マジン二十才 3

 途中デカートの春風荘に立ち寄るのはいつものことになっていた。

 今更の話だったのだけれど子供たちと話していて、マジンは光画機の中身を現像するのを忘れていたことにようやく気がついた。

 船小屋の現像室を借りてその場で光画を印画紙に焼き起こした。

 小一時間ほどして光画が焼き上がり、普段より多少大きめに引き伸ばした光画を見て、ソラとユエは歓声を上げた。

 軍学校で取られた入校式の幾つかの風景や軍都の建物の様子にアルジェンとアウルムの姿が焼き付けられていた。

 出発の日に撮ったスピーザヘリン一家の光画もあった。

 リザの同僚たちが春風荘を訪れた時の光画もあった。

 ソラとユエはなにやら思いついたらしく、突然自室に取って返し便箋を持ってくると、その場で一気に手紙を書き上げ、ローゼンヘン館と春風荘の光画とを選んで一緒にマジンに押し付けた。

 ソラとユエは他にも光画を選ぶとマジンに焼き増しをねだった。

 その間ロゼッタはセントーラに、軍都から連れて来られた年上の三人が格の上では部下になる、という話を聞かされていやいやネジをまかれていた。

 とはいえ、ロゼッタも転がり込んできた三年前よりは格段に落ち着いて受け答えもしっかりしていた。

 なにより男装をしていても少年と見まごわれることはなくなるくらいには、少女であることがわかる身体つきになってきた。

 ロゼッタは執事として町中の手紙の受け渡しや細々とした手配で使いを頼むことが多く、機関車や自転車を扱いやすい男装でいることが多かった。

 お使いに娘姿でいるよりも、ネクタイを締めた男装でいたほうが、デカートのお役所の対応が早いらしく、ロゼッタは男装を仕立てていた。

 ゲリエ卿の執事ともなれば、デカートの公官庁や商会ではロゼッタは木っ端役人から小娘扱いされることはだいぶ減っていた。

 デカートの政庁を女子供が訪れないというわけはなく、いくら手間が足りないと云って四捨五入をしても二十とはいえないような子供に数百千万タレルという金額を扱うような書類作成や申告をさせているマジンの常識のほうがおかしい。

 ということなのだが、ロゼッタにしてみれば子供のイタズラ扱いされて泣きそうになって、メラス検事長に助けられた経験からその時受けたアドバイスで、強そうに見せる仕事着を準備しなさいということで、ローゼンヘン館の男衆が着ている黒揃えの一張羅を着ることにした。

 仕立て屋は検事長の紹介で、布地と縫製にはうんと奮発した。

 ロゼッタは生まれて初めて金貨を使った買い物を、それも大金貨を使って買い物をした。

 その冒険の効果はあった。

 男物の仕立ての良い格好をした女児が何者であるか、ということは直にデカートの政庁やあちこちの商会で知られるようになった。

 それがローゼンヘン館のゲリエ家の執事であると結びつけば、ロゼッタを軽々しく扱う者は次第に減っていった。

 ロゼッタがローゼンヘン館の執事であることは学志館でも知られていた。

 そのロゼッタによると初等部でも高等部でもローゼンヘン館での就職を考えている卒業予定者が非公式に相当数いるという。

 ただ仕事の内容があまりに予想できないので踏ん切りの付かない学生も多く、見学と説明を許していただけないかという問い合わせが多い。

 それでもすでに二十を超える就職希望の申し出状をロゼッタは預かっていた。

 ひとまずロゼッタと子供たちに就職希望の申し出をしてきた人々の印象を確認してみたが、とくに悪印象もなさそうだったので、その場でタイプライターを使わせて、ローゼンヘン館での勤務の希望を受け入れる。

 ついては卒業ひとつき以内にローゼンヘン館に住み込みの準備をして出向くこと。

 内容詳細についてはその場で説明相談をおこなう。

 条件等の折り合いのつかない場合もデカートまでの往復はローゼンヘン工業で支払う。

 という無個性な印字文字で記述させ、それぞれに署名をした。

 手で書くのとどっちが早いのかという問題も当然に感じたが、誰が叩いても文字そのものは同じであるというタイプライターはロゼッタが春風荘で執事をおこなう上でとてつもない助けになっており、打鍵された文字の印刷のような揃い方を見て、手紙の受け取り主は幼いとさえ云える若い娘が書いたものとは思わず、職人の印刷によるものと考え、その手間を考え唸る、という虚仮威しが利いていた。

 タイプライターが優れているのは仮にマジンが打とうが誰が打とうが文字そのものは変わらないということで、マジンが一気にロゼッタの代わりに二十三通の採用状を作り、署名をしてロゼッタに託した。



