第12話 シーラとお友達

魔法使いで引きこもり?13巻発売記念SSです

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 シーラには仲の良い友人がいない。父親に頼んで「お茶会」を開催してもらっても、母親が「あの子と付き合うのは止めなさい」と口を挟むからだ。母親はいつも反対してばかりだった。そんな彼女の勧める女の子たちとは逆に気が合わない。おどおどしているか、変な目付きで笑う子が多いからだ。

 結局、シーラの一番の遊び相手は弟のカナンだけ。カナンは可愛いけれど、まだ二歳で会話にならない。歩くのも遅かった。正直に言えばカナンと遊ぶのはつまらない。

 そこで同じ歳の叔父、ヴィラルに目を付けた。母親は気に入らないようだったけれど、父親が「構わぬ」と許してくれた。

 そんなわけで、シーラにとってヴィラルとは「会話のできる」友人であり、母親に逆らえる目的の一つとしても格好のターゲットだった。

 もちろん、ヴィラルが叔父だということは分かっている。しかし、シーラは自然と彼を下に見ていた。母親がそんな態度だったからだ。それが「上から目線」で「失礼」なことだと知った切っ掛けは、シウという少年だった。


 父親が自分との約束を破った何度目かの日、シーラはシウに出会った。母親の連れてくる「お友達候補」とも、父親の周りにいる人とも違う。初めて見るタイプの少年に、シーラはドキドキした。しかも彼は「大きな猫」に見える騎獣のフェーレースを連れていた。小さな騎獣の子もだ。大きな猫はとても美しく、小さな猫は可愛い。

 一度は父親に諫められて下がったけれど、家庭教師のマリーナが「あんな庶民が騎獣を持つなど有り得ません。シーラ殿下にこそ相応しい」と言ってくれて、その気になった。

 母親もよく「わたくしの方が相応しい」と口癖のように話していた。美しいものへの執着が母親にはある。その姿を、シーラは「なんとなく嫌だな」と思っていたはずなのに、その時は「母親だってそうしているのだもの、いいわよね」と自分に都合良く考えてしまった。だからヴィラルに止められても撥ね除けて、小さな騎獣の子を「自分に相応しい」と言って奪おうとした。

 しかし、シウは笑顔でシーラを叱った。叱られたのは父母以外で初めてのことだった。笑顔なのに今までで一番怖いと思った。その時、シーラを庇ってくれたのがヴィラルだ。彼も怖かっただろうに、震えながらシーラの前に出てくれた。そして一緒に謝ってくれた。

 シーラも一生懸命に謝った。最初は何故謝っているのか自分でも分からなかったけれど、シウの説明を思い出すごとに理解が広がった。

 それにシウは「謝れて偉いね」と褒めてくれた。「謝っただけで?」と思ったけれど、とても嬉しかった。ヴィラルも同じ。二人で顔を見合わせたらヴィラルの頬が赤くなっていた。きっとシーラも同じだろう。

 ヴィラルとは後で話をした。「素直に謝ったら褒められるんだね」「怒られないのね」「シウって不思議な人だね」「すごい人だわ」と。

 カナンは分かっていなかったけれど、ただ、シウの用意してくれたお菓子だけは覚えていた。美味しかったと数日経っても言うほどだから、彼にとってもシウは特別になった。


 シーラはそれ以来、周りをちゃんと見るように少しずつ観察眼を鍛えた。母親の言うままに受け入れてはいけない。父親が叱ったように、ダメな家庭教師や侍女はいるのだ。その見極めをシーラ自身でもできるようになりたい。

 父親は時々、シーラの勉強の進み具合を見てくれるようになった。約束を破る回数も減った。だからか、真面目に勉強に取り組むようになったし、ちゃんとした王族になれるよう頑張ろうという気にもなった。

 シーラはたぶん、シウに「偉いね」と言ってもらえるような人間になろうと頑張っていたのだと思う。


 そんなある日、ヴィラルが熱を出して寝込んだ。ヴィラルは体が弱くて度々寝込む。その間は遊べないからシーラはつまらない。でもそろそろ床上げができるのではないか。そう教えられてヴィラルの部屋に早く行きたいと、そわそわしていた。

 ところが、シーラがお見舞いに行くより先に誰かが行ったというではないか。しかも、オリヴェル叔父様の友人だとか。

 何やら悔しい気持ちになり、シーラは先触れも出さずにヴィラルの部屋に突進した。叔父様の友人に会ってみたかったのもあるし、友人がいるというのも羨ましい。複雑な気持ちだったのだ。

 久しぶりに我が儘になったシーラだったが、そこにいたのはシウだった。

 シウは怖くない笑顔でシーラとカナンを受け入れてくれた。恥ずかしいような嬉しいような気持ちでいたら、気付いてくれて騎獣に触らせてくれる。フェレスという名の大きな猫は相変わらず美しい。それに優しかった。カナンに耳を触らせようと頭を寄せているし、尻尾でシーラを撫でてくれた。そんなフェレスの様子に気付けた自分も嬉しい。

 シウは「ブランカはまだ小さいから」という理由で「触らせてあげられない」と謝った。でも、シーラはもう知っている。ううんと首を横に振り、幼獣を主から離してはいけないことを勉強したのだと伝えた。シウはとても素敵な笑顔になった。

 褒められるのがこんなにも嬉しいなんて、シーラは知らなかった。

 そして、知ることがどれほど大事なことかも。

 もっともっと知りたい。褒められるのもいいけれど、それよりも知らないことがあるのが嫌だった。

 ヴィラルにだけこっそり宣言すると「僕もがんばる」と言い出した。

「わたしたち、お友達だものね。いっしょにがんばりましょう!」

 ヴィラルは目を丸くしたけれど、すぐに「そうだね」と同意した。

「それでね、シウにお友達になってって、いうの」

「僕も、いい?」

「もちろんよ!」

 お友達が増えるなんて嬉しいし楽しい。それが父親の友人で叔父様の友人だとしたら――。

「すてきなことよね!」

 シーラはヴィラルの次にできるであろう「お友達」について想像し、自然と笑顔になった。






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