を振り払っただけに違いない。
それがたまたま壁にぶつかり打ち所が悪かったのだ。
「それをなぜ」
世間に公表しないのか。
と一凛は言おうとしてやめた。
一頭の凶暴なゴリラが人を襲って死なせたという単純な事件と、違法ドラックを製造しそれを動物実験し売ろうとしていた男が賢いゴリラにそれを咎められ事故的に死んでしまったという事件だったらどちらが動物園側にとって都合がいいか?
動物園だけではない。
どちらが人間にとって都合のいい話か?
たとえ世間に真実を訴えたところで、世間はそれをそのまま素直に受け入れるだろうか?
否。
世間は認めないだろう。
なぜなら人がゴリラよりも劣っているはずがないからだ。
その逆はあってもゴリラが人を裁くなどということがあってはならないのだ。
人にとって都合の悪い真実は闇に葬りさらなければならない。
人対人であったら戦うこともできるだろう。
だがハルは人ではない。
ハルは人がねつ造した真実を背負わされ、何重もの鍵のかかった厚い扉の奥に閉じ込められている。
その声は誰にも届かない。
一凛は彼女の横に一緒にひざまずいた。
「わたしをハルのところに連れて行って」
彼女は一凛の手を強く握り返しうなずいた。
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