 わずかばかりの人頭の手当がついたと云っても、如何許も怪しいことで、マジンにはやるべきことが多い。

 ローゼンヘン館でロータル鉄工の銃弾の改良をおこなう。

 ヴィンゼで職工と人足の手当をする。

 川沿いの工場用地を検討しながら銃弾の生産ラインの拡大をおこなう。

 機関小銃弾の生産を日産十万程度から十三万弱程度にまで引き上げるのは可能だとわかったが、工房内の動線の高速化が先で機関車の動力で弾薬の箱を一気に運ぶような構内用の作業車を組み立てることにした。

 仕事が進むのは良いことだったが、調子に乗ってばかりもいられない。

 ウェッソンとリチャーズの肉体的精神的な疲労もそろそろ気を配ったほうが良いレベルになってきてもいた。

 ふたりはマジンが留守がちな概ねふたつきの間に小銃を四千弱、部品不良率二割あまりという試験期間中としてはまずまずの好成績を残していた。なにより事故や怪我人がなかったということが素晴らしい。銃弾もふたつきで約五百万発と云っていいくらいに高い成績で生産ができていた。こちらは不良は千発に達していない。

 が、一旦様々を見なおす必要も出てきた。今も油圧ジャッキを使った台車を使って部品の籠をすのこごと滑らせるなどして省力化は図っていたが、小銃の生産規模を一日百丁から千丁を目指した数百丁に拡大するということは重量の単位が十数ストンから数グレノルになるということで、考え方を変える必要がある。製材装置の容量も拡大しないとならない。工房の床面積と館デカート間の輸送力の拡大が必要だった。

 自走ジャッキとフォークリフトの製作で構内の移動効率は著しく向上したが、あくまでもウェッソンとリチャーズの疲労と事故率を減らしたということで、直接的に生産力が伸びるわけではない。

 けれども、これで月産の小銃生産量を固定し、生産した小銃弾の整理と移動が楽になった。これだけで小銃弾の出口での停滞がなくなり、生産量の拡大が可能になった。この後既存小銃用改良弾、通称銃身清掃具の生産が始まれば、二回り重たい箱が大量に動くことになる。

 そこまでとりあえず手当をしたところで銃身清掃具の手当に着手することにした。

 口径三十シリカの銃身の刻みは製造方法の都合で捻りが刻まれていなかった。

 共和国軍で採用されたロータル鉄工製の後装小銃の銃身は、旋盤で切り込んで溝をつけるのではなく、銃身となる鋼板に銃弾の支えとなる一段硬い鉄を叩き込み段付きの板鋼を作り、それを巻き込んで銃身にしていた。

 つまりはマスケットと同じ方法で鋼の軌道を作り、そこを銃弾を滑らせる構造をしている。

 銃弾も火薬によって膨らんだスカート状の部分が峰に支えられ滑るように飛び出す。

 なかなか大した工夫であるのだが、当然にある程度ガタツキやばらつきが起こる。

 打ち込まれた鋼の峰はそれなりに揃ってはいたが一シリカほどの膨れやヨレで波打っていたし、銃身もやはり円形ではあるが乱れている。

 銃によってはっきりとした癖がある。

 そして、その峰には鉛がこびりついていた。

 銃身清掃具としての仕事がある。

 それが喜んで良いことかどうかはともかく、実際に銃身を矯正するような銃弾を作ることはそれほど難しくはなかった。

 鋼鉄製の鏃回転体に銅掛けした銃弾を尾部の切れ込みで旋回させる構造にすればよい。

 炭のベルトと銅を上掛した刃物用の鋼を弾芯にして文字通り銃身を滑らかに削り掃除するようにしてゆるやかに回転する弾丸は、多少古い銃身でも次第に癖が均されてゆくようになる。噛み締め貼り合わせではなく打ち出しで作られた薬莢は裂けることを心配しないまま火薬の調整がしやすく、弾体にライフリングを与える仕掛けを施し多少初速上げる事で低伸性の補填が出来た。

 問題は銃身が加熱しがちになるということで、加熱時に旧来の弾丸と混用すると鉛が張り付き弾づまりを引き起こす可能性が高い点と、銃身の消耗を意図的に引き起こす点だった。

 こればかりは運用上現場で注意してもらうしかない。

 共和国軍の後装小銃そのものは銃身に旋条が施されていないという点を除けば、極めて堅牢で簡素な作りでマジンとしては好感が持てる造りだった。装桿の重さも奥行き回転量もがたつきが少なく、射手が望むならある程度の幅で威力を調整できるだけの余裕があったし、そういう風に火薬を増量している。

 無煙火薬で入るだけ威力を高めて発砲してもそうそう壊れる風ではない。

 大きな衝撃が射手の握力と肩に悪いだけだ。

 ヨーセン師団のパバプル曹長に感触を確かめてもらうことにして、どのあたりが良いかの意見をもらうことにした。全く予想外の申し出にパバプル曹長は大いに戸惑っている様子だったが、古参の下士官らしく、単純に威力を上げれば当たりやすくなるというものでない、ということを理解して弾丸の特性を説明する事のできる人物で話は早かった。

