ハルの記憶(3)
研究室とその周りの居住区という限られた空間の中では人と同じように自由な行動が取れるのだ。
二十四時間の監視付つきではあるが。
最初にそのことを知った時、わたしはなぜ彼は自らの知能を人にアピールしないのだろうかと不思議に思った。
が、彼は理解していたのだ。
いわゆる研究所に送られたところで、人が絶対的な権力を持つことになんの変わりもないということを。
検査という名のもとに無駄に体をいじくりまわされ、毎日自分の脳内をさぐるようなテストを繰りされるより、檻の中で暮らす方が静かでその知性にふさわしい生活ができると。
わたしは思う。
人のどれくらいが彼と同じような状況に立たされたとき、人としての尊厳を維持できるだろうか?
決して多くはないはずだ。
冤罪で死ぬまで投獄されるに値する屈辱である。
そのような状況の中で自らの尊厳を保ち高潔に生きる彼にわたしは敬意の念を持たずにはいられない。
わたしは思う。
もしわたしの研究とその結論に賛同してくれる人々がいるならば、わたしはこの地球上からペットショップというものをなくしたい、保健所で行われるすべての殺処分をなくしたい、犬たちのリードをなくしたい、キャリーケースをなくしたい、鳥かごをなくしたい、そして動物園を、檻をなくしたい。
多くの人は言うかも知れない。
もしそうなったら、どうやって人類は秩序ある社会と文明を発達させていくのか、原始人のような生活をしろと言うのかと、憤るだろう。
わたしは問いたい、人のためだけの社会と文明は地球上の他のすべての動物を犠牲にするほど大切なものなのだろうかと。
人が自分たちだけがその存在を理解すると豪語する神はこの宇宙を人だけに与えたのではない。
神は人の叡智がはるかに及ばない宇宙をすべての生命に平等に与えたのだ。
神はわたし達だけの神ではないのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます