事件の真相(1)
気づくと一凛は動物園の前に来ていた。
さすがにマスコミは夜の動物園の前に張り込むようなことはもうしていなかった。
夜の動物園は暗い森のように見えた。
動物園に来たところで何ができるわけでもなかった。
でもそうせずにはいられなかった。
一目でいいハルに会いたかった。
ピンクの羽に頭をうずめるフラミンゴたちの群れの横を一凛は通りすぎる。
ほとんどの動物たちは夜は宿舎に入るが鳥類の多くはそのまま野外で過ごす。
チラチラと雨を照らす光がやって来る。
一凛は大きな木の影に隠れて警備員が通り過ぎるのを待った。
事務所に向かった。
いったい自分は何をしようとしているのだろうか。
事務所の窓から光が漏れていた。
窓に近づき中をのぞき込むとこちらに背を向け誰かが座っている。
背中の小ささと入ったロゴから女性のスタッフだと分かる。
なんとかそれらしい理由をつけてハルに会わせてもらえないだろうか。
いやハルと言わなければいい。
他の用事で宿舎へ入るカギを借りればいいのだ。
いやわざとらしすぎる。
そんな嘘は簡単にばれる。
最悪の場合、相手も女性だ。
力ずくでなんとかなるかも知れない。
一凛は笑った。
自分の思考回路が明らかに変になっている。
その時だった女性スタッフは座っていた椅子から立ち上がると奥にある扉の向こうへと消えた。
扉の向こうは長い廊下になっていてその先に更衣室がある。
チャンスだ。
一凛は急いで音を立てないように入り口から中に入った。
「一凛先生」
入った瞬間声をかけられる。
出て行ったと思ったスタッフが扉のところで一凛を見つけて驚いた顔をしている。
一凛に背をむけブラシで血を洗いながし、キラキラした目で一凛に話しかけてきたあの若い女性スタッフだった。
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