第三章再会(1)



 久しぶりの日本の雨はイギリスよりも重く濃い香りがした。


 一凛の目の前に赤い車が止まる。


 助手席に乗り込む一凛に運転席からほのかは声をかける。


「荷物は?」


「全部イギリスから送った」


「じゃ、このまま飲みに行っちゃおうか」


「馬鹿、運転どうするのよ」


 国際線のCAになったほのかとは一凛が日本を離れてからもずっと続いていた。


 ほのかが仕事でロンドンに来ると一緒に食事に出かけたり、時には夜の街に二人で繰り出し朝まで遊んだりもした。


「一凛が日本に本帰国するなんて意外だったな、ずっとイギリスにいるのかと思った」


 ほのかはハンドルをきりながら赤いパイプを口に加える。


「タバコ止めたんじゃないの?」


「これはベイプ」


 ほのかは口から真っ白な煙を大量に吐き出した。


 水蒸気のそれは普通のタバコと違って匂いがしない。


 ほのか曰く、今どき普通のタバコなんて時代遅れなんだそうだ。


「仕事はイギリスにいたほうがやりやすいのに、アレックと別れたのが理由じゃないよね」


「どちらかと言えばその逆」


 ほのかはぎりぎりで赤になる交差点に突っ込み他の車からクラクションを鳴らされる。


 一凛は体を固くした。


「え?今なんて言った?わたしてっきり一凛はアレックと結婚するんだと思ってた。だって長くつき合ってたじゃない、何年だっけ?」


「八年」


「高望みしすぎなんじゃない?一凛は今をときめくアニマルサイコロジストだけど、男の条件上げすぎると婚期逃しちゃうよ」


 数年前一凛が書いた論文が高く評価され、それから何冊かの本を出版した。


 その手の雑誌にコラムを連載したりテレビ番組にも出演したりと一凛は多忙な毎日を送っていた。


 一凛の知名度は日本にも伝わり、今回日本から仕事のオファーがきたのだ。


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