第23話 ネクロ・キメラ討伐戦Ⅱ

 何はともあれダフネはその機転で、プロウライト3兄弟のひとりを撃破した。


「3人相手は流石にキツかったですが……今度はわたくしのターンのようですね」

 

 ダフネはレイピアを敵の顔面から引き抜く。そして先端に付着した血をハンカチで拭き取ろうとしたところに、長兄のメイナードと次男のメルヴィンが同時に前傾姿勢で突っ込んでくる。


「〈ヴァリアント〉、ヒーリング・シャワー!!」

 ダフネは自らの左手をカエルのように変えて、水滴を浴びて腰のキズを癒す。

 

〈レイニーフロッグ〉は不死物危険度がC-でありながら、 支援をする能力としてはピカイチの性能を誇っている。結局はアンデッドの能力を取り込む事だけでなく、いかに特性を理解し使いこなすかが意義深いのだ。

 

 要するに大は小を兼ねない――。Aランクのようなパワーや派手さを持たないが、それらを十分に補える能力がCランクには秘められているのだ。


「なるほど……、あのドローンは司令塔の役割も果たしていたというわけですか」

 右腕のレイピアを高速に突き出し、左腕は肘を90度に曲げバランスを取る。


「こうなっては、ただの動きが速いだけのゾンビと変わりませんわッ……!」

 ダフネが急接近からの重い斬撃をメイナードに食らわせる。


 ドローンが壊される前に比べて、兄弟のコンビネーションは散漫になっている。


 「……フレッシュッ!!」

 スコップの柄の部分をレイピアで壊され、玉砕覚悟でダフネに襲いかかろうとするメイナード。〈ヴァリアント〉した両腕を振り下ろすが、彼女の返り討ちにあう。


「二人目……撃破でございますわ」


 本人は自覚していないだろうが、ダフネは対アンデッド戦に苦手意識を持っており、逆に対人戦に関しては無類の強さを発揮する。あのナビゲーターのアップルが舌を巻くほどなので、相当の手練てだれなのだ。


「最後のお一人は逃げてしまったようですわ……まぁ深追いは禁物ですね」


  残存したメルヴィンは戦闘によって掘られていた地面から敗走したらしい。

「遅れてしまいましたが……今からご助力致しますフレッドさん!」

 辺りに乱雑するゾンビ達を片手間で排除しながら、ダフネは西方に向かう。



「そんな……あり得ないのじゃ…………」


 焦土と化した5メートルの円内で、……その怪物は未だ生命活動を続けていた。


「グヌヌゥ……グルォオオオオオオオオオオオオオオオオオーッ!!!」

「…………シャレになってねぇよ、アップル」

(……エネルギーを全部持っていかれちまった…………)


「あの羽根……? そうかッ荒鷲あらわしのアンデッドのものか……!?」

 怒り心頭のネクロ・キメラが少しずつ上体を起こす。


「どういうことだッ、アップル!?」

「……〈蒼白伽楼羅パリッドガルーダ〉の…………『パッシブ・スキル』が働いたのじゃ……」


 『パッシブ・スキル』とは自発せずともオートで機能するステータスだ。これは『アクティブ・スキル』と違いエネルギーを消費せずに済み、『アビリティ』と異なり条件さえ整えば制限なく使用できる。

 寄生虫によって様々だが、確実なメリットとなるため便利なのは揺るがない。


「ヤツの持つアンデッドの数に気圧けおされて……全て把握はあくできなかったのぉ…………すまぬな、フレッド」

「そのパリッドガルーダの特性が俺の業火に耐えたっていうのか……!?」

 後悔の念にかられたアップルは軽微けいびにうなずいた。


「不死物危険度Bのパリッドガルーダは強力な〈レジストファイア〉というスキルを持っておる。オヌシの必殺技の威力は半減させられたのじゃ……」

 ネクロ・キメラのライフゲージはこの時点で6割弱を減らしていた。


「作戦変更じゃ! ひとまずこの場から退散するしかないッ!!」


「もう一回さっきの必殺技使うにはどれだけ時間が要るんだ!?」

 最強技が防がれ窮地に立たされるが、フレッドは気持ちを切り替える。


 〈ブレイジング・エンド〉のリキャストタイムは、現在のフレッドでは8分51秒を有す。この仕様はパラメーターの『技量』の数値が高ければ高いほど、スキルの待機時間を短縮する速度が増していく。

