第38話
※グロ&血の表現に注意。(今回は結構がっつり目です。苦手な方はご注意を)
∇∇∇
「っ!? う、あ!? ああああああ!」
風とともに現れたのは、一本のナイフ。それがヨインの手の甲に突き刺さっている。その手から血がボタリと溢れた。
そのナイフの形状には見覚えがあった。
ヨインは痛みと驚愕で声を上げ、持っていたナイフを落とす。
すぐさま木々の間から現れたのは、見覚えのある姿。
私は腕から口を外すと、声を上げる。
「ニール!!」
ニールはすぐにナイフを構えると、こちらに走り寄る。その胸元からは光が漏れている。
精霊の心臓に魔力を注いでいるのだろう。すぐに暗い光がそこから飛び出す。
すると突然私の拘束が無くなった。
「な、なんだ!? み、見えねぇ!」
私の手を拘束していたベンが、手を離し立ち上がる。何も見えていないかのように、手を振り回している。
ヨインの方も、傷を負った手を抑えながら毒付く。
「くそっ! 闇魔法ですか!!」
私はすぐに手をつきながら立ち上がり、片足でその場をなんとか離れようとする。
「レイラ!!」
ニールは私のそばに来ると、私を抱き上げる。
慣れた匂いと温度に身を任せる。子供の頃から世話になっている温度だ。
ニールの後ろからは駆け寄るヒューバレルも見えた。
よかった、きっとキースも今頃保護されているはず。時間稼ぎも無駄では無かった事に、ホッと胸をなでおろす。
そんな私を、鬼の形相でニールが睨みつける。
「このっ! 馬鹿野郎!!」
急に怒鳴りつけられて、驚きでびくりと体が跳ねる。ニールの目の当たりに視線を合わせると、微かに見える目が怒りに燃えている事に気がついた。
「……ごめん」
ポツリと呟くように言うと、ニールの私を抱き上げる手に力が入った。
「お前は……本当に……。……後で説教だからな」
低く呟いてため息をつくニールに、今回は仕方ないか、と後に来るであろう小言を受け入れる。ヒューバレルは私たちの元に辿り着くと、指笛を吹く。
ピュピュ、ピューイ、ピューイ
何かの合図なのか、高く澄んだ音が周りに響く。すぐに、近くから物音がして数人の人が現れる。
アスウェント家の者だろう。各々武器を構え、ヨインたちを囲もうとしている。
ベンは、そんな気配に気がついたのか諦めたように手を上にかざす。降参したようだ。
しかし不気味な事に、ヨインも囲まれている事に気がついているはずなのに、その口に笑みを浮かべる。
よろりと、立ち上がるとふらふらとこちらの方を見る。見えていないはずなのに。うん、気持ち悪い。
「ふふふっ、なんと残念な。ウェストル様、よかったですねえ。今は私たちの手から逃れることは出来るでしょう。ですが私たちは決して諦めません。ルフォス様にお伝えください。いつでも、私たちが狙っていると」
ニヤリと笑ったヨインに猛烈な嫌な予感がして、ニールに視線を送るとニールも気が付いたようだ。
チッ、と舌打ちをし、てヨインに背を向けニールが走り出す。
そして焦ったように他の人にも叫んだ。
「下がれ!! 自爆だ!!」
ニヤリと笑ったヨインは、顎をずらしカチリと奥歯を合わせる。
そこから光が漏れ出し……爆発した。
先ほど使っていた火爆とは比べものにはならないくらいの爆発が起きる。
爆風、爆炎、衝撃。
衝撃が私に来るのを防ぐために、ニールが足を踏ん張り私を抱え込む。衝撃がニールの体を揺らした。地面が揺れ、何かが四方八方に飛び散る。私の方にも上から小さな塊が、頰を打った。
手で触れると、赤黒いものがベッタリくっ付く。……なるほど、ヨインの残り物か。塊を掴むと、そこら辺に放る。
周りを見渡すと、ヒューバレル達も無事なようだ。
ニールが振り向く。ヨインは、跡形も……いや、細切れとなってそこらじゅうに散らばっていた。その隣には左半分が焼けただれたベンが転がっている。ニールの魔法のせいで、逃げ切ることが出来なかったのだろう。息はなんとかあるようだ。微かに胸が上下している。
ニールが悔しげに顔を歪ませる。
「あー、くそ。最初に口をなんとかするべきだった」
ニールの方を見あげると、頭のてっぺんに先ほどの私と同じようなものが付いている。手を伸ばして取ってあげるとありがとう、と呟く。
その間にバタバタとヒューバレルは部下らしき人たちに指示を出している。
「おい! そこの転がっている男を縛り上げろ! 誰かそいつを運ぶの手伝ってやれ。おい、だれか伝令に走れ。あの女も同じような自爆装置を歯に仕込んでるかもしれない。口の物を外さないように伝えろ!」
指示に一区切りつけると、ヒューバレルがこちらに走り寄る。
「レイラ! 無事、じゃないな……。足、血はそこまで沢山出てないけどすぐに治療しなきゃいけないな」
ヒューバレルは自分の懐からハンカチを取り出すと、私のナイフが刺さっている足にハンカチを近づける。
しかし、ヒューバレル殿、とその手をニールが止めさせた。
「触らないでやってください。俺が後で処置しますから。大丈夫です」
戸惑ったようにヒューバレルが手を引く。
「ありがとう、ヒューバレル。ニールは医師の知識があるから、大丈夫」
「そっか。じゃあ、すぐにでも処置できるように移動しないとね」
「そうですね。それじゃあ、俺たちはレイラの家に戻ります」
ニールが踵を返す前に、ヒューバレルに声をかける。
「ヒューバレル、洞窟の中にまだこいつらの仲間が一人と、捕まった人たちがいるから急いで、なんとかしてあげて」
伝えると、見たこともない顔でヒューバレルが頷く。これが彼のアスウェント家としての顔なのだろう。
学校でのふざけたような態度は、今はなりを潜めている。
「わかった。すぐに騎士団がここに辿り着く。すぐに残ったやつも捕まえて、捕らえられた人も保護する。レイラは屋敷にいてくれ、学校の事も気にしないで。明日は体調不良で休みって事になるから。明日あたりに会いに行く」
聴取のためだろう。私はヒューバレルの言う事に、分かった、と返す。
ニールはそのまま歩いていき、森の道へ入る。すぐにヒューバレル達は見えなくなり、ニールと私だけになる。
「レイラ、ちょっと片足で立ってくれるか? ケイラを呼ぶから」
ニールは一度止まると、私に言う。その声にはまだ怒りがこもっている。
ケイラとはニールの愛馬のことだ。
ゆっくり降ろされ片足で立つ。もう片足は、まだ燃えるように熱く、痛みがずっと続いている。先ほどは他の事で気を取られていたからか、痛みを一時的に忘れていたが。ニールが来てくれたことで気が緩んだのだろう、痛みがぶり返して来た。
いや、先程よりも痛みが増しているような気がする。
痛みに顔を顰め、耐えるために手を握りしめる。手の感覚があまり無い。
その間にニールが、鋭く指笛を一つ吹く。すぐに茂みの中からケイラが駆け寄って来た。ニールは私を抱きかかえると、先にケイラに乗せ私を抱えるように後ろに乗った。
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