 リョウはそういう意味で云うと天才肌でどういう薬量でも弾丸でもすぐにコツを掴んでしまうために参考にするのは難しかった。一方で遠当ての得意なリョウの射的に付き合うことで弾道の把握は簡単だった。

 馬上での射撃も試してもらったが、結局は好みというところで終止することは間違いなかった。騎兵突撃は千キュビットで決断、六百から八百キュビットで標的決心すべしとあるので八百キュビット近辺で騎兵胸甲が抜け、千キュビットで馬に当たればいいだろうと威力を調整することになった。

 弾丸重量に余裕があるので新型小銃よりも遠距離での風の影響は小さいものの、千キュビット近辺までは弾速と銃身のクセの方が影響が大きく、弾速がそれほど高くできないことから銃弾の特性だけで命中率を新型小銃並みに引き上げるのは無理がありそうだった。しかし銃列を狙うには十分な精度があったし、直径で三倍以上弾丸重量で約十倍の威力はバカにできない。装薬量と弾丸直径の関係で貫通力はそれほどでもないが、存速は大きく千五百キュビットを超えても樽を見えるほどに割るのは少し驚いた。

 弾薬重量で十六タレルというのは元の弾薬重量よりもやや軽いが、それでも思っていた重さよりは三割は重たい。十万発で一グレノル半というのは、昨今の輸送事情ではとくに問題だ。

 ざっくり二日かけてだいたい十五種類の試作弾薬百発づつを様々に撃たせて、軽い弾丸と重い弾丸と二種類に意見がわかれた。

 いま、共和国の歩兵小隊の備弾は一人あたり百二十発から百八十発の間をウロウロとしているらしい。二十四発か三十発入りの弾薬嚢を腰に二つつけるか三つ四つつけるか、背嚢に弾薬嚢を二つ入れるか四つ括りつけるか、だいたいそういうところで様々に意見がある。昨今の流行では二十四発入りを六つ、腰に二つ背嚢に四つ下げ、腰の分を撃ち切ると戦友から弾嚢ごと拝借するというのが一つの流行で先任下士官はそれを見越して、弾嚢ごと余計に確保している。それで数次の会敵、概ね一会戦不足はないという。

 マスケット銃の装填速度は後装銃弾の六分の一から十分の一という現実もある。

 戦訓研究では共和国軍兵が弾嚢一つを消費する間に帝国軍兵は百発余りを射耗しているだろう、という喜ぶべきか悲しむべきか判断に難しい内容の研究もある。

 戦略作戦的見地で述べれば、帝国軍の戦闘部隊は極めて短時間の会敵で戦闘力を急激に失うことを示している。兵站の連絡を失った帝国軍戦闘部隊は共和国軍の後備の検索が機能するなら縦深浸透の脅威度が低いと言えた。もちろん共和国軍の数の優勢を前提にした話である。

 戦術作戦的見地から言えば、共和国軍は装備劣勢であること無策での対決が困難であることを是認していた。

 結果として中隊規模の指揮官判断と前衛古参兵による散兵編成を重視した機動防御と簡素な縦深陣地による隠顕戦術によって対応し続けていた。さらにそれを可能にする中隊本部単位での魔導連絡の普及もあった。旧来は大隊でおこなっていたことだが、敵優勢下の戦闘は展開速度が早すぎ、砲を控えた距離にいる大隊本部では戦術判断が間に合わず、中隊の要請を大隊が追認する形で戦術局面を切り抜けていた。共和国は部隊正面を狭め、予備を重視した部隊運用をおこなっているが、しばしば中隊の戦術判断が食い違い、大隊の指揮が混乱することもある。

 困難混乱はしばしば起こるものであるが、一般的な実態として共和国軍は小規模な戦力で帝国軍を誘引足止めすることで射耗を誘い、戦闘力の低下を見計らって逆襲撃滅するという作戦をここ十年余りに確立していた。

 だが、当然兵隊個人としては冗談ではない。

 撃って撃ち返して勝てるなら、そちらのほうが当然ありがたい。

 後退が適切におこなわれると云っても、無事に敵の前から離れることが簡単なわけではない。

 出会った敵の前から走って逃げることが許されるとしても、敵の弾より早く走って逃げることは難しい。

 見切りの早い帝国軍指揮官と当たると大きな戦果を得る前に小競り合いの段階で一方的に矢弾を浴びせられ、餌だけ取られ釣果なしということも多く、数千発を射耗して銃弾と散兵の消耗こそが両軍唯一の戦果被害ということもある。

