再会(9)



「ううん。でも前に依吹、僻地で観察とかしたいって言ってたじゃない、だから研究とかまだこの町にいるって意外だなとも思って」


 依吹は一瞬動きを止めて一凛を見る。


「よく覚えてんなそんな昔に俺が言ったこと。まあでも同じようなもんさ、研究室という隔離された僻地にいるようなもんだから。それに一応動物園があるからな」


 注文したものが運ばれてきたのでしばらく二人は黙って食事をする。


 何気に一凛が依吹の方を見ると依吹の視線が自分の皿のエビチリに注がれている。


「エビチリ少し食べる?」


 依吹は、え?という顔をして、そのあと目を細めた。


「いいよ、でもサンキュ」


 そう言って餃子をぽんと自分の口に放り込んだ。


 ここは自分が依吹の分も支払った方がいいだろうかと一凛は会計のタイミングを今から心配した。


 動物園に調査に行くことを話すと依吹は知っていたみたいで、「ああ、それって一凛のことだったんだ」と言った。


 英国帰りのやり手の怖そうな女が来たと園長は依吹に言ったそうだ。


「ひどい、わたしそんな風に見えるかな」


 少しだか一凛は本心から傷ついた。


「一凛の肩書きだけでそういう先入観をもっちゃったんだろ。それに」


 依吹はテーブルの上の会計を真ん中の位置に戻した。


 一凛がこっそり自分の手に取りやすいところに移動させていたものだった。


「こんなことしなくていいから。つか俺、そんなボンビーに見えるか」


 くくっと、依吹は喉を鳴らして笑う。


 依吹がいる研究室は立派な研究室だった。


 立派なんて言葉はおかしいかもしれないが、少なくともエビチリセットが食べれないということはない。


「贅沢に興味がないんだよ。着るものとかなんでもいいし、正直食べ物もまずくなければそれでいい。人間だけだよこんなに欲だらけなのはさ。動物たちを見ろよ、欲なんてないからさ、きれいだよな」


 ああ、依吹は変わっていないな。


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