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ゲートを通り、ヘリはゆっくりと薄暗い世界へと舞った。
亜紀たちが侵入してきたのが既に知られていたのか、彼らを待ち受けていたのは熱烈な死の歓迎だった。
水魔鏡をかけ、先手必勝とばかりに引き金に指をかける。
狂魔弾はけたたましく火を噴いた。
現れる狂魔は灰となって飛び散り、そうでない衛兵たちは気を失い倒れていく。その上を幾度となく踏み潰して駆け上がり、それを延々と繰り返してく。
「御影のことだ、きっと最上階にでもいるだろうね」
「とっとと行くぞ」
だが狂魔の数は予想を大きく上回って襲いかかり、少しの隙を見せれば不意打ちを食らいかねない。
長い螺旋階段を上り続けてもその数は減ることを知らず、埒の明かなさに舌打ちを漏らす。
「――ボス! 御影摘発任務の東崎総帥ら援護のため到着いたしました!」
「!?」
ようやく最初の踊り場に足を踏み入れると、無線に聞こえるはずのない声が届く。
下から聞こえてくる数多の銃声に、馬鹿なと目を見張る。
「御影摘発任務は特命だ。何故…っ、蒼斗後ろだ!」
亜紀の怒声よりもいち早く狂魔が蒼斗へと腕を振りかぶっていた。
気づいた時には目前で、時間が止まったかのような錯覚を体感した。
全ての動作がスローモーションで……狂魔の腕が宙に跳ね飛ばされ、灰になるまで生きた心地がしなかった。
目の前の障害物が消えたことで堰き止められていた時間がどっと溢れるように流れ、蒼斗はその場にへたり込む。
「ボサッとしてんな」
「し、篠塚君……!」
呆ける蒼斗の襟首を引っ掴んで立ち上がらせた男――篠塚はAPOCと刻まれた上着を背負っていた。
訓練生ではなく、正式に捜査官として認められた何よりの証だった。
――それでは、無線越しに聞こえた援護班は他の訓練生らのものだというのか。
――そもそも彼は先の事件で謹慎状態だったはず。何故捜査官として認められているのか理解できなかった。
目が零れ落ちてしまいそうなくらい目を丸くさせる蒼斗を、篠宮は眉間にシワを寄せて睨みつける。
「みっともない姿晒してんじゃねぇよ、愚図」
「愚……!? ど、どうしてここに……?」
「ヘリでの瀬戸さんと東崎参謀代理の会話を傍受した」
「はあ!? そ、そんなことしたら後で……!!」
「そんなことは百も承知だ! 俺はお前よりも何倍も賢いんだからな! それよりも、俺たちの目的である御影を討つ機会が来たっていうのに、何もできないことの方が嫌なんだよ!」
「篠塚君……」
「これで借りは返した。自分のことは、自分でどうにかしやがれ」
篠塚は借りの意味が理解できていない蒼斗を放置し、他の捜査官らがと合流したのを確認すると声を張り上げた。
「ボス! ここは俺たちに任せて、先に行ってください!」
「ええ!? 何を言っているんですか、篠塚君!? これだけの狂魔の数なのに……!」
「俺たちの他に時期に応援も来ます。ボスたちは早く最上階へ急いでください!」
亜紀は一度見切りをつけた人間にはそれ以後歯牙にもかけない。
しかし、狂魔を的確に倒していきながら、援護に入る蒼斗の同期らを一瞥する。
――すると、亜紀は銃口を篠宮に向け、蒼斗が息を呑む間もなく発砲した。
弾は微動だできない篠塚の頬を通り過ぎ、亜紀の返答に気を取られすぎて認識しきれていなかった狂魔の額にめり込んで吹き飛ばした。
顔色が一変する蒼斗と篠塚。
一方で、亜紀は何事もなかったかのように元の狩りに戻っており、たった一言言葉を投げた。
「次はないと思え」
亜紀、瀬戸、千葉は互いに目配せすると階段を上がり始めた。
それに出遅れた蒼斗は泡食ったように三人と篠宮らを交互に見やる。
「ほら、行け」
「え、でも……」
「ボスはチャンスをくれたんだ。だから、ここはいいからお前も早く行け」
「亜紀さんが……」
次はない――それは、少なからず亜紀が篠塚らを認識したということ。
一度信頼を失えばゴミのように捨てて気にも留めなくなる亜紀が、そんなまさか……。
どういう風の吹き回しだろうか? それとも、ただこの場限りで利用価値があると考慮しての判断なのだろうか……。
いや、しかし亜紀は――…。
「篠塚」
狂魔の数が減ってきたところで、篠塚はふと、上空に何かが投げて寄越された物に気づき慌てて受け取る――それは一丁の銃だった。
「狂魔弾が効かないイレギュラーが出てくるかもしれない。まだ試作でしかないが、何かあればそいつを使え」
「ボス……」
「全部で五発入っている。使いどころは見極められるはずだ」
「は、はい……っ、ありがとう、ございます」
「……」
「蒼斗、行くぞ!」
「ほら、さっさと行ってこい!」
「っ、ここはお願いします! 気を付けてください!」
中々動かない蒼斗に痺れを切らした篠塚は、ついに邪魔だと言わんばかりに蒼斗の尻を蹴り上げて追い払う。
最近こんな扱いが多いな、と嘆きながら蒼斗は亜紀たちの後を追って階段を駆け上がる。
途中振り返れば、狂魔に囲まれながら奮闘する篠塚他の捜査官たちが奮闘していた。
いつまでも留まっていても仕方がない、もう振り返ってはいけないと固く目を瞑り、鎌を握りなおして階上を目指した。
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