 また射程と火力の差から戦力の逐次投入という結果にもなりやすく、逆襲を逆手に取られて混淆の末に各個撃破ということもある。

 運動戦と散兵戦術は中隊連絡の徹底で達成されていたが万能の秘策というわけではなく、むしろ叩き合いで大いに負けが込んでいた共和国軍の苦肉の策というべきものだった。

 これは小銃の規格化の遅れや後装銃登場後の火力の劣勢という幾度かの波で、徹底され洗練されていったが、ともかく帝国軍の精強さに対する必死の抵抗だった。

 慢性的な装備技術上の劣勢がようやく初めて機関小銃の登場で嵐の間の風の切れ目のようなものを感じさせていたが、別の問題が同時に兵站の上で遠雷のように響いていた。

 機関小銃は、共和国軍が初めて手に入れた帝国軍に撃ち勝てる武器だった。

 そのことが却って共和国軍を苦しめるだろうことは、師団旅団を預かる将軍や拠点を預かることになる聯隊長ならば当然に考える必要のある問題だった。

 押し込まれることで短く密度を高める戦線によって瞬間的に主導権を確保し、逆襲突破する共和国軍の基本戦術は、負けに慣れ勝てるときに勝つ、ということで現場の判断領分に任せることで一定の成約があった。

 同じことを装備優勢のままにおこなうことは、戦線の拡大、戦力の散逸更には兵站の破綻や統帥権の喪失という危険があった。

 また兵站の別側面、補給連絡の問題もある。

 おそらく今後の備弾は中隊行李の弾薬量拡大で対応しつつ、一人あたり二百から四百発の線になるだろう、と後装銃が登場した十年余前から研究論文で語られていた。歩兵の備弾が倍から三倍に増えるということは、行李の大規模化と大隊中隊幕僚の物資調達と管理能力を大きく求めることに繋がり、戦闘正面から兵站維持のために人員と部隊の機動力を奪うことになる。それでも結果として中隊の戦闘能力は上がる、と当時から研究では示され、今まさに敵として帝国軍が示していた。

 単純に数という意味で言えば驚くほどのことはない予測ではあった。

 既にマジンの示した機関小銃によって各師団の一人あたりの備弾数は更に増え、作戦的判断によってばらつきが生じているが、いずれそれもある範囲に収まるだろう。

 結局はどういう風になにを重視して数を定めるかという問題である。

 ローゼンヘン館に滞在している兵隊士官たちの戦場で求められる銃弾について、現場の様相様々を聞かされるうちにある疑問、結論の前提が明らかになってきた。

 元来、そういったものは軍政の領分であったが、その軍政の破綻の結果としてマジンは他社の小銃弾の生産をおこなっていた。

 つまり。

 マジンはこの数日、全く考え違いをしている自分にようやく気がついた。

 なぜか。

 数日の間に銃弾の性能について様々に意見を求めていたが、それは全く質問や試作の方向性が、そもそも銃弾の性質が間違っていたということだった。

 少し唸って考えてから、どのみち無責任の果てのことであるならば、と全く新しい試みをなすことにした。

 単純なことだった。

 この際、輜重輸送を圧迫しないだけ、必要な威力が出るだけ軽いことが重要だった。

 運べない届かない銃弾はどれだけ性能が良くても使いものにならない。

 それが共和国軍の実情だった。

 マジンは結局新しい弾丸を作って十六種類目の弾薬を作り上げた。

 直径十五シリカの銃弾の胴回りに炭の殻を付けて三十シリカの口径に合わせた弾丸は銃口を離れ加速が終わると空中で帯を脱ぎ捨てるようにして飛んでゆく。

 薬莢全体で十二タレルと云う重量はまだ軽いとは思いにくい重量ではあったが、十八タレルあったこれまでの銃弾よりは飛翔も安定し威力もある。

 それはこれまでの試作銃弾と違って水の入った樽をまるごと吹き飛ばすような威力はなかったが、樽を貫いて破裂させるくらいの威力はあった。

 材料そのものも型の準備だけで来てしまえば、却って簡単といえる具合であったし、無理に銃身を中ぐりすることを考えなくなったおかげで銃身の加熱もほとんど起きなくなった。煤や鉛滓の問題は分かりやすく汚れた中古の銃がなくなってしまったので実証は難しかったが、わざと汚した銃身での実験では問題がなかった。

 前方に煤けた粉や殻が飛び散ると云う新たな問題が生まれたが、材料からして焦げたビスケットのかけらのようなもので背嚢を焦がしたり破るような性質のものではなかったので、今は諦めてもらうことにした。

 六回目の納品から帰ってきた貨物便の運転手たちに小遣いを与えて一日余計に休ませて、――と云ってヴィンゼまで出て行ってもカネの使いみちがあるわけでなし、館で一日ダラダラして出先での軍資金を蓄えるくらいなわけだが、――ともかく二万発ばかり試供品を拵え、イモノエ将軍に試射を頼む旨の書状とおよその性能諸元を伝票とともに託した。



