さようならハル(3)



 半透明の皮が透けて見える蒸し餃子は今まで食べた中で一番美味しい餃子だったが、三個の餃子でいつも依吹が食べているチャーハンセットと同じ値段だった。


「イタリアンとかフレンチとか海外に住んでた一凛ちゃんは食べ飽きてるだろうと思って。それに昔から一凛ちゃんってサンドイッチよちもおにぎりだったしさ」


 颯太のそんな気遣いが一凛は素直に嬉しかった。


 二時間ほどしかいられないという颯太は白いポットに入った中国茶を飲んでいる。


 何度も颯太に薦められたが、今日は自分もアルコールはいらないと一凛は断った。


 この前依吹と二人で飲んだ次の日ひどい二日酔いになり、しばらくアルコールを口にする気になれなかった。


 食事をしている間も何度か颯太の電話が鳴り、その度に颯太は一凛にあやまり席を立った。


 電話はすべて病院からのようだった。


「ほんとうにごめん、こっちから誘っておいて。でも電源切るわけにはいかないからさ」

「当たり前よ、いいのよ」


 一凛はデザートで出された白い豆腐のようなものをスプーンですくって口に入れる。


 ココナッツミルクの味が口の中で広がった。


「俺もせっかく久しぶりにちゃんとした店での食事なのになぁ」


 颯太は自分の皿に残った食べかけのちまきを頬張る。


 緊急外来はさぞかし忙しいのだろう。


 颯太の目の下にはうっすらクマができていた。


「一凛ちゃんがあっちで付き合ってた人ってどんな人?」


 唐突に颯太に訊かれ一凛はスプーンを皿に置いた。


 アレックのことをどこまで話そうか迷ったが結局丁寧に話をしてしまった。


 颯太がとても真剣に話を聞いてくれるのと、質問が巧みで誘導されるようにぺらぺらとしゃべってしまった。


 話し終わった後一抹の後悔を感じたが話してしまったものは仕方ない。


「愛なんて簡単に壊れるもんだよな」


 颯太は頬杖をついて呟いた。


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