その一念に
気付けば太陽は、とっぷりと沈んでいた。
バチバチと今にも切れそうな音を立てながら、一斉に電柱の蛍光灯が明るくなる。すぐに
その様子を眺めていた一番合戦さんは、彼女がリュックを引き
「……今日はやめておくか。黒犬。あいつの目が気になる」
「……いつまでいるのかな?」
僕も声を潜めて言った。
「さあ……。二学期になる前には家に帰るだろうし……」
「あんたが繰り返すから繰り返すけれど」
背中向けてリュックを引き摺っていた彼女は、引き返して来ると言った。
近付いて来ていたのは分かっていたので、一番合戦さんは彼女に覚られる前に、姿勢を元に戻している。
「狐がいないなら、あんたを斬るまでよ」
足元にリュックを置いた彼女は、一番合戦さんに向かい合ってそう言った。
その目は矢張り真剣で、本気そのもの。
一番合戦さんは彼女を見ると、軽く肩を落として、鼻で息を吐く。
「……強さや剣とは、比べるものではないと思うが。既に常時帯刀者という時点で、一流の証は得られてる。現状最速で取得したな。ならもうそれで、十分じゃないか」
「あたしに程々なんて感覚は無いの」
彼女は呆れられていると分かっていながら依然として、真っ直ぐ一番合戦さんを見て続けた。
「組の運営にも現れている通り、
無名の田舎者に家の名を傷付けられたくないとか、そんなつまらないものじゃない。
誇りだ。この子を突き動かしているのは。
当然赤嶺としての誇りもあるだろう。このまま引き下がっては、代々炎刀型の大家として家を繋いできた先人達へ顔向けが出来ない。その家に生まれた者としても、有耶無耶のままでは終われない。そして何より、彼女自身が、許せないと言っている。
目を向けると、一番合戦さんは困り果ていた。何を言っても、彼女は話を聞かないだろうなと。
「戒める意味で決めたんだが……。因果なものだな。一月一八日とは」
「え?」
「悪いが、無用な剣は振るわないと決めてるんだ」
作ったようにさっぱりと、一番合戦さんは笑った。
「私は鬼討ではあるが、武人ではないからな。剣の道だとか武を極めるとか、悪いがそういう事に、興味は全く無い。お前のその心意気を馬鹿にする気も無いがな。寧ろ立派な事だと思ってる。私は、鬼討であれば……。――人と百鬼の間に立って、上手く互いのバランスを保てるなら、それでいいと思ってるんだ。帰るぞ九鬼。仕事も無くなったみたいだし」
一番合戦さんは背を向けると、すたすたと歩き出してしまう。
「え? 一番合戦さ……」
「はァ!? ちょっと待ちな……待ちなさいよ!? ここは乗る所だったでしょうが!」
「のーらーん。修行もいいが、夏休みの宿題ちゃんとやるんだぞ」
「お母さんか!」
「行こう」
手を取られ、引っ張られるように僕も歩き出した。
確かに身分上、彼女に近付くのは避けるべきだし、こうしてやっと離れられたのは、胸を撫で下ろしたのも事実ではあるけれど。
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