徳を積むのじゃ!

よくわからんが、要はオレは27年前にタイムスリップしたってワケだ。



で、中2からもう一回やり直せって事なのか?



そりゃ、確かにもう一度人生やり直せるなら…なんて事を考えたのは1度や2度、いやもっと考えてたよ、確かに。



だからといって実際にタイムスリップさせる事なんてあるのか?



あのジジイ、急に現れてパッといなくなるからなぁ、どうすりゃいいんだよ。



こんな事してるうちに我が愛する妻や娘、そしてバカ犬、もとい愛犬はどうしているのだろうか?


その事が心配で心配で…



「やい、ジジイ!どこ行きやがった?さっさと出てこい」



オレは部屋でジジイを呼んだ。


【さっきから喧しいヤツじゃのう。何じゃ一体?】


ボンと煙が巻き起こり、中からジジイが現れた。


…コイツホントにマンガに出てくるようなキャラだな。





「おい、ジジイ!オレはもう元に戻れないのかよ?それとも元に戻れる方法あるのか?教えてくれよ」



ったく誰がどう見ても胡散臭い格好してやがる。


おまけにその杖は何なんだ?


まさかその杖で元に戻す事が出来るんじゃないのか?




【フォッフォッフォッフォ、お主が元に戻る方法、それは…あっ、こりゃ!何をする】



オレは一瞬の隙を突いてジジイの持ってる杖を奪い取った!



「はは~ん、これかぁ、この杖でオレをタイムスリップさせやがったんだな、おい」



オレは木製の先がモコモコしてる杖を振りかざした。



「元に戻れ~っ!」



シーン…何も起こらない…



「あれ?戻らないぞ、もう一回元に戻れ~っ!」



何も起こらない…



「ありゃ?何だこりゃ!全然戻ってねえじゃんかよ!ジジイ、この杖使えねえじゃんかよ!」


ジジイは呆れた顔でオレに言った。


【全く…お前ごときが使える杖ではないわい。いいから早くその杖を返すのじゃ】



返したってまた変な時代に飛ばされそうだしな。



「じゃあ、元に戻す方法を教えろ。じゃないとこの杖へし折っちゃおうかなぁ~」



オレは杖を膝で折るような仕草をした。さぁ、折られたくなかったら元に戻す方法をさっさと教えやがれ!



【バカもん、その杖をへし折ったら2度と元には戻れんぞ!】



ジジイは慌てて止めようとするが、オレは杖を離さない。


「うるへー!どっちにしたって元に戻すつもり無えんだろ!だったらこの杖折ったって構わないよなぁ~」



オレは杖を床に叩きつけたり、足で蹴って折ろうとしたが、意外と硬い!しかも足が痛い!



【フォッフォッフォッフォ、やっぱりお主はアホじゃな。杖だけあっても元には戻らん!ある呪文を唱えないと元には戻らないようになってるのじゃ!】



「呪文?何だその呪文ってのは?教えないと今からノコギリで杖切っちまうぞ!」



オレはオヤジの部屋にあった日曜大工の道具箱からノコギリを取り出した。



「ジャーン、ホレホレ、呪文を言わないとギコギコと切っちゃうよ~ん」



オレはノコギリで杖の真ん中部分に刃を当てた。



【止めれ~っ!それが無くなったらワシャ仙人としていられなくなる!】



ジジイが慌ててやがる。



「だったら教えてもらおうか、呪文ってヤツを」



ったく、何の因果でこのジジイに27年前に戻されなきゃなんないんだ?


【わかったわかった、ったくワガママなヤツじゃのう】



どうやらジジイは観念したようだ。


「バカヤロー、どっちがワガママだ?こっちはいつもと同じように通勤してる途中で中2に戻されたんだぞ!テメーの方がワガママじゃねえか、さっさと呪文教えろ、バカヤロー!」



ったく亀仙人みてぇな胡散臭い格好しやがって何が仙人だ、こんなインチキ仙人なんざ消えて無くなれってんだ!


するとジジイは天井を見て、何やら思い付いたかのようにボソッと言った。



【おや、地震か?揺れてきたぞ】



地震?イヤ~っ!地震大ッキライ~っ!


オレは地震にからっきし弱い…


何せ最近大きな地震ばっかだからな。


オレは思わず杖を離し、机の下に身を隠した。

だが、揺れてる様子は全く無い。


「あれ、地震ないぞ…揺れてないじゃん!ジジイ、テメーウソぶっこきやがっ…あぁっ!ジジイ、テメーオレが地震に弱いのを知って…」



何と情けない…地震と聞いただけですぐに身を隠してしまう自分が情けない…



この前も地震で1人だけテーブルに隠れて妻や阿莉紗に笑われたばっかだ…


オレは机の下から出て、一応ホントに揺れてるか、蛍光灯を見た。

全く揺れてない…このクソジジイ、ウソぶっこきやがって!



…あぁ、杖が無い!



【フォッフォッフォッフォ、相変わらず地震には弱いヤツだのう。まさかこんなウソに引っ掛かるとはの、フォッフォッフォッフォ!】


このジジイ、オレが地震が大の苦手だという事を知って、ウソを言った。


「テメー、騙したな、おいっ!こっちは超ビビったじゃねえか、このウソつきジジイがっ!」



何だが赤っ恥をかいた気分だ…



【えぇ~い、喧しいわぃ!よいか、お主が元に戻る方法、それはこの中学時代に徳を積む事じゃ!】



トク…?トクって何?



「ジジイ、トクって何だ?そりゃここら辺に落っこってる物なのか?」



【バカもん!徳とはその人の持つ品性、社会的道徳を持つ事じゃ。よいか、 気品、意志、温情、理性、忠誠、勇気、名誉、誠実、自信、謙虚、健康、これらを全て身につけて徳を積む事が出来るのじゃ!そしてその徳が積み上がった時、お主は元の世界に戻る事が出来る!解ったかな?】



今更徳だと~?


「何言ってんだ、ジジイ!そんな徳なんざ、オレが最初から持ってるじゃねえかよ!大学出て企業に就職して、結婚して子供も出来てマイホームまで購入したんだぞ!こんな事、徳が無きゃ出来ねえだろうがっ!」



【相変わらず頭の悪いヤツじゃ…お主の言ってる事は社会的な地位や名誉の事に過ぎん。


よいか、徳とは自分の為の利己主義になるんじゃない、人の為になるような事をするのじゃ!】



…そういう徳ねぇ、…こりゃ、戻れそうもないゎ…







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