一章 48 邂逅②
エルマノがルミエラの街へ行く日
村の出入口付近には人が集まっていた
ほぼ全員がヴァージルとエルマノを見送りに来ていた
村唯一の馬車の荷台にすでにエルマノは入って横になっている
かつては荷物を運ぶただの荷台だけだった馬車だが、村人達の奮起で幌が取り付けられ馬車らしくなっている
今は後ろの幌は開けられていて、そこからエルマノが顔を覗かせていると言う感じだ
「ヴァージル、我々では力になれなくて済まなかった」
頭を下げてくる村長が本当に申し訳なさそうな表情をしていた
「頭を上げてください村長。俺は村長とこの村のおかげでエルマノやリリア、レフィル、孤児院のみんなに会えたんです。恨む事は何一つありませんよ」
ヴァージルの言葉に村長も幾分表情を和らげる
「これは村人みんなからの餞別じゃ。大した金額ではないが節約すれば数ヶ月は持つだろうて」
「--村長!?」
「ふぉっふぉっふぉ、おかげで村人の懐はスッカラカンじゃ。何、どうせ銭なんか使わん。去年、今年と作物もよく取れた。食うには困らん」
そう語る村長の言葉に集まった村人からも大丈夫との声があがる
「みんな・・ありがとうございます・・」
深々と頭を下げて礼を言うヴァージルに、周りからは「がんばれよ」「絶対エルマノを元気にするんだぞ」など声が飛び交う
「そう言えば、リリアとレフィルの姿が見えないな」
不意に集まった村人の間からそんな声があがる
「別れが辛いのかも知れんな」
「ずっと一緒だったからな・・」
村人達からもそんな声が次々に聞こえてくるが、村長はニヤリと笑い
「何、アイツらなら大丈夫じゃ」
村長の言葉の意図を図りかねていたヴァージルだったが、ふと遠くから何かが駆けてくる音が聞こえる
集まった村人達も気づいたようで辺りをキョロ見回している
すると
「きゃー、遅れちゃう!レフィル急ぐわよ」
「ちょ--リリア待ってよー」
聞きなれた声が聞こえたと思うと不意に人垣が割れる
そして見知った2人が走ってくるのが見えた
呆気に取られている村人達の間を駆け抜け、同じく呆気に取られているヴァージルの前まで来て止まる
そしてふーと一息つくとリリアはヴァージルに笑顔で言う
「私も行くわ、そして冒険者になる」
「--!?」
その言葉にヴァージルが驚いていると、最初から知っていたのか村長はしたり顔だった
「いいのか・・?」
未だ戸惑うヴァージルにリリアはいつか掛けた言葉を再度紡ぐ
「何言ってんの、私達ずっと一緒でしょ。エルマノの為ならなんて事ないわよ」
その言葉にヴァージルはこみ上げてくるのを堪えるのに大変だったが、リリアの後ろから聞こえてきた声に何とか我慢できた
「待ってよー。リリア早すぎ」
はぁはぁと息を切らせて到着したレフィルには恨めしそうにリリアを見る
ちなみにレフィルの背には巨大なリュックが乗っかっていた
「レフィルは鍛え方が足らないのよ!そんなんじゃ強くなれないわよ。冒険者になったらそんな荷物くらいこれからしょっちゅう持つんだから」
「こ、これほとんどリリアの荷物--」
「な・に・か・言った?」
「ぎゃーー痛い痛い。両耳は反則だって」
レフィルの耳を抓り上げるいつもの光景に周りの村人達からはドッと笑いが起こる
エルマノも表情には笑みが浮かでいた
「レフィルも、いいのか?」
ヴァージルの言葉にリリアのいじめから解放されたレフィルは耳を擦りながら
「僕も4人一緒だと思ってるから」
と真っ直ぐな瞳でヴァージルを見る
「とか言って、冒険者は危ないって渋ってたくせに」
「ちょっ、それは言っちゃダメだよ」
2人のやりとりに再び周りからはドッと笑いが巻き起こる
ヴァージルはそれをしばらく眺めていたが
「これからもよろしく頼むリリア、レフィル」
「もちろんよ」
「うん」
ヴァージルの言葉に2人は満面の笑みで答える
エルマノも最初は浮かない、申し訳なさそうな表情だったが、2人の言葉で目尻に涙を浮かべ笑顔だった
「これからもよろしくねエルマノ」
「よろしくエルマノ」
「はい」
