破落戸組
枝野組ぐらい古く、沢山の傘下を抱える組だ。
超実力主義体制が特徴で、組に属する全ての家が番付されており、古い家であろうと腕が落ちれば容赦無く順位が下がる。組の質を上げる為に競争を生み出し、封建的になりがちな鬼討の体質を嘲笑うかのような、現代的な組織運営だ。
だけならまだ他の組でもある話だが、長である赤嶺もその番付に入っているのが恐ろしい。一位から転落すればその瞬間から、長も降りて組の名前も変わるという、まあ不安定と言うか厳しい事この上無い仕組みなのだ。現に歴史ある組でありながら、何度か長の名が変わっている時期がある。
また最強の座にのし上がって取り戻せばいいのだが、その番付は何を基準に決められているのかと言うと、鬼討としての日々の仕事ぶり、ではなく、剣の腕。
兎に角強い者が上に立つ。仕事が無い平穏な日でも、位を賭けた決闘が日常的に繰り広げられており、いつか付いた渾名は『
今や名家と名を馳せようと、粗野な性分は変わらないと
「嫌味ったらしい紹介してくれてんじゃないわよ」
腕を組み直しながら言った一番合戦さんに、覚醒した彼女は捨てるように僕の手を離す。そして一番合戦さんに近付くと、腕を組んで睨み付けた。
「大体、こんな田舎で暇してるあんたに言われたかないわ。そもそもほっつき歩いてもないから」
「じゃあ何してるんだ」
暑苦しいと言わんばかりに、顔の横で虫でも払うような手付きをする一番合戦さん。
「修行よ」
彼女は腰に両手を当て、胸を反らすと得意げに言った。
「赤嶺の名を背負うに、相応しい鬼討になる為のね。ここには例の、
「……
眉を曲げた僕と同じく、一番合戦さんは訝しむ。
「いつから生きてるかも分からない化け狐よ。何にでも化けるわ、影から影へ好き勝手移動するわ、おまけに火が効かない事から『炎刀殺し』。元は恐らく
それって、あの人狐の事じゃ。
「いや……。今思い出した」
苦い顔をした一番合戦さんは、制するように片手を挙げた。
その表情は無意識なのか、意識しての事なのだろうか。顔に出やすいから後者だと思う。
呆れた彼女は、また腰に両手を当て直す。
「全く。あんたって仙人みたいよね。常時帯刀者ならお上が出してる手配書ぐらい、把握しておきなさい。数年前この辺りに入り込んだって噂を聞いたんだけれど、何か知ってる?」
「去年また入って来て、その時退治したよ。だから、もういない」
もういない。
そう言った一番合戦さんの声は、どこか重くてひんやりしていた。
「倒した?」
目を丸くする彼女。
「ああ。秋ぐらいにな」
持ち直した一番合戦さんは、冷静に答える。
「何か証拠は残してる? 毛とか爪とか」
「いや、もう綺麗に片付いてしまって」
「はあもったいな!? あれの討伐報酬幾らか知ってる!?」
余りに凶悪だったり危険な百鬼には国が懸賞金をかけており、退治した報告を上げれば報酬が貰える。人間で言う所の指名手配犯みたいなもので、目撃情報も日々求められているとか。
尤も、そこまで危険な百鬼の対応は
至近距離で大きな声を出され、煩げに半分顔を逸らす一番合戦さん。
「……だから、お上の知らせは把握してない。国の仕事は護国衆が当たるんだから、勝手にやらせとけ。向こうの怠慢に付き合う気は無いし、そんな大金を貰っても始末に困る」
「バッカ金じゃないわよ!」
一番合戦さんの冷めた態度に、彼女は一番合戦さんの肩をバシッと叩いた。
「何で武功を上げたって知らしめないのって言ってんの! 強い百鬼を倒して名を上げる! 鬼討の誉れじゃない!」
「赤嶺組の気風が全鬼討共通と思うな……。まあ、分からなくはないが。あと叩くな」
「ぶん殴った奴に言われたかないわよ」
それもご尤も。
まあ悪びれる様子は無い彼女に、一番合戦さんもそこまで本気で言った訳ではなかったのか、特に追及もせず話を戻す。
「まあそういう事だから、ここにお前の用は無いよ。早く帰れ暑苦しい」
「え? 無くなってなんかないでしょ? あんたがその
「…………」
常識みたいに言った彼女に、一番合戦さんは酷くもどかしそうな顔をして俯いた。
何で分かってくれないのかと、それはもう苦しげに。ていうかめちゃくちゃ面倒臭そうに。
それに気付いてない彼女は、また得意げに腕を組む。
どうやら彼女も一番合戦さんと同じく、腕を組む癖があるらしい。
「ふふん。いずれあんたとは決着を着けなきゃいけないとは思ってたからね。丁度いいわ。空いてる日を言いなさい。決闘よ」
「するか。大体お前、学校はどうした? まだ終業式は終わってないだろ?」
「期末テスト終わったら行く意味無いでしょ。時間の無駄」
「…………」
テストは終わっても出席日数には大きく関わる。だから僕らもこうして登校してる。
けろっと言い放つ彼女に一番合戦さんは、また難しい顔で俯いてしまった。
「あの……」
落ち着いたと見ていいのだろうか。
緊張感は消えたので、僕は恐る恐る口を開く。
「二人は、えっと、お友達で……?」
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