 主にスキルの項目を強化してくれるのが『技量』というカテゴリーなのである。


「オマエ…………絶対ニ……コロォオオオオオスッ!!!」


 ネクロ・キメラの巨体が宙に浮き、フレッドめがけて大きく翼を広げる。

「マズイのじゃ!! ガルーダ直伝の飛び道具を使う気じゃぞッ!!」

 

 アップルが注意を喚起かんきし、自身は急いで物陰に避難する。

「穴ダラケニナッテ……死ネッ……!! ガトリング・フェザー……!!」


 炎の羽根がライフル弾のごとく、フレッドに雨あられと降り注いだ。


「嘘だろぉおおおおおオーッ!?」

 両手で頭を抱えて、ハリウッド映画のワンシーンみたいにジャンプする。


  けたたましく絶叫するフレッドはエネルギーが溜まるまでの最低1分間…………、ひたすらネクロ・キメラの攻撃を避け続けるしかない――――。

「フレッド……、ヤツは視野が狭い! とにかく逃げ回るのじゃ!!」 

「盾になる障害物がほとんど無いからキツいんだよッ!!」


 周囲は荒地と畑ばかりで見通しがきく草原に、納屋がぞんざいに並んでいる。


 全力疾走しているフレッドの背後を、がむしゃらに追ってくるネクロ・キメラ。

「待テ……楽ニハ…………殺サナイッ!!」

 まだ先ほどのダメージを引きずっている事は、火を見るよりも明らかだった。

 

 だがトチ狂っているにせよ〈寄宿者〉であるならば、迅速に回復されてしまう。

「あと、40秒あれば……なんとか他の3つの必殺技が使える……!!」


 『アクティブ・スキル』は一匹の寄生虫で、最低でも10種類以上のアンデッドの能力を会得できるようになる。ただし戦闘中に扱えるのは、ひとつのパラサイト枠に4種類までしかセットアップできない仕組みになっている。


 あとは『アビリティ』の設定と同様で、非戦闘中でニュートラル状態の時にのみ、装着したスキルを変更することが可能だ。


「チョコマカト……逃ゲ切レルト思ウナッ……!!」

 どこからともなく5メートルを超える大きな岩を発現させ、片手で投げつける。

 これはハヌマーンのもつ〈スローイング・ロック〉という必殺技だ。


「あぶねッ!! でもよぉ……距離さえ空ければアイツのスキルも限定されるってもんだぜ……へっへへ…………!」


 苦渋くじゅうを味わったトラヴィスにもらったアドバイス通り、ネクロ・キメラはそれ程のスピードを出してこず、俊敏さではフレッドより若干劣っていた。

 「油断するでないぞッフレッド!!」 


 だが1つ誤算があるとすれば……――――相手にはアンデッドと違い、わずかながらに『知性』というものが潜在していること。


「〈ヴァリアント〉、……センティピード・アーム!!」

 ネクロ・キメラは岩塊がんかいを死角にして、立て続けで『アクティブ・スキル』を使用していたのだ。


「スクワームハンズの必殺技じゃ……! つかまれたら一巻の終わりじゃぞッ!!」


 節足動物のような関節をした黒く大きい腕が、まるで大蛇のように猛スピードで間合いを詰めてくる。

「しまったッ! ここまで届くのかよォオーッ!?」


 アップルの不安が的中し、50メートル先で足を止めていたフレッドに魔手が迫り、絶体絶命のピンチにおちいる。


 だが次の瞬間、フレッドの体にタックルをしてかばう人物が颯爽さっそうと現れた――――。

「……………………オヤジ!?」

 

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