104.魔力と色の話
「この世に存在する8属性には、それぞれ色があります」
授業の続きを始めると、実技もやりましょうね。とシアニスさんは手のひらを上に向けた。自然とそこへ視線が行って、瞬きの後ぼんやりと丸いものが浮かび上がる。白色に発光してる……のかな?
「これは魔力を目に見える形へ練ったものです。魔力を練り上げる際に任意の属性を付与していく事は、先程勉強しましたね」
「はい。この魔力は白いですね」
普通の人は無属性の魔力を保有する事は出来るけど、扱う事は出来ない。魔導器官が元々使えるように創られていないからだ。無理をしたら体を壊してしまうので、何がしかの属性を一緒に練り上げないといけないんだよね……教科書にも体が傷付いちゃうからちゃんと練らなきゃダメだよーって遠回しに書いてあるけども、注意喚起されてるって事は過去に誰か試したんだな。無謀が過ぎるよ見知らぬ人。
聖獣と勇者は無属性でも扱えるから、チートなんだよなぁ。テクトの何色でもない結界を思い出す。無属性は透明で確定、かな?
「白は光属性を有している証で、太陽の眩い光を表しています。この練り上げた魔力でどのような現象を起こしたいのか、その方向性を持たせるための詠唱をすると、魔法になります。この大きさの魔力ですとヒールを唱えられますので、軽傷が治ります。私が回復魔法を使った時、白い光が見えませんでしたか?」
ああー、ルウェンさんが足に青あざ作った時の。確かに、キラキラが白がかっていたような気が……あはは、いや正直ルウェンさんの痣が綺麗さっぱりなくなった事や、回復魔法が実在した事に意識が向いてたから、色に関してはあまり記憶に残ってないんだよなぁ。
私の顔から察したのか、くすりと笑ったシアニスさんは白い光をかき消して、また新しいものを生み出した。今度は青色だ。さっきより発光の度合いが減ってるから、一瞬ただのボールかと思ったよ。
「こちらの方が見慣れていますよね。水属性はこのように青系統の色になります」
「洗浄魔法の泡は水色ですもんね」
青系統……これは予想通りだね! 連想しやすい色だし、毎日使ってる魔法の属性だからなぁ。
身を乗り出してまじまじ眺めるけど、水属性が混ざった魔力なので、水がたぽんっと跳ねるわけじゃなかった。うん、大きなスーパーボールに見えてきた。
そんな私の目の前でシアニスさんの手元の球体が、まるで波が引いていくかのように淡くなっていく。気づいた時にはすべて水色に変化していた。おおっ、触ってないのにすごい!
「このように込めた魔力を薄めると、色も淡くなります。洗浄魔法の泡が水色なのは、そもそも消費される魔力が少ないからなんですよ」
「はえー……」
薄い色にも意味があったんだね。洗浄魔法は魔力をあまり扱えない子どもでも使えちゃう魔法だし、消費
「また8属性には色以外にも、司る能力があります」
「能力、ですか」
「ステータスチェッカーに出ていた、力などの6種の能力と、HPとMPの事ですよ。たとえば
シアニスさんの視線がバレッタに向かう。そういえば力増加のアクセサリは赤一色だった……って事は、火属性は力を司ってるって事か!
そう聞くと、シアニスさんは嬉しそうに頷く。いや、そこまで嬉しそうにされるとこそばゆいといいますか……シアニスさんに教えられるまま教科書のページを開くと、こう書いてあった。
火……赤……力
水……青……知性
土……橙……体力
風……黄……素早さ
木……緑……精神
金……紫……運
光……白……HP
闇……黒……MP
ついでに教えてもらったんだけども、知性は高ければ高いほど魔法攻撃の威力を上げて、精神は魔法攻撃に対する抵抗力を示すらしい。なるほどこれは魔法関係ですね、私が底辺なのもよくわかる。戦闘能力ゼロだものなぁ。
他にわかりづらい事はありますか、と聞かれたので金属性に関して聞いてみた。魔法にしては金って俗物的……って思っていたんだけど実は硬貨の事じゃなくて、鉱物や宝石って意味らしい。鍛冶師必須の属性なんだって。金運に恵まれてる属性なのかなって安直に考えてた私、反省しましょうか。あまりに欲深すぎるぞぉ。
この司っている能力は、主にステータスアップのスキルやアクセサリとかに大きな影響を与えて、魔法にはほとんど関係ないらしい。そりゃ確かに、火属性を主に扱う魔法使いが腕力溢れるマッスル系になっちゃったら、あまりにもアンバランス過ぎる。エリンさんがマッチョになって火の玉飛ばしまくってたら……想像して申し訳なくなった。うん、今のままの姿でいて欲しい。
「そういえば冒険者のタグって青色ですけど……水属性と関係あるんですか?」
シアニスさんの白ローブは回復魔法の効果を高めるためだって言ってたから、きっと光属性が関係してるんだろうけど……実はタグにも隠された能力があったとか!?
