第33話 やっちまったおっさん

 では、行くとするか。

 収束にかなり手間取った神の力とやらは、そこそこ回復したと思われる。


『それじゃあ、行くわ。婆さんにも伝えてくれ』

 俺の目の前には、見送りの為に少女と婆さんが揃っている。少女に言って隣の婆さんにも伝えてもらう、切り替えるのも手間だしね。

 婆さんは微笑んだまま軽く頭を下げてくれた、少女は涙目になりながらも手を振ってくれている。

『あ! そうそう、運が良ければだが再び会えるかもしれん。またな、嬢ちゃん』

 彼女がここに留まって居たら、再びまみえることになるだろう。

 婆さんのお辞儀に返すように目礼をし、少女には手を振って応え若木の元へと向かう。

『お兄ちゃん、約束だよ! また会おうね』

 少女の念が届くが、振り返らずにそのまま進む。延々と手を振ってるだけで帰れなくなりそうだもの。



 若木の元に辿り着いた。この森マジで何か居そうだよな、神が居るとは聞いたが他にも居そう。

 若木と云っても俺の胴回りくらいはある、樹皮の感じから杉だと思う。細かい種類は知らん。


「んじゃ、行くぞ!」

 深呼吸を一つして、声に出して気合を入れた。

 若木の前に身を置きイメージする。

「お前はこれから太く大きく、そして高く育つ、他の木々に負けないような大きさに育つんだ」

 転移か加速か?と考えた時もあったけど、同じものとして考えることにした。イメージするのは木の成長、そして俺はその前に居ればそれだけで良い。

「さあ、お前の育った姿を見せてくれ」

 ギュン!と一気に力を持っていかれる、うわっやられた。





「さあて、どうなったか?」

 声に出して言ってみるが特に意味は無い。目を開く、おいおいおいおいおいおいおい! デッカ。

 なんだこれ……屋久杉? 確かに大きく育てとは言ったよ…。それにしたって大きくなりすぎだろ、見上げるが天辺は見えない。

 元若木の成長に目の球が飛び出るくらい驚嘆していたので、周囲を見る余裕がなかったがどんなもんだろうか?

 数歩分下がって振り返り周囲を窺う、相も変わらず鬱蒼とした暗い森だ。季節が変ったのか、木洩れ日がほんのりと差している。



 少し冷静になり考える。一体何年経ったのだろうか? 百年単位で経過してそうだ、何が二十年だよ。

 やっちまった感が拭えない、この分じゃあの少女や婆さんはもう死んでるよな、行くだけ行ってみるか。



 大体の距離感で恐らくここがブランコの大木のあった辺りなのだが…、辺りには何も無かった。朽ちた小屋どころか、ブランコのぶら下がっていた大木すら影も形も残っていない。新たに生えて成長したであろう、若い木が数本立っているだけだ。

 見間違いや勘違いではないかと周囲を確認したが、間違いないようだ。


「すまん、約束守れなかった」

 あの少女が別れ際に言い放った約束は、果たされることは無かった。目を伏せ、黙祷を捧げる。


 一体何年経ったらこんなことになるんだよ?目標とする現代を通り越しちゃったってことは無い…よな?

 確か付近に集落があったはずだ、そちらに向かってみるとしよう。


 消耗による怠さでフヨフヨノロノロと集落へと向かう。

 集落はあった。村になっていた、町とまでは言わないだろうが結構大きくなっている。あの辺鄙な集落がだ。

 もしかしたら、あの少女の子孫が居るかもしれない。少し気が楽になったような気がした。

「時代を確認せねば」

 声に出てた。彼女の子孫が居るなら、俺を認識できるかもしれない。確認してみよう。


 結果は惨敗だった、誰一人反応してくれなかったのだ。

 参った、そして困った、どうしよう?

 とりあえず最初の大きな町を目指そう、出来れば海岸線に出て南を目指したいところだな。



 あーもう、神聖ローマ帝国の皇帝が誰なのか調べておけば良かった…。後悔先に立たずとは、よく言ったものだ。

 あの少女に会った時代が、神聖ローマ帝国の初期・中期・後期くらいの目安で分かれば、こんなに困ったりしないのにな。

 元若木の樹齢を考えると、五百年以上すっ飛んでる気がするんだよな…。


 大陸に渡ったら英語圏かな? でも、ネイティブな英語なんか分からないぞ。

 若い頃働いていた所では、ゆっくり話してくれる優しい外国人の言葉なら分かったけど、立ち話や雑談を盗み聞くしか出来ないのだから分かるはずが無い。

 一層のこと日本に行っちゃうか、恐ろしく遠いけどな。シルクロードを目視転移しながら進んでみる?それしか無いか…。自問自答しながらも進んでいく。



 言葉の壁は随分と厚かったのだ。先ぱいの翻訳空間をちゃんと学んで習得してさえいれば、こんなに苦労しなかったのに。


 マルコ・ポーロも吃驚な、移動距離だぞ。なんかいい方法はないものか?

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