4人がそんなやり取りをしていると
「さて、そろそろ中天になる。ラクセス様達が来る頃だろう」
空を見上げながら村長がそう言うと人垣の外側がにわかに騒がしくなってきた
そして再び人垣が左右二つに分かれると一際高級そうな馬車がこちらに向かってくるのが見えた
その馬車はヴァージル達の手前で止まるとラクセスが馬車から下りてきた
見習い達は御者台だ
「お待たせしてしまいましたかな?」
幾分申し訳ない表情でラクセスは言うが
「いえ、大丈夫です」
ヴァージルはそう言うとラクセスは「そうですか」とニコリと笑う
「それでは行きましょうか。今からなら日没までには間に合うでしょう。我々が先に行きますので後ろを付いてきてください」
「わかりました」
「村長さん、バタバタしてしまい申し訳ありませんね」
「そんな事はありません。エルマノを、彼らをよろしくお願いします」
村長の言葉にラクセスはニコリと笑うと「では」と短く呟き馬車に乗り込んだ
ゆっくり発進するラクセス達の馬車が進み、リリアやレフィル達も慌てて馬車に乗り込んだ
「では行ってきます」
「うむ、エルマノを頼むぞ」
村長の言葉に力強く頷くと、ヴァージルは御者台に乗り込んだ
村人からは口々に別れの挨拶が飛んでくる
「絶対戻ってくるから!みんなも元気でね」
ヴァージルが馬車を発進させると、リリアとレフィルは馬車の後ろで見えなくなるまでずっと手を振っていた
エルマノはその光景をずっと眺めていた
道中は特に何事もなく進み夕日が沈む前にはルミエラの街に着くことができた
ラクセスは街の入口の屯所の兵と何事か話している
おそらくヴァージル達の事だろう
その等のヴァージル達はルミエラの街の巨大さに面食らっていた
まともな街と言うのは初めてで、比較対象が先に住んでいた村なのだから仕方ないが
街のデカさに圧倒されていると屯所の兵と話を終えたラクセスが話しかけてきた
「話は通しておきました。ではまいりましょうか」
そういうと馬車の中に引っ込む
御者台に乗っている見習い達が馬車を動かすと、ヴァージル達も我に返り慌てて馬車を発進させた
街中を馬車で通る時にリリアとレフィルはしきりに辺りをキョロキョロと見ていた
以前の村に比べたら天と地程の差があるのだから当然と言えば当然か
ルミエラの街は石造りで造られた綺麗な街と言う印象を持ったようでリリアとエルマノは石造りでできた花壇に色とりどりの花が咲いているのを見て笑顔だった
先に街中をゆっくり走っていたラクセス達の馬車がある場所で止まる
そこは一際大きく1000人は有に収容可能な程の教会だった
馬車からラクセスが降りたのを見たヴァージル達は慌てて同じように馬車から降りる
ヴァージルはエルマノを背中に背負う
「着きましたよ」
ラクセスに言われて改めて見た、見上げた建物は荘厳の一言だった
「す、すごいね」
「う、うん」
レフィルとリリアはそれ以外の言葉は出なかった
ヴァージルはアルス教会を見上げながら真剣な表情だ
「馬車はこちらで馬車置き場へ運んでおきましょう。中へどうぞ」
ラクセスの馬車に乗っていた見習いの1人がヴァージル達の馬車に乗り、馬車を移動させていく
中へ入るラクセスにヴァージル達は緊張の面持ちであとに続く
入って見ても圧巻の一言だ
どことなく西洋の教会を思わせるつくりは天井は遥か高くアーチ状になっていて、左右対象の造り
奥は広いホールになっていて、窓にはステンドグラスが張られその壮大さは一目見たら忘れられないであろう
「まずはエルマノさんの部屋を案内しましょう」
ラクセスはそう言うとすぐに近くの扉に手をかけ中へ入る
部屋の中は12畳程の広さを持ち、調度品は収納家具とベッドにテーブルなど必要最低限の物しかない簡素な部屋だった
「ここがエルマノさんの部屋です。あ、ベッドに寝かせて上げてください」
ヴァージルは言われた通りにエルマノをベッドへ寝かせる
ラクセスはテキパキと簡単な問診を行う
「ふむ、少し体調が悪そうですな。馬車の移動が堪えたかもしれません」
