sankta urbo 竜と、聖都
庭師の回想
雪のように美しい銀糸の髪を見て、ポーテンコは心臓が止まりそうなほどの
その髪を
彼女の背には竜を想わせる白い翼が生えていた。青い静脈が生えるその翼には
幼い頃に母さんが作ってくれた
長い睫毛に覆われた蒼い眼は
彼女は故郷を見つめているのかもしれない。
この暗い水底ではなく、光り輝く
この虚ろ世界は3層に別れている。
頂点にあるのが、生命たちの起源たる地球。その中央に、虚ろ竜たちの
水底は虚ろ竜たちの父である始祖の竜が落ちた場所だとも言われている。始祖の竜の娘たちである虚ろ竜は、父親と共に虚ろの底に落ちた命を救おうとしているらしい。
「きっと彼女は、私たちを救いたくてこの地に舞い降りたのだろうね。ポーテンコ……」
耳元で囁かれ、ポーテンコは慌てて顔をあげる。
柔らかな
「教皇さま……」
「それとも、私の愛しいポーテンコを
毒々しいほどに赤い法衣を
彼は色の一族の1つにして、
彼の名をポーテンコは知らない。
名は存在そのものを規定し、その存在そのものを縛ることができる
遠い昔、名が持つその力を呪術に応用することで、教会は人々を支配してきたという。
今は
それは、夜色の二つ名を持つポーテンコも例外ではない。
そのため、聖都では人を名ではなく
彼はためらうことなく人を名で呼ぶ。まるで自分が、名を呼ぶ人々の主であることを誇示するかのように。
「ねぇポーテンコ……。彼女の名前を知りたくはないかい?」
そっとポーテンコを抱き
「何をおっしゃっているんですか?」
「実験だよ……。なぜ彼女が、この夜闇の世界にやってきたのか知るための……。ここにやってきたとき、彼女は何と言っていたと思う? 彼女は――」
告げられた言葉が信じられなくて、ポーテンコは思わず教皇を
「嘘だと思うなら、彼女に聞いてみると言い。一度しか言わないよ。彼女の名前は――」
虚ろ竜の名を教皇が口にする。
しゃらんと鎖がゆれる音がして、ポーテンコは
心臓が高鳴る。
桜を想わせる唇をかすかに少女は開いていた。繰り返し、彼女は何かをポーテンコに向かって呟いているのだ。
判然としないその言葉が、古い地球の言葉だと分かった
――Vi ŝatas manĝi vin《あなたを食べたい》
そう彼女はポーテンコに囁きかけていたのだから。
そっと眼を開けて、ポーテンコは回想をやめる。
大人となった彼の眼の前には、空になった
「どうしてあなたは、私のもとに来てくれたんですか?」
もうここにはいないかつての恋人に、ポーテンコは問いかける。
ずっと空の上からあなたを見ていたと少女は答えた。あなたの香りが、私を引き寄せたとも。
「どうしてあなたは、私を食べなかったのですか?」
泣きながら少女は答えた。
あなたを愛してしまったから、あなたを食べられないと。
そして彼女は、空へと帰ってしまった。
愛する自分をこの暗い世界に残して――
答えをくれる愛しい人はいない。それでも、ポーテンコは言葉を続ける。
「母がね、死んだんです。私とヴィーヴォを
冷たい
「あぁ、私は自分の娘の名前も知らないのか……」
ヴィーヴォのもとに卵が落ちた来たときから、悪い想像はしていた。でも、彼女が人になった姿を見た瞬間、すべては確信に変わったのだ。
在りし日の恋人と
「でも、私は嫌われ者だからな……」
弟の冷たい眼差しを思い出し、ポーテンコは眼を伏せる。
それでも、彼らを迎えに行かなくてはいけない。
それは自身の主である教皇と、自分が抱く目的のためにも必要なことなのだ。
彼の
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