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御影が鉄扇を取り出したのを機に、亜紀と蒼斗は同時に走り出した。
先手は蒼斗。
振りかぶった第一撃は薙ぎ払い。御影はその渾身の一太刀をたった一つの鉄扇で受け流した。
蒼斗は大鎌の持ち手を変え、柄で急所をそのままの勢いで狙う。
大鎌は戦闘の型が振り下ろすか薙ぎ払うかに限られているため、読んでいた御影は上体をそらして第二撃を流す。
そこに待ち構えていた亜紀が両銃を構え発砲する。体制を崩された御影は銃弾を受けるが、咄嗟の判断で急所を外した。
どちらかが隙を作り、どちらかが攻撃を与える――。
「息の合った攻撃だが、綻びはすぐにでてくるものだ」
鉄扇で蒼斗の一太刀を受ける――入りが甘かった。
閉じていた鉄扇が開き、弾かれると同時に蒼斗は全身に裂傷が生じる。
「所詮はただの付け焼刃!」
「蒼斗!」
蒼斗の身体はいとも容易く柱に叩きつけられ、衝撃で内臓に影響が出たのか吐血し、ぐったりと項垂れた。
これほどまでの力が御影に備わっているとはあまりにも予想外だった。
亜紀は左手に銃、右手に剣を握り、間合いを詰め攻撃に緩急をつけ急所を狙う。
瀬戸、千葉のサポートを受けながら殺気を振るう亜紀のその動きは目で追っていくのがやっとで、今の蒼斗が下手に加勢しようとすれば巻き添えを食いかねない。
本当に自分は非力だということを実感させられた――これが、本当の前線で常に戦い。
着実に経験を積んだ者と、たかだか一年弱戦闘訓練を繰り返してきた未熟者の差ということか。
――しかし、数多の狂魔と戦ってきた亜紀たちを相手に、御影は顔色一つ変えず隙を作ったかと思えば流れるような攻撃で銃弾や剣戟を躱していく。
ダメージを受けるとしたら、ほんの掠り傷程度。
「っ、どうなっている?」
「完全に奴の死角を突いて狙っているはずなのに……」
「どうした、もう終わりか?」
御影は頬に走る一筋の赤を親指でなぞり、静かに訊ねた。
ただの人間が、人並み以上の身体能力を持つAPOC幹部三人がかりでも倒せない。やはり彼も契約を交わしているのだろうか。
――何にせよ、どんなことを手でも、この男の息の根を止めなければならない。
亜紀は後方に下がると詠唱で剣にバチカルの力を集束させ、柄を持つ手に力が籠る。
風が亜紀を中心に巻き起こり、七つの首を持つ悪魔の影が背後で揺らめく。赤い瞳が悍ましい。
目を微かに開き、立っているのが精一杯の視界は、御影に剣を振り下ろす亜紀を捉えた。
御影の剣と激しくぶつかり合い、発散された閃光が目を眩ませる。
唸るようなバチカルの雄叫びが城中に轟き、瞬く間に起こる爆風が蒼斗たちを壁に追いやる。
――静寂が訪れた時、バチカルの雄叫びの余韻が一層それを引き立たせる。
「っ、亜紀さんは……?」
立ち込める煙を懸命に払い、亜紀の姿を探す。
ようやく晴れた先にいた亜紀は剣を両手で地に突き刺し、震える身体を支えていた。
……ひとまず、無事だった。
「奴はどうなった?」
「あの一撃で亜紀は力をかなり使った。もろに剣で受けていたから、無事じゃ……」
「残念だったね」
亜紀の向かいの煙がゆっくりと晴れていく。
差し込む人口の光の下に立っていた御影は、正常そのものだった。
所々軽傷は見受けられるが、あの一撃を受けてもまだまともに立っていられるほどの余力は残されていた。
「馬鹿な……バチカルの全力を受けてもまだ……!」
浸蝕レベルを視てもその姿は確かに狂魔に成り下がっている。それなのにバチカルの攻撃を受けてもなお存在を保っていられる。
一体、どうなっている?
困惑一色に囚われた一同に、御影は無理もないと肩を竦めて嘲笑を漏らす。
「貴様は弱い」
「何だと……?」
「弱いが故に、貴様は悪魔に頼ることしか我に対抗する術がない」
御影は手元の分厚い書物の表紙に手をかけた。そこから放たれる異様な空気に警戒の姿勢を崩せない。
「これが貴様と我の違いだ――現れろ、アバドン!」
地面に大きな亀裂が走った。裂け目から風が渦を巻いて吹き荒れ、視界を守るために両腕を前に交差させて耐える。
拡大した裂け目は、人ひとり分は優にあるだろう。
そして動きが止まるや否や、ゆっくりとそこから翼と蠍の尾を持った、馬にも似た異形が姿を見せた。金の冠を被っているのがまた異様さを増幅させる。
――これも、悪魔か? いや、これほどまで悍ましいものは悪魔の何者でもないだろう。
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