 翌日、狼虎庵のジュールから妙な客が来たという知らせがあった。

 出向いてみると採用状を送った学志館の卒業生たちが早くも十人も到着していた。

 皆、駅馬車でヴィンゼまで辿り着いたは良いが、その先をどうすればいいのかわからず、保安官や町役場で尋ねてぞろぞろと狼虎庵に集まってきたという。大雑把に十六歳前後の少年少女と二十過ぎ三十前の若者と二つの年齢層にわかれた男女は、奇妙に期待した目つきでマジンを見つめていた。

 とりあえず、狼虎庵の面々を従え、新人十人と挨拶をして、まずはひとつき狼虎庵で働かせることにした。どのみち質問疑問を持ってローゼンヘン館で働きたいと希望を抱いているだろうから、質問はひと月後に改めて応えることとして、まずは狼虎庵で働くことを命じた。

「うちにいる間は殺し盗み火付けは死罪。ボクの娘を泣かせたら血を吐くまで殴る。保安官に面倒かけたら恥をかかせてやる。家にいる間は毎日風呂に入れ。朝と晩は鏡で自分の顔を確かめろ。というのが我が家の法度だ。当面、給料は月金貨四枚。食事は材料は出す。人数が増えたから調理係を雇う。週に半金貨だ。希望者はいるか。――じゃぁ、そこの、ええ、ああリンドウテラーゼ。早速今日からきみは食事係だ。キミの仕事はここにいる者たちの食事だけではなく、今後、頻繁にここを利用する人々のための食事を作ることも含まれる」

「狼虎庵は食堂なんですか」

 当然の質問が若者たちの群れから出た。

「違う。元来はヴィンゼの町に配達をおこなう氷屋だ。だが、ここがボクの家の持ち物で働いている者達、ボクの後ろに並んでいる者達はボクの執事たちだ。そのことはみんなよく知っている。だから、ボクに用事のある人々がここに訪れるし、ボクが荷を頼んだ商隊がここを経由地に使う宿房になっている。そういうことだから、諸君らが余りひどい勤務態度であるとボクは悲しい。ともかくひとつき働いてくれ。おそらくもう十人かそこらは増えるはずだが、街の人達とも仲良くやってくれ」

 マジンの言葉にセンセジュが耳打ちした。

「旦那。今のでだいたい事情は分かりましたが、十人はともかく二十人は仕事がありませんぜ」

「とりあえずひとつきのことだ。掃除と片づけできっちり働かせろ。お前らも体を使うのに慣れすぎてるから少し頭と人を使う訓練だと思って、気分を入れ替えろ。ボクも少し本気を出して色々気分を入れ替えることにする。久々に新しい氷室を建てる。お前らも、直しくらいは自信持ってできるようになったろ」

「そら、ま。もう三年以上も世話になってますし」

「直しよか新しく組むほうが、簡単だぞ。所々見てやる。使えそうな連中を見繕っておいてくれ」

「忙しいんじゃなかったんすか」

 センセジュが心配そうに言った。

「忙しい。お前らに軍都まで運転手を頼まないとならないほどに忙しい。だが、まぁお前らだけじゃ足りないから、新しくヒトを募ることにした。そう言う中じゃ、氷室はまぁ小手調べだ」

「戦争の手伝いですかい」

「ま、共和国を勝たせてやろうかってところだが、それだけじゃない」

「旦那のやることですからそうはなると思いますがね」

「ともかくは、生徒気分の若い衆を仕事する気分にさせておいてくれ」

「で、旦那はどちらに」

「町長に話をしてくる」

 そう言ってマジンはヴィンゼの町長、セゼンヌと話をすることにした。



 セゼンヌは若い連中が増えたことに機嫌を良くしていた。

 しかも彼らが学志館を出てきた博士の卵だということでなおさらだった。マジンとすれば本物の博士様が混ざっていればともかく、そうでもないならただの徒弟に過ぎず、そういう意味では残念だったが、仕方ないことでもある。

 マジンは月雇いで人足を募ることを通年でおこなう話がどうなったかを確認しに来た。

 パラパラと問い合わせがあるが、問題は素寒貧が多すぎて自力で館に辿りつけない。駅馬車の臨時便を設けてまとめて運んでくれるように町長に頼んでマジンは引き上げていった。

 ヴィンゼからの二十リーグは殊の外遠いらしい。確かに歩きなら概ね三日の距離ではあるが、健脚であれば二日だろうし、実のところ一日で歩けない距離ではない。

 そんなことを考えながら日が落ちた道を車を走らせていると半ばを少し過ぎたところで行き倒れの少女を見つけた。

 埃にまみれてはいたが、それなりに作りの良い服を着た少女はヴィンゼでは珍しい。

 死んでいれば埋めてやるところだが、生きていれば仕方がない拾って家路につく。

 行き倒れはヘルミナラ・ゴシュルと名乗った。

 そういえばそんな名前の採用通知を出した気もすると思えば、懐から封筒が出てきた。

 帰り着いてみると少年がやはり採用通知を持ってやってきていた。

 ヴィルレム・マレリウヌと名乗った彼はゴシュルと故知であるらしい。

 学志館で募集をした枠で応募してきたのだからある意味当然のことなのだが、どうやら顔馴染みというよりはもう一弾縁が深い関係らしい。

 ゴシュルが馬に乗れないということでマレリウヌが先行したのをゴシュルが徒歩で追ったということだが、ゴシュルは旅装というにはあまりに軽装でトランクひとつで部屋を移るくらいの気軽さでヴィンゼを訪れ、ローゼンヘン館に歩みを向けていた。

