一凛の決意(3)
「それってあのゴリラが理由?」
一凛は応えなかった。
「別に応えなくてもいいけどさ」
颯太は舌打ちのようなため息をついた。
「なんであのゴリラがそんなにいいのか全く分かんないよ。ゴリラだぜ、猿だせ。毛むくじゃらの四本足だせ」
「そんなひどい言い方しないでよ」
一凛はきっと颯太を睨む。
「ひどいのはどっちだ。人間の彼氏はほったらかしで黒い顔したデカ鼻のゴリラ、ゴリラ、ゴリラに夢中」
列に並んでいる何人かが二人を振り返った。
「夢中になって何が悪いのよ」
「悪いさ、最近ずっと俺がこうやって朝迎えにこなくちゃ会う時間も作ろうとしない。そんなにあのゴリラがいいならゴリラとつき合えばどうだ」
黒い人影を詰め込んだバスが重そうにやってきた。
満員のバスにそれでもまだ人々は乗り込む。
「バス着たけど」
颯太は不機嫌な声で一凛を促したが一凛は傘を握りしめて動こうとしない。
「颯太さん乗って」
颯太は勝手にしろ、とバスに乗り込んだ。
一凛を雨の中に残しバスは車体を揺らせながら走っていった。
誰もいなくなったバス停に一凛が佇んでいると自転車に乗った青いポンチョが目の前を通りすぎる。
「遅刻かよ」
通り過ぎざま、そう言い捨てられる。
「依吹」
一凛は大声をあげた。
数メール先にいた依吹はのろりとUターンをして戻ってきた。
「なに」
「後ろに乗せて」
依吹は自分の腕時計を見た。
「送って行ってたら俺も遅刻すんだけど」
「学校には行かない」
「・・・・」
依吹は自転車の向きを変え来た道を戻ろうとする。
「待って」
一凛は依吹に駆け寄り、無理やり自転車の後ろに乗った。
依吹は肩を落とし一度天を仰ぐとだるそうに振り向いた。
「それじゃ濡れるだろ、ほら」
依吹は自分のポンチョを一凛に着せると一凛の傘を片手で持ち自転車をこぎ始める。
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