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犯行の手順として、まず星妃で相手を油断させ、持ち前の力でナイフを以て脅す予定だった。
「お前は初めに、真っ昼間から酒を飲みに行っていた本山に近づいた」
「最初は上手くいったが、カギのことになると妙に警戒しだしてなぁ。瓶なんて振り回されて星妃は怪我するし、急きょオレ様が出て何発か撃ち込んで吐かせようとした。それでも喚く野郎の口を塞ぐのも兼ねて、殺すという選択肢を採ったんだよ」
そして次の狙いを大倉に定め、彼が研究所にいる時を狙って侵入。
「星妃はAPOCに俺の存在が感知されないよう自分の力でやろうとした。まったく、健気な妹だぜぇ」
「けれど、彼女ではどうにも出来なかったってところっスね」
「アイツのやり方は見ていてもどかしくなるんだ。だからベランダに追い詰め、本山と同じように手初めに手足を使えなくした。まさかその時には既にカギを飲み込んでいたとは思わなかったぜぇ」
面倒臭そうに首の後ろ掻き、思い出したように深くため息をつく。
「……奴を仕留めきれなかったのは誤算だった。なんせ、奴が死ぬ間際に自分のガキの名前を呟いたせいで星妃が反応しちまって、手こずったからな」
辰宮の人格を抑えることに意識を持って行かれた。
完全に抑えた時には、大倉が最後の力を振り絞ってベランダから飛び降りていた。気付いたのは、丁度来ていたゴミ収集車に落ちてそのまま処理場に行ってしまった時だった。
黄色いカギのありかを吐かせ損なった太一は、大倉のデスクを荒らし、彼の家も祐樹が留守の間に忍び込んだ。
太一は焦った。
このまま見つからなければアストライアは手に入らない。
最後の一人の新條は複数の女の家を転々と移っており、見つけるのは困難だった。
「そんな時だ。長髪教授様が、星妃のところに捜査の一貫で新條がいるだろう場所の資料を届けに来た。こんなにラッキーなことはなかったぜぇ」
辰宮は捜査のために新條が潜んでいる廃工場に向かった。
マスコミにより、本山に続き大倉が殺されたという情報を得ていた新條は自分が狙われることを悟っていた。
新條は辰宮の姿を見て自分を狙うものだと直感し、錯乱状態に陥り、護身用に手に入れた銃を迷わず発砲した。
「辰宮の傷はやはり新條に撃たれたものだったんですね。……そこであなたが表に出て来た」
「精肉工場だった施設はそのまま残っており、お前はそれを利用して新條の首を落とした」
身体は辰宮のものだったとしても、中身が男の太一だとすれば説明はついた。
「大事な妹を殺されかけたんだ。あれは単なる報復。テメェだって、目に入れても痛くないくらい可愛いウサ公が死にかけりゃ、ぷっつりキレてその銃で頭を吹っ飛ばすだろ」
「かもな」
「亜紀さん!」
太一は普段は辰宮の中に身を隠し、実に動きやすい状態だった。
STRP本部に飛び込んで来た傷だらけの辰宮を思い出し、蒼斗は爪が掌にめり込み血が流れるくらい拳を握りこんだ。
「……あなたは、辰宮が自分を庇ってまで守ってくれると分かっていて、それを利用してあの三人を殺害しようとしたんですね。アストライアを手に入れるために」
「語弊はあるがな。アレに辿り着くためには、そこのAPOCの総帥が厄介でな、かなり骨がいったぜ」
亜紀は部下から絶大な信頼を置かれており、その言葉は絶対的に守られる。不穏な影が少しでもちらつけば辰宮もろとも消されることは間違いなかった。
だが、その亜紀が絶対甘い妹の卯衣の性格を利用すればその攻略は簡単だった。
慈悲深い卯衣に辰宮を始末するのを躊躇させてしまえば、当然卯衣は亜紀を牽制し、亜紀は手を出せなくなる。
「ところがどっこい、今はそのウサ公にまで銃を向けられている」
「浅はかだったな」
「だが、こうしてAPOCの総帥と参謀代理、元APOC現STRPトップの奈島、そして死神の葛城……いや、工藤蒼斗といった邪魔者が揃った今、一網打尽にする機会が出来た。――そして、STRPナンバーツーもな」
「何だと?」
太一の背後の闇から下品な笑い声を発しながら無数の男たちが現れた。
彼らの目は完全に狂魔に浸蝕されてしまっていた。にもかかわらず、知性は残っているのか手にした銃を蒼斗たちに向けた。
「この人たち……同じ大学の……!」
「まだ狂魔がいやがったのか!」
「星妃は母親に似て、男の目を引くものを持っているからなぁ、駒を作るなんざちょろいもんだったぜ。しかも、狂魔になった引き金は全部テメェへの嫉妬なんだぜ、死神さんよぉ?」
他人の心を自分の私欲のために利用し、ありのままに狂魔を従える太一。
流石狂蟲の根源の一部であると感心する半面――爪を立てて掻きむしりたいくらいに腹立たしかった。
「っ、君は……!?」
蒼斗は狂魔の中に見知った顔を見つけ目を見張った。
涎を垂らし、血走った目でこちらを睨みつける篠塚――それと彼と一緒にSTRPから逃げ出した訓練生の姿もあった。
狂魔を摘発する側のAPOCの人間が摘発対象の手に堕ちるだなんて、今までにないことだった。
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