 たしかにマジンはローゼンヘン館からヴィンゼまで徒歩で遠駆けをすることはあるが、最低限水筒と火口に武装くらいはしている。

 マレリウヌも武装と云うには怪しげではあるけれど、剣鉈の一本も持っていた。

 馬も貸厩で借りていた。

 だが、ゴシュルはデカートの町中、よく知った街区にお使いに出かけるような格好で道行きを知らない人気のない二十リーグを歩くつもりであった。

 それならそれで朝から歩けばいいものを、ゴシュルは駅馬車でマレリウヌが着くや馬を借りてそのまま乗ってゆくのに我慢がならず、自分の足で歩き始めた。

 そういう流れであったらしい。

 顛末を自慢気に話すマレリウヌをセラムが後ろからどやしつけた。

 マレリウヌはいつまでもローゼンヘン館につかないことに業を煮やして馬に当たりつけ泡を吹かせて立ち往生していたところを気散じに出ていたセラムに拾われた。

 馬には毛布一枚と飼葉が十パウン。

 武器なく明りなく火口なく水食料もない。そういう状態で泡を吹いた馬の脇に立ち尽くしていた。

 マレリウヌは乗馬をしたことがあるが、馬の世話の経験はない。

 馬は峠を乗り越え持ち直し、足も折っていなかったようなので、厩で休ませている。

 二人共春先の荒野で野営する準備はなにもなく、ただひたすらにローゼンヘン館を目指してきた愚か者であるという。

 二人が相当の元気ものの跳ね返りなのはわかったが、馬に乗れないでは仕事にならないので軍都で雇った三人の女たちと一緒に朝と晩に乗馬の練習からということになった。

 マジンとしては新型三十シリカ銃弾の被筒を銃弾と同じペースで作る自動竈の設計と工作に忙しく、余り他のことにかまけていたくなかったのだが、事情を知らない新人が増えればそういうわけにもいかない。

 そうこうしている内に二百通ばかりの就職希望の応募が五月雨式に届き始めた。

 ローゼンヘン館ではヴィンゼに出るのさえ乗馬と野営技術くらいは必要なのだが、デカートの近辺では必ずしも乗馬や野営は必須技術ではない。

 全くそれだけのことなのだが、既に二人の少年少女が無知と無謀で死にかけたことを考えれば、それなりの対策は必要に思えた。

 人を組織だって使ったことのないマジンにとって、タイプライターを九台ばかり並べて二百通あまりの応募に返事を書かせるのさえ面倒な作業だった。

 学志館で説明会と試験をするのでローゼンヘン館に来られる準備をしてほしい。

 そういう内容だった。



 学志館の方は大きな寄付をしている上に事業で学生の将来を支えるということであれば、嫌も応もなく大教室を貸すことに応じてくれた。

 タイプライターはもともと可愛らしい文字を書くロゼッタに口頭筆記で代筆をさせるために作ったものだったが、こういう騒ぎになるなら十台と云わず百台も千台も作っておけば良かったと云える機械のひとつだった。

 それよりもいっそ手軽な活版印刷機が必要かもしれない。

 ともかく机の上にタイプライターを並べて、見本を前に手紙を作り封をする。それだけの光景で少年少女には未来の職場に見えているようで何よりだった。

 マレリウヌもゴシュルも自分がなにをやっているのかは理解しているはずだが、集中力に掛けること甚だしいので、機関小銃の組立をおこなわせることにした。

 おそらくは同い年であるはずのロゼッタが如何に働きものの器量良しであるかを痛感せずにはいられない。

 予想されたことで恐れていたことでもあったが、ローゼンヘン館に就職を希望する人間に職業的熱意に溢れていたり、自分たちがどれ程重要な事に関わっているかの理解を無意識無条件に期待することは難しいということだった。

