○ せむし男

「驚いたな。僕と同じ病気の人と会うのは初めてだ」と、せむし男は蓮太郎に言った。「君もそうなんじゃないか?」

「うん」

「お互い、不便な体だね」

「そうだね。首が上がらないから、上を見たい時はこうして体を傾けないといけないし」

「不便なことは他にもあるだろう。人から笑われたり」

「うん。でも、僕が最近出会った人たちは、誰も僕のことを笑ったりしなかった」

「運が良かったんだよ、それは」

「そうかもね」

「僕の話をしてもいいかい?」

「どうぞ」

「僕はアオモリという土地で生まれたんだ。さる名家の跡取り息子が女中に産ませた子でね。こんなナリだから、遊びに交ぜてもらえるのは鬼ごっこの時だけだった。勿論、鬼の役ばっかりで……いや、ごめん。やっぱりやめるよ、こんな話」

「ついさっきまで、そういう話が大好きな人がいたんだけどね」

「そうか。ちょっとタイミングが悪かったな」と、アオモリから来たせむし男は笑った。

「君に会えて良かったよ」と、どちらかが言った。どちらが言ったのかはさして重要ではない。二人とも思っていたことだからだ。

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