「実は、深い意味はないんです。契約式具の製作者が『ギルドは三つあるから三原色で分けたらわかりやすいだろう』と言ったのが始まりだと伝えられています」
「あ、案外、単純な理由なんですねー……」
「ええ。ただ当時、三原色という言葉は存在しておらず、周囲の人々は戸惑ったらしいですよ。未知の言語を知る製作者は勇者だったのでは、という説もありますね。あ、勇者というのは世界に厄災が訪れる時に現れる異界の戦士、という実在した伝説の人物達の事です。途轍もない強者、と伝わっています」
「へぇー……」
鍛冶ギルドでは炎と同じ赤色で自分達にぴったりだ、と嬉しそうにしている方も多いんですよ。と微笑むシアニスさんに、私はなんとか頬が引きつらないように笑い返した。
ちょっと勇者さん、それ絵具の
「さて、そろそろ実技に入りましょうか。ルイが今、どれだけ魔力をコントロール出来るか、試してみましょう」
「実技!」
やっほうテンション上がるぅう! 現金過ぎるとは思うけど、うっかり発言した勇者さんは過去の人。その問題も、当時にきっと解決したと信じよう。私は魔法の授業に戻りましょうか!
「まずは魔力の練り上げから始めます。これが出来るようになれば、魔力が暴発する心配はなくなりますよ。前手順の練り上げを省いて魔法を施行しようとすると、想定以上の魔力を放出してしまい、行き場をなくした力が体内あるいは体外で暴発してしまうのです」
「なるほど。焦って魔法使わなきゃって思うと、痛い思いをしちゃうんですね」
「ええ。ですので初心者のルイに必要なのは、集中する前の深呼吸。落ち着いて、自分が何をしたいのか、どのくらい魔力が必要なのかを一考する時間です」
なるほど。そういえば今まで洗浄魔法を使う時は、これこれこういう風に洗おうってまず想像してから泡を出してたけど、理に適っていたんだね。この方がよく綺麗になるからって思ってたけど、基本動作は無意識に出来てたわけだ。後は全然感じられない魔力をいかに練って出せるかだね。
「先程のような魔力の塊を作り出す事は、
「はい!」
「では、深呼吸を……次に、両の手のひらをくっつけて器にしてみましょう」
言われた通りに手を前に出すと、シアニスさんが自分の白い手を被せてきた。
「私がこれから光属性を付与した魔力を流します。温かいものを感じたら両手で掬うようにしてみましょう。せっかく魔力を練り上げても、
「はい!」
シアニスさんに言われた通り、両手に集中して待ってみる……おお!? 指の隙間からするすると温かい何かが零れ落ちてく感覚がある、ような?
「わっ、わっ、なんか来てます!」
「よかった、感じられましたね。これが魔力です。日向ぼっこをしているように、ぽかぽかしてきませんか」
「しますします! この部屋は肌寒いのに、すごい、なんか……そう、お昼寝出来そうな気分がしてきます」
「ふふ。そういえばしてませんでしたね。休憩にしますか?」
「いいえ、頑張りますよ!」
折角、初めて魔力らしい感覚に触れてるんだもん! 目は冴えてきてますよ!
ただ悲しいかな、私の両手がお日様のような気配を拾ってくれない! ぎゅっと隙間をなくすように力を込めるけど、何故か温かいものは流れてしまうんだよなぁこれが! なんでぇ!?