 こうなれば生活を味わっているヴィンゼの町の人々のほうが、よほど真面目に仕事に取り組み有能にも感じられた。

 無邪気で無能だったと云えば転がり込んできた頃のロゼッタも似たようなものだったが、彼女には無能の自覚があった。

 だが、新しく現れた二人にはそういう謙虚さはなかった。実にはつらつとした無軌道な無邪気さと無根拠な自信があった。

 邪魔くさい。

 一言で言えばそういうことだが、自分で採用した手前故なく切るのも憚られる。

 結局、しばらく様子を見ることにして、顔を見ずに先着順で採用した自分の軽率を恨み、今は当面、二人には厩の世話をさせることにした。

 モイヤー率いる二十人ばかりの人足は鉄道沿いに森を切り開き木材として川沿いに運び出していた。

 そのモイヤーも党首から預けられた生意気な子供に乱暴せずにどう扱うか困っていた。

 しかし、出稼ぎで勤めてくれている人足連中は基本農家仕事は得意で、学校を出てきた育ちの良い年若いふたりをかわいがって馬の世話を教えてくれていた。

 モイヤーはヒトを仕切るのは上手いのだが、馬の世話はマキンズやマイノラには一歩劣る。

 モイヤーはうまい具合に面倒を一段突き放した形で良いように人を置くことに成功した。



 ローゼンヘン工業が単なるマジンのお遊びではなく、次第に採算事業としての様相を整えてゆく様子がマジン本人にもはっきりしてきた。

 ちょっとした製品としての機械についてもマジン本人の必要や好みとは少し違う形の機械も登場している。

 それはいくらかの危険といくらかの不合理とまたいくらかの無駄を伴っていたが、機械について習熟していない人間が扱いやすく、しかし危ない部分がわかる程度の実力を与えられた製品でもある。

 機関車の発電機を使って回せる電動工具は漏電の危険があるので水濡れの危険があるところでは使いにくいし、金物相手の作業には向いていないが、軽作業用の木工機械を動かすくらいの事はできた。

 新型の工具は人の数に頼った鋸と鉈、手斧に比べると作業の手早さそのものは大差ないが、木を引っ張り出したり、釣りだしたりという力仕事の作業にかかる人手が少なく読みやすく、集散を待たないで良い分、格段に手早くなった。

 冬春の間にエイザーの仕切りで川原近くの製材所が出来てからは工房の木工工作機械をそちらに移動させる作業を始めていた。

 製材所は上屋は雨をしのぎ間口を広くとった巨大な東屋のような造りだが、床は深く杭を穿ち水を抜き石を蒔いて鉄の網を敷き漆喰で固めた作りで、天候にあまり左右されず作業ができるようにはなっていた。

 来月には鉄道用の工員の受け入れ宿舎も作られるようになる運びでもある。

 だが、今のところはマジン個人の工房と云っても間違いではない。

 今も館の中が様々に忙しくしている中で、マジンは一人で被筒付き弾丸の自動組立機の試験と調整をおこなっていた。

 被筒は耐久材ではないために高圧釜を使わずに電気加熱で減圧乾燥炭化をおこなう単純な構造だった。

 ちっぽけな型にきれいにタネを押し込んで欠けずに蒸し焼きにするだけの、全く単純に焼き過ぎの真っ黒焦げのビスケットを作る機械であるわけだが、それでも億に届く千万発単位の銃弾を年産しようと思えば、驚くほどの量のクズイモが必要になる。

 ヴィンゼの街中でジャガイモを作っておけばローゼンヘン館がともかく引き取ってくれる、とこの二年で噂になるほどだったが、ここしばらくで評判が良くなっていた乾燥マッシュポテトを町に卸す余裕も無くなりそうだった。

 被筒を綺麗に並べて回転鍛造された弾芯に組み合わせ火薬の爪で綴じ、火薬を詰めた薬莢に落とし込み噛締める。

 ザラザラガラガラと機械を調整しながら一日二千発作るのも骨なのだが、こんなものを手作業で数百も毎日作るとなれば、職人というのもあまり楽しい職業じゃないだろう、などとマジンは本気で思った。

 木工機械を追い出し始めた工房は銃弾の製造ラインは無理をすればもう三列拡張できるくらいには広さがあった。

 だが、そんなことをすれば原料と製品の在庫を取り回すだけの余裕がなくなり、そもそもその前に工作用のデンプンの生産が追いつかなくなりそうだった。

 つまりは工房の建屋も広げる必要がある。

 仕事が仕事を膨らませ、際限が見えなくなり始めていた。

 そうこうしているうちに、日々の定まった予定が次々とやってくる。

 返ってきた輸送車の整備をマレリウヌとゴシュルにも手伝わせて荷物を積みこむ。イズール師団向けの荷物も一口だけ準備して、機関銃弾と試供品の銃身清掃具を二万発を併せて積み込んだ。



 最初のうちは単なる惚気か愚痴だったはずが、本当にリザの思いつきに巻き込まれた自分の愚かさに恨みめいたものを感じるようになっていた。

 貨物便の往復で帰ってきたシブラク軍曹によれば、帝国軍は未だアタンズに張り付いているものの、アタンズの攻略自体は一時諦めたらしい。

 少なくとも、幾らかのアタンズの負傷者が現地報告の名目で軍都に引き上げてこられるくらいには戦況は安定しているらしい。

 そう云う話を聞いて、貨物便を送り出した。

 その後二三日、銃身清掃具の製造設備を調整して、どうにか丸一日手放しで止まらない程度にまで調整して初日に八万、二日目に七万の生産を確認して不良が三千発、日産十万発まで上げてみて不良が四千発。

