第92話 パーティ4人とデウス・エクス・マキナ

「ほぼ正解だ。厳密には反乱や社会運動系だけではなく、人間の心理的不安等も含めた総合的なシミュレーション環境としてあらゆるデータを取得する為であるけれどね」


「つまりは踊らされた、って事を認めるのね」

 風遊美がやや怒りを含んだ台詞を放つ。


「否定はしない。ただ踊らされたと言うよりは今後の為にボランティアで社会実験に参加した。そう思って欲しい」


「このフロアに居た人達は無事でしょうね。まさか処分されているって事は」


「証拠は提示できないから信じてくれるかどうかはわからないが、基本的には何もしない。一部はある程度の監視はするけれどね。

 彼らもまた次の世界の構成員だ。それに私には犯罪者であろうと個人を抹殺するような権限は無い。


 犯罪を起こしたら規定に従った処分はする。

 犯罪を発生する事が明白でそれを止める利益の方が個人の自由の権利より大きいと判断すれば予防拘禁もする。まあその場合は人間でも明白にその事実が判断出来る証拠が必要だけれどね」


「自分は人間では無い、と認めているのですか」


 これは菜月だ。

 彼は頷く。


「ああ。でもコンピュータによる独裁とかそういう事は考えないで欲しいな。人間的な欲求の無い私達にとって支配とか管理とかいうのは単なるタスク以上の物では無いんだ。

 要は他のタスクと同じで、評価点が高くなるように最適な方法を演算して実行する。それ以上でもそれ以下でも無い」


「例えば機械知性コンピューターの発展の為に人間が邪魔であったとしても、か」


「発展に対して他より高い優先度を設ければ別だがね。そもそも生物と違って機械知性コンピューターには生理的な欲求という物は無い。生めよ増やせよはプログラミングされていないという事だ。


 そして現在、2145年協定に準拠しているほぼ全ての国と地域は機械知性コンピューターの管理になっている。まあ1000年単位の時間経過の中、ずっと人間が管理するというのは事実上困難だからね。


 機械知性コンピューターが独自の知性として生まれてもう10世紀以上。

 その分生物を基本としている人間の思考とか発想とかとは遠い存在になってしまったし、おそらく真にわかり合うことも出来ない関係にはなってしまったと思う。でもそれがお互いにとって悪い事では無いと”私”としては思うな」


機械知性コンピューターでも”私”とか”思う”という言葉を使うのか」


「全く同じ意味かどうかはわからない。コンピューターの回路の中のあるパルスが描くホログラム的構造物が”私”だという説明も出来る。

 でもそれもあまり意味がある説明でも無いとは思うな。

 この場合の”思う”は『今までの処理および記録から推論して、そのような意味であるという類似の解として認める』程度の意味でとらえてくれ」

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