「ぐぬぬ……なかなか、全部、落ちて行っちゃいます、ね……!」
「そうですねぇ……具体的な想像力が足りないのでしょうか。ルイにとって、液体
を掬う、あるいは
「え!? 液体、ですか……そう、ですね。スープを盛る食器ですかね」
ほっこり温かい味噌汁、ポトフ、ミルクスープ、ポタージュ、ミネストローネ、もしくはカレー。ラーメンだと大きな丼になるから、ちょっと私の手では規格違いだなぁ。味噌汁の汁椀が、一番身近な気がする。
「ルイらしいですね。では、今からルイの両手はお椀で、私の魔力はスープとしましょう。お椀で受け止めないと、スープはすべて流れ落ちてしまいます」
「ええー! もったいない!」
人が作ってくれた食べ物を落としてしまうなんて! そんな事、食べるの大好きな私には何よりの苦痛ですよ!? ええい気合を入れろ、折角のご馳走を逃すとは何事か!! 私はお椀私はお椀……!!
なんて思いながら、さらに力を手に込める。全神経を手のひらに集中すると、ほわんっと零れず跳ねる感覚。おっ、これは来たのでは!?
続いて何かが指の上を滑る。何だろう……羽毛? 綿毛みたいなのがふわふわと転がり回っているかのようなくすぐったさ。
「シアニスさん、これって魔力すくえてます? 私ちゃんと出来てます!?」
「ええ。とても上手に出来ていますよ!」
私の手の上に真っ白な発光体が浮いてる。うわーっ、これが魔力! 私が掬った魔力だ!
「ルイは食べ物に関する想像の方が力を発揮できますね」
「お恥ずかしながら……食べる事が、好きなもので」
カタログブックの食べ物に関するページの多さでお察しなんだけども。
思わず視線を逸らすと、シアニスさんは私の手を両手で包んで優しく撫でてくれた。
「いいえ、恥ずかしがる必要はないですよ。現に今あなたの好きな事は、こうしてあなたを助けてくれたじゃないですか。感覚の掴み方は人それぞれです。個人の得意な方法で、覚えていくものですよ」
シアニスさんにそう言われると、そっかぁって素直に思えるから不思議だなぁ。両手が内外から温められて、肩から力が抜けていく。
私の顔がふにゃっとした所で、シアニスさんが笑顔で言った。
「では今の感覚を忘れないうちに、今度は自分で魔力を作り出して
「え」
留める事には苦労した私だけど、魔力を練り上げる事は案外簡単に出来てしまった。
シアニスさんが言った通り、私は食に関連付けるとスムーズに習得できるようだ……まさか食い意地がこんなにも良い方向に転ぶとは思ってなかったです。
私の両手はお椀であるのを前提に、水属性の魔力を練り上げる。と言っても、相変わらず魔力を操作する感覚はわからないので、水を注ぐ想像をするだけだ。
この水がミネラルたっぷりウォーターだったら、そのミネラルが魔力だったら。そう考えたら一発だったんですよね……わけわからんな私。
目の前で真っ青な球体が新しく浮かぶと、シアニスさんが微笑んだ。
「良い調子です。最初よりずっと早く作れるようになりましたよ」
「やった!」
シアニスさんの指導で、何個も作っては崩してを繰り返してたんだけど、これも意味のある事らしい。素早く球体を作れると、魔力操作の上達に繋がるんだとか。
先生の様子からすると結構進歩したみたいなんだけど、実感が湧かないのが困った所だね、この体質。
疲れていませんか、と聞かれて首を振ろうとして、このタイミングでテクトからテレパスが届く。
<ちょっとだるくなってるでしょ。素直に言いなよ>
めっちゃ監視されてた……はぁい、白状しますよーだ。もうちょっと魔法の授業受けたかったのになぁ。
まあ、また次があるよね。
シアニスさんに伝えると、教えてくれてありがとうございます、と頭を撫でてくれた。えへー。
「それでは、今日はここまでにしましょうか。お疲れ様でした」
「はい、ありがとうございました!」
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