 銃弾の製造工程は月次の整備まで機械任せで動かすことにして、次の仕事をおこなうことにした。

 ブラウゲイルでソイルに出向き、家畜の飼料向けのジャガイモを上限無制限で買い取る交渉をすると、ソイルでは実はあまり多くのジャガイモを作っていないらしいことがわかった。

 実はほかに話が、と切り出したマジンに役所の人間が、氷室を作ってくれる気になったのか、と云う切り返しに、そのとおりだが、と答えると相手のほうが驚いた様子だった。

 全く単純に人手の問題であった製氷庫の維持の問題と、マジンの興味の問題であると云えた。

「ところで、ゲリエくん。きみは、共和国を勝たせるために元老議員になりたいんだって。本当かい」

 ソイルの町長が尋ねた。

 エチディング・テンソという名前の四十前後の首の太い野牛のような男はにこやかにそう言った。

「デカートがギゼンヌを支えれば共和国は勝ちますよ」

 マジンの中では既定の事実となった未来の確信にテンソは不思議そうな顔をした。

「アタンズが陥落しそうだという話だったが、軍は支えられるのかね」

「ボクはこのままデカートが戦争に協力しないままに、軍が帝国軍を押し戻した場合のデカートの立場を慮るばかりです。協力して負けたとしてデカートが失うのはせいぜい義勇兵です。そう思えば、早いうちにデカートの名前が出せるくらいの規模の部隊を送り出しておくほうがいいと思います。戦争に勝ったとして帝国から賠償を取れる宛はないのですから、復興費用を請求されるよりは、義勇兵のほうが安上がりでしょう」

 テンソはマジンの言葉がなにか癇に障ったのか睨むような表情になった。

「キミは戦争がしたいのかね」

「既に我が国は戦争になっている、という指摘をしたいのです」

「デカートは戦争なぞしておらん」

 テンソは氷室の話を切り出した時とは明らかに態度が変わっていた。

「デカート州は共和国の一部です。デカートは共和国のほぼ中央に位置し、国家の安定を利益として享受する地域です。仮にギゼンヌが陥落することがあれば軍都までは広い道です。二年とかからず軍都は落ちるでしょう。あそこはただ荷物の中継点として都合がいいという理由で選ばれた土地です。その西側デカートまでは目立って大きな町はありません。そうなってしまえば十万の兵を準備したとして押し返せるとも思えません。しかし今なら僅かな義勇兵でギゼンヌを支えられます。ギゼンヌが落ちなければ、その西側イズール山脈の入口を塞ぐこと自体は難しくありません。ギゼンヌを支えることはデカートを支えることにつながります。……それに、ギゼンヌの穀倉が機能しなくなってデカート周辺の穀物の動きが変わったはずです。全体に高くなっていませんか」

 マジンが話を変えたことでテンソは少し迷ったような顔をした。

 戦場からはるか遠いデカートでは実生活に影響が出るはずもないのだが、浮足立った人々が気を回しすぎて、なんとなく物価に影響が出始めていた。

「それは、まぁそうだな。麦は多少変わった」

「今のうちはあまり問題になりませんが、戦争に大きく負ければ食い詰め者がどうしても増えてきます。食料が軍に買い上げられ、高くなりますから。……そういう連中を遠ざけるためにもある程度の義勇兵は便利に使えますよ。食い詰めそうな流民同然の連中に小遣いと武器を与えてギゼンヌに送り込めば、軍からもギゼンヌからも喜ばれます。デカートの名前がみっともなくない程度に支度をする必要はありますが、勝てば感謝され負けても言い訳が立ちます」

 テンソはマジンの言葉に皮肉げに笑った。

「キミのところでは最近大きくヒトを雇っているようじゃないか。食い詰め者が多いほうが、安く雇えるんじゃないかね」

 テンソの言葉にマジンは頷いた。

「戦争で勝ったあとの準備で忙しいので、実のところ全くそのとおりなんです。よく働く仕事のできる食い詰め者がいたら、是非ともウチで雇いたいところでして」

 そういったマジンにテンソは鼻白んだ。

 改めてマジンが川沿いに土地を買い氷室にするつもりであることを告げると、ソイルの町長は少し困った顔をした。

 マジンは戦争に関する論争にあまり動揺していないようにみえた。

 それどころか戦争の先行きについて不安を抱いていないようでさえあった。

 その根拠がテンソには理解できなかった。

 だが、戦争の足音はデカートでもやがて地響きを立てることになる。

 それは多くの者にとって理解のできない形として、しかし明確に形になってデカートの人々の生活を変えた。

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