そう言われエルマノを見ると些か辛そうだったが、ヴァージル達には笑顔を向ける「大丈夫と」
「それで貴方方の部屋なのですが・・・」
ラクセスが少し言葉を濁したのをいち早く察したヴァージルは
「街の宿屋に泊まりますから大丈夫です」
と答えた
ラクセスは申し訳なさそうに頭をかきながら
「いや、丁度空いてる部屋がなかったものでして」
「急に同行を頼んだのは私達ですから気にしないでください」
「そう言ってもらえると助かります」
大荷物を背負ったレフィルだけは不満そうな表情だった
「もう日も暮れますので、先に宿屋で部屋を取りたいと思うのですが」
「ああ、そうですね。せっかくだから今日の食事はこちらで食べてはどうですかな?」
「いいんですか?」
ラクセスの粋な計らいの言葉にリリアは嬉しそうに声を上げた
「ええ、では後でエルマノさんの部屋に食事をお持ちしましょう」
ラクセスはそういうとでは後ほどと言って部屋を出ていった
ヴァージル達も宿を借りるべく教会を後にし、エルマノは疲れたのか寝入ってしまった
そして再び集まった4人は久方ぶりに4人水入らずの団らんで食事をしたのだった
・・・・・・・・・
「いいですか?絶対悟られてはいけませんよ?」
「わかっています」
小声で奥の部屋の話す人物は顔は暗がりで顔はよく見えなかったが、縦に青い線が入っているローブを着ていた
「まさかここでハイエルフの素体が手に入るとは」
そう発言した男の顔の口元には笑みが浮かんでいたがそれを見られる事はなかった
・・・・・・・
翌日、ヴァージル達3人は冒険者ギルドに行き無事冒険者登録を済ませた
ヴァージルは剣を武器に近接職、レフィルは剣、弓で近、中距離の万能型、リリアは中、後衛として魔術と弓を手に持つ
そして彼らはメキメキと短期間で頭角を表し、一気にCランクまで到達し、実力的にBランクに近いCランクとして活躍していた
ちなみにレフィルが冒険者登録後三日で【冒険者ガイドブック~新人冒険者の手引き~】を無くしたのは内緒である
「ヴァージル、そっちに行ったわよ」
「わかっている」
現在は森の奥で魔物討伐の真っ最中であった
討伐ランクBの二つの頭を持つ大虎
「ふっ-!」
ヴァージルは飛び掛ってきたデュアルタイガーの鋭い爪を大剣で弾くように躱すとそのまま袈裟斬りに大剣を振るう
だがデュアルタイガーの皮膚を浅く斬っただけだった
しかし浅いダメージだが痛みで一瞬動きが鈍るとリリアが放った矢が左目に刺さった
さらに仰け反った所にレフィルが剣を振るい前足を切り飛ばした
そして痛みでのたうち回る所をヴァージルが大剣で危なげなくトドメを刺した
「ふぅ」
小さく息を吐くヴァージルにリリアとレフィルが駆け寄ってくる
「とうとうBランク魔物討伐したね」
「それもわりと簡単にね」
「ほとんどヴァージルのお陰だけどね。レフィルも早く強くなりなさいよ」
「えぇ~!?僕も頑張ってるんだけど」
驚きはしゃぐ2人を見つめながらヴァージルも表情を緩める
「こいつで今月の治療費は足りるな」
「そうね」
「早くエルマノ良くなるといいね」
討伐部位証明の牙を取って、そんな会話をしながら街へ帰る一行
朝は冒険者ギルドて依頼を受けて、日が暮れるまでには街へ帰るが、時には数日がかりの依頼もある
街へ帰ると冒険者ギルドへ依頼完了の報告をして教会に寄りエルマノと会話をして宿に帰る
3人は休む暇さえ考えぬまま日々依頼をこなしていく
全てはエルマノの為に
そしてある日
冒険者ギルドにて依頼報告をしていたヴァージル達に、ギルドに慌ただしく入ってきた男が誰かを探すように辺りをキョロキョロ見回しているが、とある人物を発見すると急いで駆け寄る
「ヴァージルさんですか?」
男の視線はヴァージルで止まる
「そうだが?」
「エルマノさんが大変なんです!」
「--!?」
その言葉にヴァージルは冒険者ギルドを飛び出した
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