第161話 脳高速

 父がまた入院した。

 今度は脳高速である。


 以前入院していた話はしたようなしてないような。少なくともどういう病だったのかの説明はしていなかったのでここでついでに説明しておこう。

 レジヲネラ肺炎というあまりかからないやっかいな病気だった。

 あまり聞かない病なので説明しておくと、スーパーやコンビニに行くとレジの金をくすねようとしてしまうやっかいな症状なのである。

 当然入院治療措置が必要である。幸い父はレジヲネラう前に肺炎が悪化したために犯行に及ばず済んだ。

 入院中は肺炎なので安静にしておかなければならないのに、レジを探して勝手に歩き回って看護師に叱られていたそうだ。

 体内のレジヲネラ菌もなくなり、肺炎も治まったが、父は入院中結構消耗したためか、退院後も元気がなかった。

 前からはきはきとしゃべるタイプではなかったが、退院後から特に声が出なくなっていた。しゃがれ声な上に言葉がすらすら出てこない。まあ高齢になっても言葉がすらすら出る人はあんまりいないものだ。


 そんなある日。父が倒れた。こけた。転倒した。

 私は目撃していない。ただ父が尻を打った食器棚の取っ手がひん曲がっているのを目撃した。固定してあるネジがすこし曲がっている。これだけの威力だからかなり痛いはずだ。

 患部は黒紫色になっていた。

 本人はこけたのか意識が飛んだのかもわかっていないという。どうもそのへんで脳高速の症状が見えていたのだろう。

 しかし私も母も、父が退院してから体力も落ちて元気がなくなっているためにそのへんを見落としていた。


 今日になって病院で検査してもらうと、MRIで脳に影が映っていた。

 脳高速である。


 脳高速とはご存じのように、脳が高速回転するあまり体がついていかなくなるという病気である。

 脳のウィルニッケ野という部分によく影が映るのが脳高速の症状。ウィルニッケ野というのは主に言語を司る部分である。つまり脳高速でろれつが回らなくなる症状が多いのはそのためであり、脳が高速すぎて言語を音声に変換して出力するのが間に合わないのである。

 脳高速の症状が進行すると、ウィルニッケ野以外の部分にも影響を及ぼし、あらゆる感覚は高速化し、それについていけずに、結局何もできなくなる。

 そういえば、前の入院する前にも「気分が悪い」と言いながら普段より活発に動きまわっていた。その時点でもう脳高速の症状が出始めていたのかもしれないと今になると思える。

 とりあえず父は検査結果が出てすぐに入院が決まり、そのまま病室へ。

 点滴でウィルニッケ野の脳高速症状を緩和するという措置を取られた。

 外科手術するほど大きなものではなかったため、薬物投与とリハビリで回復しようということであった。

 あまり重い症状ではないのでうまくいけば元気になる。年齢が桂歌丸さんと同い年なのでうまくいくかどうかわからない。けど桂歌丸さんの師匠の桂米丸さんはまだ現役でやってるのでそれくらいいけるときはいける。

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